第37話 野性度高いね

 久美子がこの鍵をなんとかするという。

 ……どうするんだろうか?


 俺は見守る。

 仲間だし。


 すると彼女は……


 使い魔を1体、出現させると。

 それをハエサイズにまで縮めて、その鍵の掛かっている引き戸の向こう側に潜入させる。


 ……うん。

 そこまでは出来るのは知ってる。

 そのサイズになると、ホンの小さな隙間を潜り抜けていくイメージだから。


 そして


 そのガラスの引き戸の向こうに、人影が出現した。


 ワッ! 見つかったのか!?


 ……と、思ったら。


 引き戸がそっと開かれた。

 向こうから。


 ……そこに居たのは、人型の使い魔だった。


 ああ……

 そういうこと……


 俺、頭硬いな。


 ハエで抜けさせて、向こう側で人型にすればいいんだよ。

 ガラス引き戸1枚分なら、充分射程内だし。


 ハエは抜けられる。人型は開けられる。

 この使い分け。


 ……やっぱアンタ、賢いと思うなぁ。


 そう、してやったりみたいな表情をしている久美子を見て、俺は素直にそう思った。


 


 角丸邸別宅に、土足で上がり込む。

 マナー違反ではあるが、しょうがない。

 遊びで来てるわけでもないし。


 確か、この別宅のリビングに魔族男性が匿われているんだよな……。


 ちょっと、奥を覗く。


 ……リビングに、明かりがついている。


 あそこか……


 そっと、近づいて


(久美子)


(はい)


(もう一回、中を覗いて)


(分かりました)


 ……そして俺は、もう一回確認してもらった。


 すると


(……居ます。食事してます)


(角丸も一緒です)


 分かった。ありがとう。

 頷き、俺はリビングに飛び込んだ。


 中にはテーブル席で焼いた肉の塊を手づかみで食べている、野性度の高い、緑色の長髪のデカイ男と。

 その傍に突っ立っている、スクエア眼鏡を掛けた、痩せ気味の男がいた。

 スクエア眼鏡は、引き籠ってそうな黒いパーカーと、同色のズボンを身に着けていて、手にはノートパソコンを持っている。


「……お前、誰だ?」


 スクエア眼鏡……おそらく角丸……は、あまり慌てず、俺の姿を携帯端末を取り出して撮ろうとしてきた。


 直感的にまずい、と思ったので、俺はそれを念動力で毟り取るようにして奪う。

 ……壊すのは、情報を取れなくなるからなぁ。

 そして適当に放り出す。


 いきなりそんなことをされたので、角丸は混乱していた。


 その隙に、踏み込んで斬鉄剣の峰打ちで殴り倒した。

 ドサリと倒れる角丸。


 魔族の男はポカンとしていた。


 ……あとはこいつか……。


 この魔族の男、服装が違ってて。

 普通は貫頭衣なんだけど。

 こいつは藍色の作務衣だった。

 元のは汚くなったとか、そういう理由だろうか?


「カクマル ヴァーン ニンゲン エーラ?」


 そんなふうに、魔族の男の格好に一瞬意識が逸れたとき。

 いきなり分からない魔界語で話しかけられてしまう。


 や、ヤバ……!


 会話できないのに、どうしたら……?


 そのときだ


「カクマル ヴァーン ニンゲン エーラ!」


 久美子が横から魔界語で返してくれた。

 ……助かった。


 この人を連れて来て、心底良かった……!

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