第8話 私、やります

「念のために、って……」


 思わずそう言ってしまうと


「……念のために強い魔力保持者を作っておくことがそんなに変か?」


 そこで再び。

 小柄な少女……進美が言ったんだ。


「いざ魔王が襲ってきたら? そのときに『来ると思ってませんでした』と何の準備もしてないのが国家の在り方か?」


 ……う。

 俺は反論できなかった。


 その通りだからだ。

 だけど……!


「まあ、オマエのツッコミたい気持ちはオレにも分かる。その辺は後で勉強させてやるから今は黙れ」


 俺のこれ以上の発言を潰すように、進美が発言を被せてきた。

 う……


 確かに、まだまだ疑問の部分はあった。

 だけど、そう言われてしまったら……


 黙るしかない。


 俺が口を閉じたのを見て、ニヤリと進美が口を歪めた。


「さて」


 それを受けて、金髪美女が、山本さんに目を向けた。

 今まで全く発言せず、蚊帳の外であった山本さんに。


 金髪美女は山本さんにこう問いかける。


「……山本久美子さん。あなた、平民よね? だから、あなたには拒否権がある。どうしても嫌なら、拒否を許すわ。もっとも、四天王の話はナシになるけど」


 ……山本さん……平民だったのか。

 別に変なことでは無いんだけど、華族か士族だと無意識に思い込んでいた自分に気づき、俺は自分を恥じた。


 この国には、4つの身分がある。

 ひとつは皇族。皇帝陛下と皇后陛下。そして皇太子たち。この国で最も尊敬される身分。

 そして華族。初代皇帝に付き従っていた魔力保持者たちの末裔。皇族に次ぐ身分なので、俸給がある。

 その次が士族。俺の身分だ。初代皇帝に兵士や技術者、参謀として付き従っていた人々の末裔。これは俸給が無い。名誉だけ。

 最後が平民。初代皇帝の時代に、上記3つのどれでも無かった人たち。俸給も名誉も無い。


 この国の基本的な考え方に、身分が上の人間は、名誉やお金を与えられるのだから、国に無理難題を押し付けられても拒否してはいけないというものがあり。

 こういうのを昔は「ノブレス・オブリージュ」って言ったんだってね。


 俺は士族だから、俸給は無い。

 しかし、名誉があるせいで、それに付随する形で……


 警察や軍隊に就職しやすい。優遇される。


 こういう特典がある。現に俺もその恩恵を受けてきた。

 だから正直……この話を正式要請されたら……俺は断り切れないところがある。


 だけど。


 山本さんは平民なんだ。

 だったら、嫌って言っていい。

 俺みたいな義務は無いんだから。


 ……彼女は、何て言うのだろうか?


 俺は見守った。


 彼女は……


「……転写の結果、生まれる子供の処遇はどうなるんですか?」


 そういう質問をした。

 え……?


 金髪美女は答えた。


「無論、国が面倒を見るわ。希望するなら、あなたが育てても良いけど。そして、こっちの要請で出来てしまった子供だから、どっちを選んでも金銭的な負担は心配しなくていいから」


 そういう答え。

 すると


「分かりました……」


 彼女は顏を上げた。

 とても、強い瞳で玉座を見つめていた。


 そして、こう言ったんだ。


「……やります。私の魔力を皇帝陛下のために役立てて下さい」


 ええ……?

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