第24話 忠誠心の理由

「じゃあ映画行くぞ。観る映画はノライヌスレイヤーでいいな?」


「ノライヌスレイヤー?」


 お互い制服から私服に着替えて、1時間後に王都の噴水広場の前で集合。

 その約束で、落ち合った。


 俺はまあ、みっともなくないように、黒系統のシャツとズボンで揃えて来た。

 ちなみにあまり考えては来ていない。時間無いしな。


 それに、コイツはそれでいいって言ったんだし。

 知るか。


 で……


 進美は、ストリート系のファッションで来た。

 英語がプリントされたシャツだとか、破れジーンズだとか。


 ……うん。こいつは多分駄目だと思う。

 男を落とす意図が感じられない。


「野良犬に姉を嬲り殺しにされた主人公が、野良犬専門の駆除屋になって、それだけで銀等級の保健所職員になる話だ」


「野良犬がちょっと狂暴すぎねぇか?」


 これから観る映画の内容について話し合う。

 こいつの反応なんかどうでもいい。


 だってこいつがそう言ったんだし。どこでも良いって。


「まぁいいや。行こう」


 言って、映画館に向かって歩き出す進美。

 

 ……その前に。


「なぁ」


 呼び止めると、進美が振り返る。

 俺は言った。


「……マスクは外そうか」


 ……髑髏マスク、つけたまんまなんだよなぁ。




 俺が言うと、進美はしぶしぶマスクを外し。

 近場の眼鏡屋で、サングラスを購入し、それを掛けた。


 ……どうしても素顔は嫌なんか。

 なんでやねん。


 そして映画館に行き。

 2人分の席のチケットを買い、映画を見た。


 ……すごく面白い映画だった。


「最後の野良犬王が、主人公のノライヌスレイヤーに追い込まれて、これからは人間の迷惑にならないように気をつけて生きていきますワン、て命乞いするシーン、すごいカタルシスだったよな」


「……野良犬駆除にあそこまで燃えるとは思わなかったよ」


 なんか盛り上がった。


「面白かった。また行こうぜ。オレとオマエ、映画の趣味が似てるのかもしれん」


 進美がそんなことを口にする。

 それはまあ、嬉しい。

 絆が深められるなら、そんなに良いことは無いし。


 俺たちは、喫茶店でそういう話をしていた。

 そして今、進美はジュースをストローで飲んでいた。


 ……ふと、訊いてみたくなった。


「なぁ」


 進美の目がこちらに向く。

 ちょっとだけ、躊躇いがあったけど。


 悪いことを訊くつもりは無かったから。

 訊いたんだ。


「……お前さ、何でそんなに皇帝陛下に対する忠誠心高いの?」


 俺がコイツを好きになった理由でもあるんだけど。

 不可解な部分でもある。


 猫科の動物みたいな人間性なのに。

 忠誠心なんていう、真逆の精神性を持っているのが。


 そこをさ、知りたかったんだよ。


 そしたら


 進美、少しだけ考えている風で

 こう、言って来た。


「皇帝陛下に屈服したからだよ。全面的に」


 ……え?


 彼女は続けた。


「オレさ……元々犯罪者なんだよ」


 そこから聞く話は悲惨な話だった。

 底辺層の平民の父に、同じレベルの平民の母。

 その間に生まれた自分。


 物心ついた直後から、犯罪に利用され続け、最終的に売春させられそうになったときに、魔力に目覚め。

 その力で、闇の社会で成り上がっていったという。

 ……それを聞いたとき、俺は自分の周囲の正義を疑いたい気持ちになった。

 俺の知らないところで、そんなことが起きていたんだな……。


「でな、調子こいてたオレは、陛下を自分の傀儡にしようと思って、寝所に滑り込んでみようと考えていた……」


 とんでもないことを考えるな……


「で、実行したら上手く行ったんだけど……最後で躓いた」


 なんと。

 それまでのステップで、洗脳しようと思った人間は全員洗脳できたのに。

 皇帝陛下だけはそれが出来なかったらしい。


 それで


「当然、処刑されるものと思っていたら、陛下に「死なせるのは惜しい方ではないでしょうか?」と持ち掛けられて。命を救われた……」


 ……ふむ。


「そこからだよ。陛下を貶める言動が許せなくなったのは」


 ……

 なるほどな。


 お前の気持ちは、分かった気がする。

 貴重な意見、ありがとう。


「……まぁ、そういうのは分からなくもない。俺は残念ながら、そういう環境に無いけど」 


 そういうと、ほんの少しだけ嬉しそうにしていた。


 ……素顔を出したがらないのも、どうもそのせいらしい。

 自分が底辺層の犯罪者だと指摘されると、陛下の恥になる、って。


 ストローで飲み物を吸い上げながらそんなことを言う彼女。

 今の彼女に、そこに至るまでどれほどの苦労があったのか。


 ……このことで、また俺は、こいつのことが好きになった気がする。

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