第28話 超速理解

「山本さん、タイミングだけ図ってくれ」


「分かりました」


 俺の後ろに控えてくれる、山本さん。

 工場内部に、使い魔を潜ませている。

 俺の計画は、突入してオーガを斬り捨てる。

 そしてそのまま、工場長に突撃し、殴り倒して拘束する。


 これを速やかに実行できる状況。

 それを実行可能な位置関係。

 そのタイミング。

 それを図ってもらうつもり。


「……」


 山本さんが集中してくれている気配が伝わってくる。

 そしてその時間がだいぶ続いた気がする。


 そのときは、急に来た。


「今です!」


 OK。俺はドアを力任せに引き開けて、全力で踏み込む。オーガまでの距離……3メートル!


 急にドアが開き、俺が突撃して来たので、オーガは対応できず硬直している。

 この時間は長くない。俺は足に意識を集中し、駆ける。


 トッ、トッ、トッ!


 居合腰を固め


 ……抜き付け!


 真横への斬撃。


「グギャアアアア!」


 俺の一刀で、オーガの腹が掻っ捌かれた。

 だが、俺はそのとき、自分の考えが甘かったことに気づいた。


(……悲鳴がここまでデカいとは、考えてなかった!)


 絶対に、工場長に伝わる!

 逃げるかもしれん!


 だが、だからといって止まっているわけにはいかない。


 俺はそこから斬鉄剣を大上段に構えて、斬り下ろす。

 腹の傷を含めて、十文字。


 顔面から腹部まで縦の斬撃を受け、オーガの目がくるりと裏返る。

 そしてどぅ、と倒れた。


 ……急がないと!


 俺は走った。

 走る。


 途中で、残りの2体のオーガがのそり、と姿を現し、襲い掛かろうとしたが


 俺は無視した。

 どうせ……


 オーガの鉤爪が俺の頭を叩き潰そうとしたが、俺には通じない。

 確かに引っ掻いたのに全く何の効果も無いので、オーガが戸惑っている。


「邪魔だ」


 俺はそんなオーガの1体に斬鉄剣を振るい、その足を切断し、そいつを歩行不能の状態に追い込む。

 その先に、居たからだ。


 窓から逃げようとしている、身なりのいい男が。


 ……まずい。

 外に出られたら追跡は難しいかもしれない。


 外の状況が分からないから。


 逃がすかッ!


 俺は飛び出そうとした。

 だが……


 俺の足首が、巨大な手に捉まれた。

 腕力がすごい。ライオンの筋力でも振りほどけない……


 クッ


 こいつの手を斬り落とすのは、ちょっと位置的にやり辛い。

 どうすればいい……!?


 そのときだ。


 唐突に、思いついたんだ。


 あ、そうか……


 


 俺はそれに気づき、即座に実行に移した。


 念動力は、本人の筋力で実現可能なことにしか使えない。

 イメージの力だから、そういうルールなんだ。


 つまり、20キロのものしか持ち上げらない人間には、20キロが限界で。

 100キロのものが持ち上げられる人間には、100キロのものを持ち上げられる。


 俺はどうだろうな……まあ、人間の筋力じゃ無いからね。

 まず、150キロは余裕だろう!


 そして射程は視界。視認できるものであれば動かせる。

 俺は逃げようとしている工場長に念動力を使った。


「え……?」


 急に動けなくなったので、戸惑っている声が聞こえてくる。

 ……拘束完了。


 そして念動力で力任せに引っこ抜き、こっちに投げ飛ばした。

 転がる工場長。


 そのとき俺の足を掴んでいるオーガが、激しく燃え上がった。


「アギイイイイ!」


 オーガの手が緩む。

 俺は工場長に向かって飛び出し、倒れ伏しているその背中を力いっぱい踏みつける。


 ……そして、振り返った。


 そこには前に構えた両手から激しい炎を放射している翔子さんがいた。

 

 ……普通だと延焼が気になるが、火炎使いの能力で出した炎は、意思の力で消火できるから大丈夫だな。


 ……全部、分かってしまった。説明なんて1回も受けてないのに。

「火炎使い」と「念動力」の能力。


 トトトトと、進美が走り寄って来た。

 そして工場長の耳元で何か囁いた。

 多分、洗脳ワードだな。


 俺は、しばらく翔子さんと見つめ合う。

 何でこんなことになったのか、理解しているけど……


 実感が、まだ湧かない。


 そんな俺に、翔子さんは言ったんだ。


「……転写が起きたのね」


 ……自分のおなかに手をあてながら。

 そのときの彼女の表情は、戸惑いと、あと寂しさがあった。

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