第18話 本気になるなよ?

 俺が童貞を捨ててから数日が経った。

 そしてその間、終業後翔子さんと毎日練習した。


 お世辞かもしれないけど、翔子さんは


「あなた、毎回成長しているわ。この分だったらすぐゴム無しで出来るわよ」


 そう言って励ましてくれる。

 ……それがすごく嬉しくて……


 まずい。どんどん好きになっていく……


 何考えてんだ、俺。

 仕事でやってるのに、気持ちを入れてしまうなんて……。


 あの人は人妻で、仕事で俺と仕方なく子作りしてるだけなんだから。

 そこは自覚しないと……!


 俺はそう、王城で廊下を歩きながら考えていた。


「どうしたの?」


 そこに。

 後ろから翔子さんが話しかけてきた。


 俺は動揺したが、その動揺を隠しながら


「……ああ。おはようございます」


 ドキドキしていた。

 ダメなのに……


「ちょっと今日は話があるわ。会議室に集まって」


 ……話?

 何だろう……?




 会議室に入室すると、既に他のメンツが集まっていた。


 仮面姿の少女……佐倉進美。

 セミロングの眼鏡の女性……山本久美子。

 そして……翔子さん。


「人数が揃ったから、はじめるわね」


 言って、打ち合わせがはじまった。


 翔子さんが資料を配る。

 A4の紙に印刷された文書。


「そこに書いてあることだけど」


 ……魔界の一部に、石油採掘施設を建設しているそうな。

 その地を縄張りにしている魔族に、どうやってか話をつけて。


「翔子さん」


 俺は訊く。

 疑問点だから。


「なぁに? 藤井くん?」


 翔子さんが俺に応えてくれる。

 ちょっと俺は嬉しくて


「魔族とどうやって話をつけたんですか? 脅しが利く相手では無いはずですよね?」


 声が弾んでいるのが自分でも自覚できてしまう。

 ……まずいな。


 翔子さんは俺の質問に


「……お菓子よ。その地域の魔族は以前、通りすがりの魔界探検家を狩ったことがあったそうなんだけど、その人の持ち物を漁っていたときに偶然ミルクチョコレートを見つけて……」


 興味本位でミルクチョコレートを食べ、その美味さに感激したらしく。

 しかも、食べたのが魔王の地位にいる魔族。


 その事実を偶然知り「チョコレートを定期的に提供する代わりに、石油を採掘するのを見逃して欲しい」

 そういう契約を持ち掛けたら、あっさり通った。


「……お菓子で懐柔されるのか……」


 ちょっと、意外。

 まぁでも、運が良かっただけなんだよな。


 たまたま魔王が、チョコレートの美味さを知ってて。

 それをたまたま政府の交渉役の人が気づいた。


 偶然の産物。


「で、何が問題なんですか?」


「それは資料に書いてるわ」


 おっと


 俺は資料を読み直す。

 読み直していると……


「……オイ」


 ちょんちょん。

 そんな俺を、進美が指先で突いてくる。


 ……何?


 彼女は、俺をジト目で見つめていた。

 そして、こう言ったんだ。


「……オマエさ。小石川とヤったのか?」


 ドキッ、とした。

 事実だけど……


 どうしよう……


 そしてちょっと考えて


「……ああ」


 認めることにした。

 俺たちの関係は、隠すことじゃない。

 何故って、仕事の一環だし。


 皇帝陛下を多重魔力所持者にするという仕事で、避けて通れないこと。


 すると


「……ふん」


 なんか、面白くなさそうな声を出して。


「……アイツ人妻なのを忘れんなよ? 本気になったら地獄だからな?」


 そう、釘を刺してくる。

 ……そんなこと、分かってるわい。


 誰が人妻を本気でNTRしようなんて考えるか。

 そんなことしたら俺は破滅してしまうわい。


 華族にNTRの慰謝料を要求されたら、それは一体何千万円になるのやら。

 恐ろしくて想像すらしたくない。


「当たり前だろ」


 だから進美への返答は、その一言で済ませた。

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