4章:山本久美子

第41話 魔界語講座

 ……この間の仕事で、魔界語があまりにも出来なくて。

 そのせいで、酷いことになったのがかなり気になっていた。


 なので


「なぁ、ちょっといいかな?」


「何ですか大河さん?」


 廊下で久美子に会ったときに頼んだんだよ。

 魔界語を教えてくれって。


 そしたら


「いいですよ。お世話になってますしね」


 ……そう言われて、ちょっと休憩室に連れてこられた。


 デスクとソファがあり。

 近くには自動販売機がある。


 俺の向かいに久美子が座り、話をはじめた。


「……まず、大河さん、魔界語検定は受けてますか?」


「……いや、学校にいたときに受けておいた方が良いとは言われてたけど」


 ……魔界語検定……1級取ると、ガス会社や石油会社などのエネルギー企業に就職しやすくなるって言われてるから。

 取りたいなぁ、って思うときがあった。


 でもさ


「音の脱落とか、連結とか、同化とか。よく分からんのよ……」


 正直な気持ちを口にする。


「ああ、そこで脱落する人多いですよね……」


 俺の言い分に、久美子は頷いてくれた。

 そして


「……私が付き合ってあげますから、ゆっくり勉強していきましょうか」


 そう、言ってくれた。




 で。

 なんで俺は、転写用の部屋に連れ込まれてるんだろうか?


 ふたりで部屋のベッドに腰掛けた。

 座りながら久美子が


「ここならいくら声を出しても外に出ませんし」


 いや、まあ、そうだけど……


 ん~


「……別に良くない?」


 そう、口にする。


「何がです?」


 ……ここで「どうせセックスするんだし」とか言うの。

 ちょっと最低な気がする。


 だから


「何でもない。お願いします」


 お願いした。




「まあ、慣れて頭に回路が出来るかどうかがポイントなんですよ」


 うん……そう言われてはいるけどさ。

 回路って何なの、ってホントそう思う。


 で、書き言葉での魔界語と、話し言葉での魔界語。

 その違いを説明してもらう。


 ……頭がぐるぐるしてきた。


 なので


「なぁ」


 思わず、息抜き目的で


「なんです?」


「……何で魔界語って、文字が無いのに辞書があって、その辞書の言葉と話し言葉が違うのさ……?」


 ……まあ、これは前から思ってたことなんだけども。

 英語なら分かるよ? あれはちゃんと文字あるし。

 でも、話し言葉しか無い言葉で、それはおかしくない……?


 そしたら、久美子は「ああ、それはですねぇ」と言って


 教えてくれたよ。


「……初代皇帝の時代に「動物の言葉を解する獣医師」の魔力を持つ魔力保持者が居て、その人が一生かけて魔界語の辞書を作ったんです」


 ああ、そういうこと……。


「そういう話、惑星教の教化集会に参加すると色々聞けて面白いですよ」


 そんなことを教えてくれる。

 へぇ……


 進美を誘ってやったら、喜ぶかな……?

 迷惑がるかもしれないけど。


 ……と。

 久美子に指導を受けてるときに、他の女のことを考えるのはちょっと失礼か。




「……魔界語では、殺す、死なせる、狩猟する、倒す……これが全て『イーガ』って言葉で表現されるんですよ」


 魔界語のリスニング技術向上講座の合間に、そんな話をした。

 久美子のそんな話に、俺は


 うん、知ってる。


 そう思った。

 俺さ、リスニングは全然できないけど、読み書きは出来るから。

 当然単語は覚えてる。


 勉強してた当時は


「魔界語、他者の命を取る行為を1つの単語に纏めすぎてないか?」


 って思ってたけど。

 それが一体何なの?


 大雑把な言語ってことじゃないの?


 そしたら


「……これはですね、彼らにとって、他者の命を取る行為は全部同じ価値、意味合いであるってことの現れなんですよ」


 まず、魔界語をメインで話す種族である魔族には、一般的に恨むことや怒ることがないので「殺す」が無い。

 あるのは「死なせる」「狩猟する」「倒す」だけ。

 で、この3つについて、行った後の対応が同じだそうで。


「彼らはどういう理由であれ、命を奪った相手の死骸を食べます。それが例え、代替わりの決闘の結果倒した相手である、我が子や親であっても」


 だから、区別する必要が無いんですね。だから同じ動詞なんだと思います。


 ……だって。

 久美子は本当に、よく考えてるよ。

 四天王になってから、王城の資料を見まくってるんだな。


 ホント、感心する。


「久美子、キミは本当にすごく勉強するよね。そういうとこ、尊敬するよ」


 そう、正直な気持ちを口にした。

 ……彼女は嬉しそうだった。

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