第14話 魔族について

「大活躍だったみたいね」


 パトカーを見送った後。

 小石川さんにそう言われた。


 ……労われたのか。

 俺。


「どうも。まぁ、たまたまです」


 頭を下げる。

 そう。たまたま。


 たまたま、日頃からムカついてるから、分かっただけなんだけど。


 そしたら


「謙遜は不要よ。他人の役に立つことを常に念頭に置いているから、動けたのよ。あなたは」


 そう言われて、労われた。


 そこに


「藤井さん!」


 山本さんが駆け寄って来る。

 そのまま、俺の前まで来て


「佐倉さんに聞きました! 全部藤井さんのお陰だって!」


「全部は言い過ぎ」


 何度も言うけど、たまたまだ。

 内部の状況を全部分かってたから、断行できたところもあるし。


 内部で犯人が殺気立っていなかったから、ああいうことを持ち掛け出来たんだよ。




 そして王城に戻って来て、教育の続きを受けた。


「私たちの目的を理解するために、絶対に知っておかないといけないことだけど」


 また、ホワイトボードの前で小石川さんが話す。

 字を書きながら。


 今度書いた文字は……魔族。


「魔族についてよ。……まず、魔族についてどの程度まで知ってるかしら?」


 えっと……


 俺が自分の記憶を掘り起こしていると

 山本さんが手を挙げた。

 

 そして、こう言った。


「黒色以外の頭髪を持ち、黄金色の瞳を持つ。それ以外は私たちと一緒の外見。性格は好戦的でおおよそ文明といえるものを持たない野蛮人。人類と比較にならないレベルの高い身体能力を持ち、加えて全員例外なく魔力を持っている。そして言語として魔界語を話す」


 ……うん。そう。


 この「黒以外の頭髪」ってのが、俺が小石川さんに同情の目を向ける理由でもある。

 金髪はさ、どうしても魔族をイメージさせてしまうから。

 印象悪いんだよな。


 だから、小石川さんみたいな、白人の血を引いてしまってる人。

 偏見に耐えられなくて、黒に染めている人も居るんだよ。気の毒なことに。


 小石川さんは、そんな魔族の知識を聞き

 普通に頷いていた。


 そして


「……うん、まあそれが、一般的な魔族の知識よね」


 彼女はそう言うと


「……例によって、その情報は正しくは無いのよね」


 そして話してくれた。

 正しい「魔族」を……


 まず。

 外見は一般イメージの通り。

 黒以外の色の髪。そして黄金色の瞳。

 ここまでは一緒。


 正しい彼らは……


 衣服としては、地球時代の歴史教育で出てくる弥生時代の人々が身に着けていた貫頭衣に似た、簡素な衣服を身に着けているらしい。

 なので、一応文明みたいなものは持っている。


 身体能力は、人類の数倍。そして高い再生能力を持ち、頭を完全に破壊するか、首を切断されない限り絶対に死なない。それ以外はどんな怪我を負おうと、1時間もすれば完治する。

 生殖能力は、人類より高い。妊娠期間1カ月。そして生まれて1年で成年に達する。


「ちょっと待った!」


 俺は思わず手を挙げた。

 訊かずにはいられなかったから。


「……そんな化け物相手にして、何で俺たち絶滅しないでいられるんですか!?」


 ……まだ聞いてないけど、この後絶対「そして例外なく全員魔力持ち」これが続くはずだ。

 そんなの、絶望的じゃないか!


 なんで俺ら、駆逐されないで生きてられるんだよ!?


 そう思ったから訊いたんだが


 それについては


「それはね、彼らの精神性のせいよ」


 冷静に、教えてくれた。


 彼らは倫理観も法律も持たないけれど。

 その代わり「恥」の概念がある。


 このせいだそうだ。


 食べるため以上に生命を摘まないし、自分が昔何かしら被害を受けても、その加害者を恨まない。

 食べきれないほどの食物を狩るのは強欲であり、恨みを引きずるのは見苦しい。

 そういう行為を恥であると考えているらしい。

 だから、やらない。


 んん……?


 それって、すごく高潔な精神なのでは……?

 野蛮人どころか、俺たちの方がダメなのでは……?


 そう、思っていたら。


「……ほら、そういう顔するでしょ? それが問題なの」


 そして小石川さんは続けた。

 彼らはこういう概念持ってるけど、基本行動原理が「弱肉強食」で「倫理観ゼロ」なのよ。


 可哀想とか、同情するとか、禁忌感とか。

 そういうのが、無いの。


 ……だからね


「彼らは、私たちを良い食糧って思ってるわ。簡単に倒せて、食いでのあるいい獲物だって」


 絶句。

 だから共存できないのか。


 なんでも……


 彼らは人類と精神構造が違っていて、部族をひとつの生命体単位と考えていて。

 俺たち人類が、仲間を捕食されたら何故怒るのか理解できないらしい。

 というより……


「彼らにはおそらく怒るっていう感情が無い」


 自分の番の相手や、子供を殺されても


 ああ、弱かったんだな。


 そういう感想以外持たないそうだ。

 許せない、が無いんだと。


 ……とんでもないな。


「んでね。おそらく近親交配による遺伝子異常も彼らには無い」


 何故なら……


 これは彼らの習性の話なんだけど。


 彼らも男と女があり、普通にセックスして子供を作るんだけど。

 妊娠出産しその後1年経って成年に達したら。


 男なら父親と。女なら母親と。

 殺し合いを行い、勝ち残った方が新しい夫、妻の位置に収まる。

 そういう行為を彼らは成人の儀式として行っている。


 ……つまり、子供を作ったら1年後自分が殺されるかもしれないのに、何の危機感も持たずに子育てをして、その運命を受け入れている。

 これはどうやら、より強い個体で部族を構成するためにやっているらしい。……人類には全く理解できない精神性。


 加えて。

 夫役に息子が成り上がったら、母子相姦。

 妻役に娘が成り上がったら、父子相姦。


 そうなるはずなのに、彼らには遺伝子異常が起きている様子が無い。


 ……恐ろしい奴らだ。

 つまり、どんなに数を減らしても、一組の男と女が生き残れば、復活できるってことじゃないか。


「……そんなだから、生殖能力ものすごいのに、彼らはこの惑星を埋め尽くすほどの数にならない。増えた分だけ減ってるから」


 そのせいで、彼らは縄張りを拡大する必要が無い。そうしなくても生きていけるから。

 ……何か地殻変動が起きて、彼らの部族のどこかが生活不能の状況にでも追い込まれない限り、多分この地球帝国に魔族が攻めてくることは無いだろう。

 そういう話だった。

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