第36話 華族の屋敷にて

「オレは屋敷内に監禁されたオンナたちを解放しに行く。オマエらは魔族の男をなんとかしろ」


「りょーかい」


「分かりました」


 ……久美子の使い魔で屋敷の構造と、攫われた女性たちの居場所、魔族男性の居場所について把握すると。

 俺たちは行動を開始した。


 かつては皇帝陛下の寝所に忍んだこともあった、って昔話をしただけあって。

 進美の潜入技術は大したもんだ。

 だから、彼女に任せておけばおそらく問題は無いんだろう。


 ……こっちは問題だけどな。

 まあ、警備は少ないらしいから、あまり心配はしてないんだけど。


 俺はともかくとして。

 久美子がね……


 四天王のうちで、ぶっちぎりで一般人に近いから。


 だって前職図書館の司書だもの。

 魔力はすごく優秀な人なんだけども。


 ……でも、彼女がいないと魔族男性と話ができないからなぁ。

 俺がしっかりサポートしないと。


 夜の闇の中、俺が先に進み、安全が確認出来たら久美子を呼ぶ。


 それを繰り返して、先に進んだ。

 俺たちがいるのは、屋敷の庭。

 そして目指すのは、屋敷の離れに建つ別宅。


 そして進んでいくと。


(久美子、ちょっと待って)


 行先に、汚い身なりの男が数名、たむろしている。

 華族の屋敷に似つかわしくない連中。


 ただ、練度が低いのか、おそらく本来の仕事であろう警備そっちのけで、酒を飲んで賭け事で騒いでいる。

 俺は賭け事には詳しくないので断定はできないけど……


 やってるのは、チンチロリンじゃないかなぁ?

 お椀使ってるし、サイコロ使ってるみたいだし……


 ……どうする?


 脇を通り抜けるか……?


 しばし考えて……


 こうすることにした。


「あ、何してんだテメー!」


 1人の行動が、チンチロリン会場に危険な空気を醸し出す。


 参加者のひとりが、お椀を手で思い切りはたき飛ばしたのだ。


「うえ?」


 だがやったヤツは呆気に取られた顔をして


「あれ……? おかしいな? 手が勝手に」


「俺の出目がそんなに気にくわないのかよ! ふざけんな!」


「ひょっとして、いかさまがばれそうになったとか、そんなんじゃねぇだろうな?」


「ハァ!?」


 念動力で連中の手を動かし、チンチロリンを台無しにする。

 ……たったそれだけのことで、連中の間の空気が、どんどん不穏なものになっていく。


「だいたいよ、お前クズだもんな! 事ある毎に、俺は会社社長の跡取り息子だったけど、社会がおかしいせいで勘当された、だとかいらねえマウントとりやがって!」


「はぁ!? 他人の身の上話に勝手に嫉妬するお前の方がクズなんじゃないのかゴミが!」


 ……勝手に喧嘩をはじめた。


 お互いを罵り合い。殴り合い寸前の状態でいがみ合ってる。

 ……多分、今なら気づかれなさそう。


(久美子、来て)


(はい)


 そして俺たちふたりは、警備たちのマジ喧嘩の横を通り抜け、別宅に辿り着いた。


(……さて)


 別宅。

 中は電気が点いておらず、暗い。

 そっと、引き戸を確かめてみたが……


(鍵が掛かってるな……)


 これ、進美がいたら余裕で開けてくれたんじゃないかという、妙な信頼感あるけどさ。

 居ない以上、方法を考えねば……


 壊すのは最終手段として……


(大河さん)


 そっと、久美子が俺に囁く。

 ちょっとだけ、驚いてしまう。


 彼女はやる気溢れる顔で


(ここは任せてください)


 そう、小さい声で言い切った。

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