2章:小石川翔子
第11話 四天王の実力
不平士族……?
人間のクズどもじゃないか。
俺は士族だから、ああいう奴らは許せない。
士族であるから警察と軍隊への就職で優遇されているのに。
それ以上の権利を求める。
自分たちへの俸給とか。
自分で稼げ。
……求めるばかりで返す気が無い。
本当にどうしようもなく醜い奴ら。
許せない。
「……今、研修中だが、それでも行って良いんだな?」
連絡に来た近衛兵の男に確かめる。
そこに
「ええ……。行きましょう。それが陛下の願いなのよ」
小石川さんが水性ペンをホワイトボードに磁石でくっつけて。
出ていく小石川さん。
そんな彼女に、俺と山本さんはついて行く。
小走りで。
廊下で進美と合流し、用意されていた車に乗った。
俺と山本さん。小石川さんと進美で2台に分乗。
時間にして数分か。
王城からそんなに離れていないところにある、銀行。
今は事件のせいか、シャッターが下りている。
到着すると、警察官が数十人、集まっている。
皆、どこかに連絡を入れたり、呼び掛けたりしている。
「犯人たち告ぐ! 地球帝国の外は魔界だぞ!? 逃げられないんだぞ!? 諦めて投降しろ!」
警官が拡声器で必死で説得しているんだが。
向こうが
「うるせえ! 逃走用の車と、現金と、あと女を寄越せ!」
「俺たちだって陛下の家来の末裔なのに、華族と扱いが違い過ぎるんだよぉ!」
……クズが。
華族はそれだけの仕事してるから優遇されてるんだ。
そんなことも知らないで、文句ばかり言いやがって……!
ムカムカしてくる。
小石川さんの話を聞いたことで、俺はそういう思いがなお強くなった。
そして俺がイライラしていると。
集団から、人が1人駆けて来た。
「ご苦労様です! 四天王の方々! 助かります!」
警察の偉い人っぽい人。
そんな人が駆け寄って来て、挨拶して来た。
「……状況と、相手の装備は?」
小石川さんが、その偉い人を問い質した。
すると
「人質は10人です。うち、1人は子供です。犯人たちは5人。日本刀2振りと、軍用ライフル3挺です」
……なるほど。
「内部の情報は分かってますか?」
ここで、山本さんが問う。
警官は
「……申し訳ありません。内部の情報までは分かってません」
申し訳なさそうにそう言い、ぺこぺこと頭を下げる。
その言葉を聞き
「……分かりました。じゃあ、そこからですね」
山本さんは、スッ……と目を伏せて。
意識を集中するような仕草を見せたとき。
山本さんの足元の影が、震えた。
そう。震えたんだ。
空の太陽は動かないのに。
ズズズ……
次の瞬間、山本さんの影から、全身真っ黒の身長2メートル超の巨漢……それが3体現れた。
これは……
俺は山本さんを見つめる。
彼女は目を開いて。
「私の魔力は『影使い』……自分の五感を共有する影の使い魔を作る魔力よ。このサイズの使い魔を3体まで作ることが出来るわ。そして、この使い魔なら動かす射程は大体1メートル……」
すらすらと説明してくれる。
なるほど……
「それでどうするの?」
射程1メートル……ここからじゃ、銀行に届かないと思うんだが……
どういうことだ?
俺はさっきの謁見の間で、彼女のことを信じていたので、何かあると思ってはいたんだけど。
分からないから訊いたんだ。
すると……
「まあ、落ち着いて。話はまだ終わってないんだから」
そう、薄く笑って。
彼女は何かを念じる表情をした。
その瞬間
しゅるるる……
巨漢の1体が、みるみる小さくなって。
ハエみたいな飛行生物に変化した。
……!?
彼女は、言った。
「……このサイズまで縮めれば、戦闘能力は皆無だけどね、射程が爆発的に伸びるわ。……5キロくらいかな?」
おお……!
ぷぅ~ん、という羽音を立てて、飛行生物が飛んでいく。
彼女は目を閉じている。
……モノが影だけに、僅かな隙間があったら潜り込むことが可能なのかな?
俺はそう、彼女を見守りながら考えた。
すると
「……中で刀を持った男が、子供を人質にしてるわね。ライフルを持ってる男たちは気を抜いてるわ。狙撃みたいなことはされないと思ってるみたいね」
……内部情報、完全公開。
これはすごい魔力だ。
四天王に選ばれること、あるな……
すると
「……オレが人質代われればそれで終わるんだけど」
そこで進美が提案してくる。
……そうなのか?
多分、そういう魔力なんだろうな。
そう、頭の片隅で考えて
「でも、その仮面つけたまんまじゃ、人質交換は無理が無いか?」
俺は思ったことを指摘した。
すると……
彼女はちょっと迷う仕草を見せて
こう言った
「……万一、見覚えがあっても、いちいち指摘すんなよ?」
そういって、彼女はアイマスクを外した。
……そこにいたのは……
なんか、人の悪口を日常的に言ってそうな。
具体的には「ざーこざーこ」って言ってそうな。
そんな、可愛い少女だった。
仮面でちょっと気が回らなかったんだが。
そこで彼女の髪型にも気づく。
……似合ってる。
肩に触れるか触れないか。
そのあたりで切り揃えている、黒髪。
「……なんだよ。じろじろ見んなッ!」
……そう、じっくり観察していたら。
文句を言われてしまった……。
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