第31話 サービスあっても良いと思うんです

「最終的に収まるところに収まれば、何も問題ないんですよ」


 はじまりが人に言えない状態でも、最終的にちゃんとしていれば。


 山本さんはそう俺の心を言い当てる。


 そして……


「ああそうだ」


 山本さん、腰に手を当てて


「……私ね、陛下からこの転写の計画のお話をいただいたとき、最初に考えたこと、なんだったか教えてあげましょうか?」


 山本さんの声はちょっと強めで、意地が悪い響きがあった。

 俺は何のリアクションも返せない。


 彼女は続けた。


「……国のために絶対に受けないといけない? ……残念ながら違いますね」


 ちょっとだけ、薄笑いを浮かべながら


「正解は……転写における男性役が、そのために妊娠させられても耐えられる人間かどうか? ですよ」


 なんて、ショックを与えるつもりで言っている風に言うんだけど。


 ……別にショックを受けなかった。

 そんなもんだろ。


 ……俺だって、今回の仕事、美人ばかりだから受けたところが無かったか? と言われれば、否定は絶対にできないさ。

 だって人間だろ? それが普通だ。


「でも、国のために、恋愛なしで抱かれる覚悟を決めたのも事実だろ?」


 だからそう、自然に口に出来た。

 そうすると、彼女の顔の意地の悪めの笑みが消える。


「……ああ、もう。励まそうとしてくれてるんだな。ありがとう」


 ……何だか、笑えて来た。


 ククク、と笑い声を嚙み殺すと


 向こうも、噴き出した。


「……折角、だけど今はあなたのこと普通に男性として好きですよ、って続けようと思ったのに」


 そしてそんなことを、楽しそうに言ってくる。

 ……ありがとう。


「ああ、本当に……ありがとう。ぐだぐだ先のこと考えて、今のこの気持ちを処理しないと先に進めないって思ってた俺が馬鹿なんだな」


 本当に……楽になったから礼を言った。

 すると山本さんは


「藤井さんは馬鹿じゃ無いですよ」


 とても賢い人だと思います。


 笑顔でそう言ってくれる。


 ……本気にして照れるからやめてくれんかね。


「山本さんの方が賢いと思うぞ……? いつも冷静だし。……それに自分に厳しいと思うし」


 そう言うと


「……例えば?」


 お……?

 そう来るとは思わなかったから、少し詰まったが


「賢いのに、自分に厳しいから無意識に使い魔を便利使いして歩きをサボる発想が出なかったところ」


 この間のポカミスを持ち出した。

 すると、ちょっとだけ彼女の顔色が紅潮した気がした。


「……あれは本当に痛恨のミスですよ……」


「そういうのに人格が出るんだよ。山本さん」


 ……と、そう言ったら。


「久美子」


 ……ん?


 俺がちょっと理解が追い付かなくて戸惑うと


「……名前で呼んでください。久美子」


「……えっと」


 言っちゃなんですが、あなたとはまだ何もしてないですよね?

 いやまあ、将来絶対にするんですけど。


「そのくらいのサービスあっても良くないですか? ただでさえ、不利な状況から始めるんですし」


 ずい、と顔を近づけながら。


 う……


 ま、まあ……キミが良いなら……


「久美子」


「はい! 大河さん!」


 満面の笑み。

 ……形から入れ、ってことなのかね。

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