第39話 魔力の謎

「……タタカウ ニンゲン センシ」


 ……今のは聞き取れた。

 こいつ、日本語も話せるのか……と一瞬思ったが、多分それだけしか日本語知らないんだろうな。


 ……戦うのが好きなのか。こいつは。

 だから俺に分かる言葉で話したのか……?


 ……だが、今はどうでもいい。


 俺は左手を斬鉄剣から離して、魔族男性に向かって火炎放射を行う。

 いきなりだったためか、魔族男性はまともに喰らった。


「グアアアアッ!」


 火だるまになる。

 だけど、これでは倒せない。

 それぐらい、分かってる。


 この隙に、斬首だ。


 俺は踏み込んで、火だるまになって苦しんでいる魔族男性の首に向かって一刀を放った。

 両手が邪魔だけど、斬鉄剣なら腕ごと首を刎ねられる。

 いける……!


 そう、思った。


 だが


 魔族男性の姿が、消えた。


「……え?」


 リビングの外から、声が聞こえる。


「大河さん! 後ろです!」


 久美子の声。

 俺はとっさに、本能的に前に飛び込んだ。


 次の瞬間、俺の立っていた場所に、連撃拳が襲って来た。

 喰らってもまあ、平気ではあるのだが……


 これ、一体何なんだ?


 身を起こして、男を見る。


 ……作務衣が焼け落ちて、全裸になっていた。

 ものすごい筋肉だったが……


 その身体、一切の火傷が無い。

 火だるまにしてやったのに。


 ……俺、消火してないぞ?


「リズ エフ マセル アター?」


 魔界語。

 ……まずいな。言葉が分からないの辛いぞ、地味に……


 すると


「何故攻撃が通じない? と言ってます!」


 ありがとう久美子!

 俺は屈んだ姿勢から、突っ込んで逆袈裟の斬撃を繰り出した。


 まともに喰らう魔族男性。

 ざっくりと腹から胸に斜めに斬れて、血を吹き出し……


 ……俺は目を疑った。


 いや、この攻撃が魔族にとって致命打にならないのは理解していた。

 そういう問題じゃない。


 ……


 ……超再生の魔力?


 一瞬、それを考えたが……違う。

 そうじゃない。


 それは魔力としてショボすぎる。

 魔族は元々どんな負傷でも、1時間程度で必ず完治する。

 そんな超回復力を持っている。


 それの速度がちょっと早いだけの魔力で、こいつ代替わりの決闘……つまり、成人式を勝ち抜いたのか?

 絶対に成人してるよな、こいつ……。


 ちょっと、無理がある気がする。


 そしてしばらく考えた。

 考えて……


 ふと、気づいた。


 ……あ……そうか。


 こいつ、時間を早回ししてるんだ。

 だから、ワープしたみたいに動くし、傷もすぐ治る。

 そういうことか……!


「マセル ピエム レイド」


 また魔界語。


「俺の魔力は凄いだろう、と言ってます!」


 久美子のサポート。

 ……ありがとう!


 多分、俺の予想で合ってるな、発言内容からすると。


 こいつを倒すには……不意打ちしか無いんだけど……。


 そうすると……


 あ!


 俺は声を張り上げる。


「久美子! この魔族の男の死角から使い魔3体嗾けて、押さえつけろ!」


 手としては汚いが、それしか俺には思いつかない。

 3体がかりなら、こいつを拘束できるかもしれない。

 俺自身も、念動力で手伝う。


 で、強制的に打ち首の姿勢を取らせて、首を刎ねる!

 拘束したらいくら時間を早回ししても逃げられない!


 これだ!


 そしてこいつには日本語が通じないから、今の発言は理解できないはず。

 だから俺は大声で言ったんだ。


 ……だが、それが不味かった。

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