第22話 等身大魔族

 石油採掘施設に到着した。

 岩だらけの土地に、ポツンと立つ近代的な施設。


 ……確か、職員は危ないから今は退避してるんだっけ?


 だから、ここに今いるのは……


 俺は見回した。


 ……居た。


 施設から少し離れたところ。

 そこで、焚火をしている人影がいた。


 3人だ。


 ……全員、弥生時代風の貫頭衣。

 はい。ここで彼らの正体ほぼ確定。


 頭の色は、ピンク1人、金髪2人。


 ピンク髪が女。金髪のうち1人が女。もう1人が男。


 その3人、焚火囲んで何か喰ってる。


 ……傍に、アホほどデカいイノシシの死体が転がっていた。


 多分、あのイノシシの肉を焼いて喰ってるんだな。

 あいつらが仕留めたのか。


 ……ピンク髪がこっちに気づいた。

 こっちを見て、指差して叫ぶ。


「ア! ニンゲン! エゼル!」


 ……吊り目で八重歯。そして長髪。

 見た目はそんなに凶悪そうに見えないんだけど。


 まぁ、だから情報操作されてて、好戦的な野蛮人って話にされてるんだろうけど。

 変に敬ったり交流しようとする奴が出ると困るから。


「スズキ! ニンゲン アース チョコレート」


「イア ラスト ナベ!」


 金髪女魔族に、ピンク髪が何か言われてる。

 ……ピンク髪はあのグループでは下位の存在で、金髪に命令をされているのか?


 そしたら


 ピンク髪魔族が、ずんずん寄って来た。

 ……襲ってくる気か?


 俺は腰の斬鉄剣に手を掛ける。


 すると


 ピタリ、と魔族の歩みが止まった。


 そして


「……ロミス チョコレート リア?」


 ……表情が読めない。

 そういや、こいつら怒らないんだっけ。


 何を言ってるんだ……?


 そう、俺が対応に迷っていると


「……イーガ!」


 そう、宣言するように言い放ち、目の前の魔族は、天に向かって片手の掌を突き上げた。

 その掌の上に、輝く光の円盤が出現する。


 ……魔力!


 ……直感的に、俺はそれが当てたものを切断する魔力だと気づいた。


「ジーオ!」


 言いつつ、投げ放つ。

 フリスビーのように、俺に向かって飛んでくる。

 

 飛んで躱すわけにはいかない。

 後ろの人間に当たるかもしれない。


 だから俺は……


 腰を落とし、刀の鯉口を切った。


 居合の姿勢……。


 そして、間合いに入った瞬間、抜き放ち。

 逆袈裟の斬撃を光のフリスビーに命中させる。


 その瞬間、光のフリスビーは両断され、消えた。


「ピエム イサー!」


 魔族はそれに興奮しているようで。


「クスト アター!」


 今度は両手の掌を突き上げて、2つの円盤を……


 そのときだ。


「ロミス チョコレート エゼル!」


 俺の後ろから、山本さんが大きな声でそう叫んだ。


 その瞬間。

 魔族は手を下ろし、円盤を消した。


 そして


「ニンゲン オク」


 ……言葉は分からないけど。

 彼らから戦意が消えたことだけはなんとなく分かった。




「トス エルト ナチ ムシバ」


「ムシバ! アーチ フェン ムシバ」


「アーチ フェン ムシバ ナチ ハミガキ」


「ハミガキ! アーチ ハミガキ イアウ」


 ……魔族3人と、山本さんが魔界語で話し合っている。

 例によってリスニングが全くできない人間には、何を言ってるのか全く分からない。


 しばらくしたら、話がついたのか山本さんが戻って来た。

 魔族3人も、立ち去って、焚火の始末とイノシシの死骸の片づけに入ってる。


「……ご苦労さん」


 戻って来た山本さんを労う。

 すると


「……ありがとうございます。全ては、単純な誤解だったようです」


 さっきの会話の話かな?


「彼ら、何が言いたかったの?」


 だからまあ、確認をした。

 すると


「……なんかですね、最近彼らの部族で、歯が溶ける病気が発生したとかで」


 ふむふむ


「その病気になったら、歯をいちいち素手でぶっこ抜いて、再生させるしかないので、非常に厄介。で、原因がどうもチョコレートっぽい。これはどうしたらいい? ……そういう質問をしに来たんです。彼ら」


 えーと……


「訊くとですね、寝る前にチョコレートを食べると気持ちがいいのでそれが流行りだした。それから急に増えてきた、とかで」


 うん……


「誰も虫歯になったことがなかったんで、彼らは虫歯を知らなかったんです。多分、虫歯が発生しても、深刻化する前にその個体が代替わりの決闘で敗れて死ぬので、気づかなかったんでしょう」


 ここで、山本さんは大きくため息をついた


「だから、歯を磨けと教えておきました。全く……人騒がせな先住民族ですよね」


 うん……そうだね。


 ホント……ご苦労様。

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