第13話 悪い奴じゃ無いな

「おーい! 分かった! キミらの要求、一部は叶えられそうなんだわー!」


 俺は大声でそう呼び掛ける。


 すると


「マジか?」


「証拠は?」


「嘘じゃ無いだろうな?」


 訝しがる声が聞こえる。

 まぁ、信じられんだろうね。


 だから


「……そりゃないだろう。陛下に直接打診するのがどれだけ大変だったか」


 こう言ってみた。

 そのとき、隣の進美の目が釣り上がる。


 ……陛下の名前を出して嘘を吐いた、ってことで怒ってるのかな?

 それについてはちょっとだけ予想してたから


(四天王出動って陛下にお願いするんじゃないの?)


 小さい声でそう言った。

 そしたら、彼女の中で解決できたのか、大人しくなる。


「叶えて貰える俺たちの要求って何だー?」


 奥から、男たちの声。

 食いついた。


 要求している以上、叶えられると言われたら気になるわな。


「華族みたいになりたいんだろうー? 俸給貰える立場にー?」


 俸給……給料の総称だね。


「マジか……?」


「歴史が動いたのか……?」


「おおお……」


 ……喜びの声。


 ここで


「……信じられないかもしれないけど、ここに誰でも良いから確認するヤツを寄越してくれよ。5人もいるなら1人は出せるだろ?」


 こう言った。

 ……多分、通る。


 不平士族どもが、何に不満を抱いてるのかは腐るほど聞いてるから俺は知ってるんだよな。

 散々ムカついていたから。たまたまだ。


 すると……返事が無い。

 なるほど……だったら……


「士族のくせに、ビビってんですか? 皇帝陛下の勇敢な家来の末裔なんだろ?」


 これでスイッチが入った。


 奥からのそのそという音が近づいてきて。シャッターについてる、用途のよく分からない小窓がバチッと開き。


「……証拠を見せろ」


 髭面の、汚いおっさんの顔が飛び出して来た。

 ……今だよ


「オレに従え」


 その瞬間だった。

 おっさんの目が虚ろになった。


 進美の魔力の言葉が、このおっさんを生きた人形に変えたのだ。

 この状態は、命令待ち受け状態らしい。


 ここで囁いた言葉は、おっさんの深層心理に刻まれ、おっさんの中で絶対の真実になる。

 それを疑うことも出来ないし、それが命令であったなら、それを破ることもできない。


 俺はおっさんに言った。


「なあ、キミらの望むものがここにあっただろう? 仲間たちにも伝えてやってくれないか?」


 ここで隣に目配せする。


「俺たちも一緒に行くから」




「……こっちだ」


 こうして。


 俺は進美と一緒に汚いおっさんの案内を受けていた。

 あの後、別の出入り口を開けさせて、俺たちは中に入ったんだ。


 銀行の奥に連れていかれる。


 ほどなく、人質が捕らえられている場所に到達した。

 

 ……山本さんの言ったとおりの配置と状況だった。

 小さいおかっぱの女の子が、男たちのひとりに捕まって、いつでも首を切られそうな状況になっている。

 可哀想に。真っ青だ。


 だから


 俺は隣の進美に目配せする。

 彼女は大きく息を吸い込んだ。


「お、九双男、どうだった?」


「マジの話だったか?」


 そう、仲間の姿を見て声を弾ませる男たち。

 そんな男たちに、この声が響いたんだ。


「オレに従え!」


 ……その瞬間、男たちの動きが止まった。




「……畜生騙しやがって!」


「汚ねえぞ! これが臣下の末裔にやることか!?」


 手錠を掛けられた犯人たちが、俺たちを涙目で罵っている。

 拘束したから、洗脳を解除した途端これだ。


 だから俺は言ってあげた。


「嘘は言って無いぞ? これからキミらは、華族みたいに、国からの俸給をいただきながら働くんだから。刑務所で、だけど」


 そしたら


「ペテンだ!」


「華族は仕事なんてしてねえだろ!」


 そう言って、喚く喚く。


 華族は仕事……してるよ。

 とびきりキツイ仕事をね。


 これは機密事項だから口には出さなかったけど、俺は心でそう反論した。


 そうして、パトカーにドナドナされる連中を見送っていると。


「……ありがとう……助かった」


 進美が俺に礼を言って来た。

 ……なんか居心地悪いな。


 たまたま、なのに。


「……キミは魔力が強力過ぎるから、一撃必殺を狙いすぎなのかもしれないね。小出しで使っていくやり方も、覚えた方がいいと思うよ」


 俺はそう言って、照れ隠しをした。

 すると進美に


「……フン! オレの方が先輩なんだからな。調子に乗るなよ」


 やり過ぎたのか、そんなことを言われてしまう。

 ……気分屋だな。


 まあ、陛下への忠誠心は本物だから、きっとそんなに悪い奴じゃないとは思うんだけど。

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