第20話 はじめての共同戦闘

 魔族は洞窟だとか、岩陰にだとか。

 建築物以外の場所に住んでいる。

 というか、住居を作る習慣が無い。


 なので。


 魔界には基本的に建築物が無い。

 あったとしたら、そして俺たち人類の中の誰かがやったのだ。


「代わり映えのしない景色ですね」


 使い魔を変形させた馬に揺られながら、山本さんが言った。


「まあ、見晴らし良くて不意打ち喰らわなくていいわ」


 その後ろで、同じ使い魔の馬の背に跨っている翔子さん。

 山本さんだけの負荷だと、使い魔のパワーが余ってるので、どうせなら、と。

 山本さんが自発的に「乗ってくれ」と言ったのだった。


 まあ、歩くのは辛いしな。


 なので、歩きは俺と、あと石油施設の職員の人だけ。

 女性陣は、使い魔馬。




 そうしてちょっと歩き続けていたら。


 でかい岩山の傍を通りかかった。


 ……何か出そうだな。

 そう、思うが。


 ぐるるる……


 唸り声。


 果たして。

 その通りになった。


 岩山の陰に、デカイ化け物が潜んでいた。

 魔物だ。


 のそ……と出てくる。

 それは


 ライオンによく似ていた。

 ただし、大きさは5メートルはある。

 そして


「マイル プレ ザン ダー ドノハ!」


 背中に山羊の頭。

 それが何か喋ってる。


 そして尻尾。

 蛇だった。

 先端に、毒蛇に見える頭がついている。


「……キマイラ」


 俺はこの魔物の名前を呟いていた。


「……あのキマイラ、何て言ってるの?」


「3日ぶりの美味しそうな獲物だ、って言ってますね」


 乗馬組の女性たちが、さっき山羊の頭が喋っていた魔界語の内容で会話していた。


「あ、そう」


 山本さんの言葉を聞き、戦いが避けられないと思ったのか。


「職員の人、離れていてください」


 翔子さんは、馬からひらりと降りた。

 俺も、腰の刀に手をやる。


「イア ムー アグリイイイ!!」


 山羊の頭の叫び声。

 そのまま、キマイラが俺たちに飛び掛かって来る。


 そしてその鉤爪を俺に振り下ろしてきたのだが。


 ガキィ!


 それが受け止められた。


 急遽割り込んで来た、山本さんの使い魔によって。


 その使い魔は、射程を伸ばすためか、2メートル超の巨漢の姿ではなく。

 180センチあるかないかの、若干の縮小がなされていた。

 けれど、それでもキマイラの鉤爪を止めるぐらいなら楽勝のようだ。


「山本さん、すまない!」


 俺は礼を言い、踏み込んでキマイラの側面に回り込み。

 素早く、尻尾の蛇を斬り落とした。


 ピュアアアアアア!


 蛇が、変な断末魔の叫びをあげた。


「イア トイル インぺェェェ!」


 それに対してか、山羊の頭が騒ぐ。


「何で言ってるの?」


 翔子さんがキマイラとの距離を測りながら質問する。


「尻尾が痛いって言ってますね」


 冷静に、山本さん。


 ……なかなか、良い感じだよね。

 俺たち。

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