第10話 転写の真実

 俺たちの四天王入りが正式決定した後。

 俺たちは、新入りだったので、別室で基本教育を受けることになった。

 ……どうも、学校教育では「あえて」全てを語らず、誤解させることで真実を悟らせないような事実。

 そういうのが結構あるらしく。


 一人前の四天王になるため、そういう誤解を解く教育を受けることになった。


「まず、転写についてね。良く聞いておいてね。大事なことだから」


 講師を務めるのは小石川さん。

 壇上に上がって、ホワイトボードに「転写について」と水性ペンで書いていく。


「転写が起きる条件は、一般ではこう言われているわね」


①その男女が相互に信頼関係があること。

②その男女関係で、パワーバランスが大きい方に小さい方が所持する魔力が転写される。


 ……そう、箇条書きで条件を書いていく。


 真剣に聞く俺たち。

 俺の隣の山本さんは板書をノートに凄い速さで写していた。

 ……王都の図書館でバリバリ働いていたイメージに合うなぁ。

 司書って板書関係ないかもしれないけど、イメージ的に。


 そんな山本さんの様子を見ていた小石川さんは、ここで問う。


「では①だけど、信頼関係ってどういう関係だと思う?」


 その質問に。

 スッと手を挙げた。


「それは、男女間の愛情を指すのでは?」


 思ったまま、口にする。

 すると


「それも間違いじゃ無いわね。……完全じゃないんだけど」


 ①の条件の下に男女の愛と書き、そして


「実は、これでもいいの」


 仲間意識。友情。

 こう、書き込んだ。


 ……なるほど。

 これを知ったら、転写のハードルがだいぶ下がるな。

 それでも、人妻相手は避けたいが。


 多分、この情報を学校で教えないのは、魔力保持者が気軽に「多重魔力保持者作成」を計画する危険性を考えて、だろうな。

 転写が起きる関係性は男女の愛だけだと考えていれば、サークルクラッシュを覚悟しなきゃいけないくらい、倫理的にアレなことをしなきゃいけないし。


 そう、心で頷いていたら、続いて②の話になった。


「②だけど、パワーバランスの大きさ、という抽象的な表現しかしてないわね。具体的に言ってない。これについては……」


 小石川さんはその下に書いた。


「具体的に言うと、そのセックスにおいての主導権。つまりリードしている方にされている方が持つ魔力が転写される」


 ……なるほど。

 つまり、おねショタではお姉さんがショタの魔力をコピーして。

 ショタおねなら、ショタがお姉さんの魔力をコピーしてしまうと。

 そういうわけか。


 ……と、ここで。


 スッと、山本さんが板書を写すのをやめて手を挙げた。


「はい。質問?」


 ええ、と山本さんは答えて。

 眼鏡の位置を直しながら、こう訊ねた。


「……それはつまり、右から左に魔力が流れるという風に覚えればいいんですね?」


「そう。その通り。呑み込みが良いわね。素晴らしいわ」


 小石川さんは満足そうに頷く。

 ……?


 右から左に流れる?


 女子だけに通じる、何かのスラングなんだろうか?


 ……と。

 俺が謎の言葉に首を捻っているときだった。


 バタン!


 その、新入り教育に使っていた会議室に、誰かが慌てて入って来た。


「申し訳ありません皆さん! 緊急事態です!」


 それは俺たちに似た、近衛兵の制服を着た男だった。

 その男は、泡を食っていた。


 このことを伝えるために


「不平士族が人質を取って銀行に立て籠もってます! 四天王の皆さん! 出動してください!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る