第43話 てめえで訊けや

(な、なぁ)


 隣の進美に小声で言った。


(何だよ?)


 同じく小声で返してくれる。


(お前、今の話知ってたの?)


 それを言うと……すごく冷たい目で見られた。


(……あのなぁ、自分の仕える主のことくらい知っておくのが臣下の務めだろ)


 勉強しろアホ、と言われてしまった……。

 きっつ……



 話はまだ続いている。


 惑星教は戒律がありません。

 そこが地球宗教……所謂地球教との大きな違いです。


 だから誰でも信者になれます。

 遠慮は要りません。


 信者はただ、この惑星ホシに恥ずかしくない生き方をすればいい。


 そういう宗教なのです。



 まあ、地球教ってほぼほぼ仏教なんだけどな。

 その他の宗教、地球から持ってこれなかったらしくて。

 キリスト教がちょっとだけ混じってるくらいか。


 ……そのくせ、クリスマスって意味不明のイベントあるんよね。

 信者の数ほぼ無いのに。

 由来知らなくて、調べて驚いたわ。キリスト教なのよな。


 ガキの時分にその辺の意味不明加減に気づいて、この国一体何なんだと思った思い出がある。


 でもまぁ……


 今はちょっとだけ、分かるかも。

 翔子さんと進美。

 この2人の女性に、自分の子供を身籠って貰った今では。


 ……まあ、大変だろうけど。

 子供にプレゼント、あげたいし。


 親の身としては、子供にプレゼントをする機会を増やしたい。


 そういう思いがあるのかも。


 そんなことを、講師の先生の話を聞きながら考えた。


 そして、隣を見る。

 進美は黙って講師の話を聞いていた。


 ……この話、進美には何か思うところがあっただろうか?




「入信するには何か必要なんでしょうか?」


「申し上げました通り、住んでるだけで基本信者です。入信の概念がありません」


 教化集会が終わった後、進美は講師に凸しにいった。

 ……ああ、やっぱ気にしてたんだ。


 自分が信者の資格無いんじゃ無いのかって。


 じゃあ、やっぱり連れて来て良かったな。


 


「来て良かった。ありがとな大河」


 んん、と伸びをしつつ進美は言った。

 まぁ、長時間座っていたからね。


「まあ、進美がそう思えたなら俺は嬉しい」


 こいつは良いヤツなんだから、不当な扱いを受けて欲しくない。

 俺はそう思いながら、横を歩く。


 ……あ、そうだ。


 俺は、思うところがあって


 進美の手を掴んで、ぐい、と引っ張った。


「わっ」


 引っ張って、人目の無いところに引っ張り込む。

 誰も見てない場所に。


 具体的には、鳥居から遙拝所の参道から外れた、木の陰。


 ……よし、ここなら誰も見ていない。


 左右を見回して確認する。


 俺は進美の肩に手を置いて、彼女を正面から見つめた。


 ……彼女は顏を赤らめて、目を逸らしている。


「……だから、オレの腹にはオマエのガキが……」


 しないって言っただろ! 前に!


「違うから」


 変な勘違いをしているから、誤解を解く。

 そしたら


「……じゃあ、何で?」


 俺に視線を合わせてくる。

 うん……ちょっとね……


「……陛下の魔力ってお前何か知ってんの?」


 気になったんだ。

 だから聞こうと思ったんだけど。こいつから。


 ……すると


「……それは陛下から直接訊くこったな。いくらオマエでも、オレの口からは言えん」


 ……スッと真顔になって、まっすぐに俺に言ってきやがった。

 うっ……忠臣……。


 その振る舞いに、俺はゾクッとした。

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