第38話 エビデンスを出せ
「カクマル マセル ヴァーン メント」
「ザト メント エーラ!」
「ヨウ メント レクト デンス」
……久美子が魔族の男と交渉している。
例によってなんて言ってるのか分からない。
ただ……苦戦してるみたいだ。
表情を見てれば分かる。
そこにあるのは焦り。血の気が引いている。
これは上手く行ってない……
「……イーガ」
そう言って、のそりと立ち上がる。
テーブル席から立って、両手をまるで熊か何かのように構えて。
そして無造作に近づいてくる。
久美子は真っ青な顔をしていた。
さすがに、気づく。
「久美子、下がって」
久美子は頷くと、リビングの外に飛び出していく。
……多分、外に隠れて、使い魔を飛ばして援護してくれるはず。
俺は頭の片隅でそう思いながら、今、テーブル席から立ち上がって来た魔族の男に向き合った。
……デカイ。
2メートルはある。
緑色の髪は、切ってないので長い。そういう感じだ。
意識して伸ばした結果では無い。
そして顔は野性度が高い。わりと美形。
で、例によってそんなに凶悪には見えない。
俺は斬鉄剣を抜いた。
そして脇構えで構える。
……斬首しないと倒せない。
そういう話だったよな。
もしくは、頭を完全に破壊するか……
そんなとき、久美子の声が聞こえてきた。
「その魔族の男、角丸を人類の代表であると思い込んでいます! それを否定しても、お前の言うことが正しい証拠が無いなの一点張り!」
ああ……悪魔の証明みたいなことを要求されたのか……心中を察する。
大変だったね……。
「対話は不可能です! 戦うしかありません!」
……ここで、進美が居れば一発なんだけどな。
角丸を洗脳して、全部嘘を言ってましたと言わせれば証明できるんだから。
……でも、今はそれを考えている場合じゃ無いな。
居ないんだもの。
そして、じりじりと近づこうとした。
相手が何をやって来るか分からないから。
自分の身体の無効化能力を過信して無謀になるべきじゃない。
斬首の横薙ぎの間合いに入ったら、一撃入れる。
そう、考えながら摺り足で動いていたら。
……突如
魔族男性の姿が目の前にあった。
まるでワープして来たみたいに。
……え?
そして次の瞬間。
胸に複数のパンチを受けて、吹っ飛ばされた。
ただ本能のまま、連打した。
そういう攻撃だ。
手突きだが、基礎筋力が人類の数倍で、その上男だ。
それだけで、多分常人は深刻な負傷をする攻撃だと思う。
……俺はネメアの獅子の魔力で、ただ皮膚が痛いだけなのと、衝撃で吹っ飛んだ以外は全く何のダメージも無かったが。
壁に叩きつけられて、俺は斬鉄剣を正眼に構え治す。
……これ、何だ?
俺、今何をされたんだ……?
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