第16話 私で練習しなさい
「せせせせせ」
「藤井くん、落ち着いて」
小石川さんは冷静だった。
その表情も、真面目そのもの。
彼女は言ってくれた。
条件を満たしたら、速やかに行動を起こさないといけないって。
「いい? 転写は仲間意識を持ててる関係性であれば、妊娠すれば起きるから」
私に関してはもう、満たしているの、あなたは。
そう言ってくれる。
「だいたい、私は陛下との謁見の段階で、真面目でモラルの高い人間だという印象を受けたわ。そして……」
不平士族の事件解決。
進美ちゃんに対して、彼女のサポートを完璧にこなしてくれた。
仲間の意図を汲んで、望む結果に導いてくれた。
素晴らしい、の一言だったわ。
だったら、もうはじめるしか無いわよね。
それに……
「藤井くん、怒らないで聞いて欲しいんだけど、童貞でしょ?」
真顔で、美女に、童貞を指摘された……
どどどど童貞ちゃうわ!
そう脊髄反射で答えてしまいそうだったけど。
ここで見栄を張っても仕方ないし……
「は……い」
認めた。
すると
「……その状態でセックスの主導権を握るなんて無理よね。だからよ」
ふぅ、と溜息をついて、こう言ってくれたんだ。
私で練習しなさい。
「無論、最初は避妊するわ。当たり前よね。今転写が起きても私に転写されるだけだし」
別室。
何に使う部屋なのか。
ベッドと小物入れの引き出しがひとつずつあり、それだけ。
掛け布団も何もないベッド。
何のための寝具なのか。
この状況なら、まあ分かる。
「ゴムは用意してるから心配しないで」
そう言って、小箱を取り出す。
ベッド脇に置いてある小物入れの引き出しから。
ゴムの箱……
……よくよく考えたら。
この転写による多重魔力保持者作成はさ、絶対代々の皇帝が即位するときにやってるはずなんだよな。
だったら、こういう部屋があっても全然おかしくないんだよな……。
「さて、しましょう。……先にシャワーを浴びて来て」
……シャワーあるのか……。
見回すと……あったわ。
さらに別室。
多分、あのドアだな……。
そして、シャワーを浴びてきた。
素っ裸でベッドに腰掛けて俺は待っていた。
彼女を。
彼女が今、シャワーを浴びていた。
……俺は思う。
こんな形で童貞を失うなんてな……
いつか、なりゆきで出会ったどこかの女性と恋愛関係になって童貞捨てるって漠然と思っていた。
そのせいで、この年齢で童貞。
同年代のヤツは、プロの女性を買ってさっさと捨ててるのにさ。
そのせいで、今日、恥を掻いたわけだ……
うう……
と、グチグチ考えていると。
シャワーの音が、止まった。
……来る!
俺の心臓が、不規則に脈打つ。
ガチャ、とドアが開いた。
「……お待たせ」
彼女が……小石川さんがやってきた。
バスタオルを1枚巻いた状態で。
そして、俺の隣に座る。
こう、事務的な口調で言いながら。
「……さて、頑張ってみましょうか」
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