第26話 神話って何?

「……本の森。星の本棚って感じだな」


 山本さんと一緒にやって来たのは、都立図書館。

 山本さんの古巣だ。


「地震が起きるとまずいよなぁ……って思ってました。いつも」


 オーバーオールを合わせた、ちょっと少年っぽい衣装で決めてきた山本さん。

 山本さんは清楚なイメージなので、少し意外だったけど……


 似合っていた。


 俺は図書館ということなので、落ち着いた感じの無地の紺色シャツに、同じ色のスラックスを合わせておいたのだが。

 さて


「今日はどういうご予定で?」


 俺は彼女に聞いた。

 すると彼女は


「神話について調べたいと思ってるんですよ」


 ……なるほど……神話か。




 一緒に、神話関係の本を探して、集めてくる。

 そして、図書館に据え付けられている数人掛けソファに2人で腰掛けて、本を見ていった。


「神話とそうでない物語って、境目が良く分かりませんよね」


 本を見ながら、山本さんがそう言う。

 俺としてはその意見は


「地球時代に語られてた物語である、って括りじゃまずいの?」


 そういう感覚なんだよな。

 そしたら


「一部大作家の作品は、未だ神話系魔力での発現が確認されてないです。そういうの、神話化してないんじゃないですかね」


 でも、神話系魔力になるとマズイ作品って結構あるんですよね。例えば究極生物アルティミット・シイングだとか。


 ……うん。あれはまずいよね。

 絶対に死なないし。

 そんな魔力所持者が出てきたら、俺たちどうすればいいんだろう?


「昔は神話は神様の物語であり、原初の歴史書って言われてたみたいですけど、今は意味が違ってて。……面白いと思いませんか?」


 彼女の言葉。

 ホント山本さんは、色々モノを考える人だな。


 俺はそんな彼女に対して


「思う思う。でもさ、昔は昔で、西遊記の内容を神話というか、伝説の物語だと勘違いしてた人、結構居たと思うのよ」


 こう返した。


「かもしれませんねぇ。……あ、そうそう。藤井さん」


 ここで、彼女は俺を見上げて


「……王城の秘蔵図書を読んだんですけどね。……ちょっとお耳を」


 ……耳を貸せと?

 まぁ、貸すけど。


 俺は耳を彼女に寄せる。すると


「……神話系魔力って、魔族には発現した例は見受けられないらしいんですよ。……これは多分、彼らが物語……創作をする能力が無いってことが原因になってると思うんです」


 へぇ、面白いな。

 俺は素直に感心した。

 そういう分析ができる彼女の知性に。


 そしたら……


「だからね……神話系魔力こそ、人間に与えられた特別な魔力なんです。だからもっと、自分に自信持ってください。……藤井さん」


 ……急に褒められた。

 嬉しいね。


「ありがとう。そうするよ」


 そう、俺は彼女に返した。

 ……この間、翔子さんに窘められたけど。


 謙遜も過ぎると間違いになるって。


 ……今は納得はできるんだよな。


 間違いだろ。間違いなく。

 でないと、そんな男に抱かれた翔子さんや、将来抱かれることが決定づけられてる山本さんはどうなるんだ。


 ……自分を下げるのが必ずしも謙虚ってわけじゃないんだよ。

 だから、俺は彼女の言葉にそう返したんだ。


 そのときだ。


 俺と、山本さんの携帯端末が震えたんだ。

 マナーモードにしてたから。


 ……通知を見ると、相手は翔子さんだった。

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