第27話 桃太郎さんの魔力

 俺たちは山を歩いていた。

 この先にある、ある建物が目的で。


「きび団子の密造工場の、工場長の拘束、か」


「ちょっと聞くと馬鹿みたいに思えますけど、洒落にならないですからね」


「……無駄口叩くな。気が緩み過ぎだぞ」


「……シッ。見えて来たわ」


 俺たちは図書館でのちょっとしたデートから、一気に仕事に引き戻された。

 翔子さんからの呼び出しがあったせいで。


 ……きび団子密造工場が発見されたから、その工場長を拘束しろ。


 きび団子。

 平凡なお菓子。


 だけど……俺も気にも留めてなかったんだけど。

 実はこのお菓子、勝手に作ると捕まるんだ。


 何故か?


 新人教育で、地球帝国に敵対している反社会勢力についてのレクチャーがあったんだけど。

 そのひとつ。


 赤い牙という組織。

 民主化組織だ。

 皇族の抹殺と、身分制度撤廃を目指しているという。


「ふざけたやつらだぜ。陛下がどれだけ国民のために心を砕いていらっしゃるか理解していないんだろうな。てめえの能力不足による不遇を、身分制度だとか、皇族方に他責して誤魔化しやがって」


 進美が吐き捨てるように言った。


「……リーダーの百田鶴来ひゃくたつるぎが魔力保持者。その魔力は桃太郎。本人の身体能力の向上と、他人にその使用目的を説明した上できび団子を作らせることで、そのきび団子を「動物限定で食べさせたものを下僕にしてしまう」効果を持つマジックアイテムに変えてしまう能力」


 復唱するように言う翔子さん。

 これからの仕事について大切なところを理解させるためだろうか。


 ……つまり。

 何が何でも工場長を逃してはいけないんだ。

 そいつ、百田に「魔法のきび団子を作ってくれ。魔界で魔物を下僕にするために使うから」という説明を受けた人間。

 平たく言うと、赤い牙のメンバーだから。


 そこで、進美が山本さんを見て


「とりあえずさ……山本、頼む」


 山本さんの使い魔による内部の調査。

 これはまず、最初にしておかないとな。


 俺は眼下に広がる、きび団子の密造工場を見つめていた。




「……内部構造は大したことは無いですね。ただ、警備員なんでしょうか……オーガが3体飼われています。あとは、身なりのあまり綺麗じゃない男性作業員が数名……この人たちは工場長と多分違いますよね……あ!」


 山本さん、ハエサイズに縮めて、送り込んだ使い魔から得られる情報を、語ってくれる。

 俺たちはそれをじっと聞いていた。


「ひとり、明らかに衣服がちゃんとしている男性が居ます! おそらくこの人が工場長だと思います!」


 少し、興奮気味に彼女。


 ……よし。




 オーガは、廃屋を装ったきび団子密造工場の、3つの出入り口を内部で見張っているらしい。

 ピクリとも動かず、直立不動で見守っているそうな。


 オーガ……魔界の魔物。

 外見は、2本脚で直立した巨大な猿。

 筋肉質で横幅がある体格。

 人肉を好んで食べる。

 そして言葉を持たない。


 ハイテクの警備システムは無いみたいだけど。

 このオーガの監視は意外に侮れない。


 ……どうするか?


「おい藤井」


 俺が建物の出入り口の傍に立ち、行動を悩んでいると。

 進美が俺を呼ぶ。


「……進美、何かいいアイディアあるの?」


 すると


「オレ、簡単な鍵なら開けられるぞ?」


 ……んーと


 つまり、このドアが鍵が掛かっていたとして。

 その鍵を進美は開けられるかもしれない。


 そういうことか。


「……是非頼む」


 鍵があった場合、ドアを斬るしか方法無いかと思っていたのに。

 こじ開けられるなら、そっちの方が絶対良い。


 すると


「分かった。任せろ」


 そんなことを言って来た。

 それがちょっと嬉しそうで……


 こんなときになんだけど。

 少し、可愛いと思ってしまった。


 進美は、懐から何か、針金みたいな道具を取り出して……


 鍵の有無を確認し、その後ドアの隙間に差し込んで、なんかガチャガチャやってる。

 針金を使って、ドアの裏側の鍵のつまみを捻ろうとしているのか?


 ……多分これ、泥棒の技術だよな。

 そんな技術持ってんだ……


 それがちょっと不憫だったのと、仲間のために躊躇い無くそんな技を使ってくれてることがありがたくて……。

 なんか、心の距離が縮まった気がした。


 そして見守っていたら……


「……OK。開いたぞ」


 振り返って、仕事を完了したことを伝えてくる仮面の少女……進美。


 ……ありがとう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る