第5話 あなたもそうなんですか?

 その次の日、正式に辞令が出た。

 俺は快く受けて、引っ越し準備に取り掛かる。


 今まで辺境で住んで来て、これからは王都。


 王都にある宿舎だ。


 絶対に捨てられないものだけを段ボールに詰め、その他は捨てる。

 荷物は少なくしないとな。


 しかし……


 四天王を新しく決めた、っていうことは。

 今の皇帝陛下、あまりよろしくないのかな?

 新聞では「病床にある」って書かれてたけどさ。


 上田さんに話を聞いたときは、そこまで考えてなかったけど。

 ちょっと大変な事態なのかもしれない。


 とすると……

 年号、変わるんだろうか?


 初めての経験だから、ちょっと楽しみではある。

 前の改元、俺が生まれる前だからね。


 そんなことを、王都に向かう列車の中で考えた。


 これまで住んでた部屋はユニットバスのワンルームだったけどさ。

 次の宿舎はリビングの他に3部屋あるって話だし。


 その意味でも、楽しみだ。


 


 よし。


 その日、俺は鏡の前で新しく支給された四天王としての制服を着用し、満足の声を洩らす。

 これなら、多分戦える。


 政府中枢、近衛兵の戦場を。


 四天王の制服は純白の軍服で。

 ところどころ、金属の装飾が施されていた。


 今日は初登城だから、馬車が来る。

 皇帝陛下がお住まいになってる城……一体、どういうところだろうか?




 王城にやってきた。

 王城は、高い塀に囲まれた石造りの建物で。

 正門はデカかった。


 幅は4メートルくらいあっただろうか?


 そんなところを、馬車で潜る。


 そして馬車を降りた後。


 純白の待合室に通される。

 ここも、大きい。


 テーブルひとつに、ソファが2つ。

 後は大きな花瓶が床置きしてあった。


 絨毯の色は、赤。


 それだけの部屋。


 入室させられて、ここで謁見の時間まで待てと言われたんだけど。


 先客が居た。


 女の子だった。

 先にソファに座って、待ってる子が居たのだ。


 その子が……


 すごく……可愛かった。


 一言で言えば、清楚系。

 セミロングの黒髪で、丸眼鏡を掛けていた。

 服装は、俺の身に着けている軍服風の制服の女版。

 下がズボンではなくスカートになっている。


「えっと、こんにちは」


 とりあえず、挨拶。

 基本だし。


 すると


「……新しく四天王に抜擢された方ですか?」


 相手の子がそう、訊いてくる。

 俺は


「ええ。あなたもそうなんですか?」


 すると


「はい。これまではどこで働いていた方なんでしょうか? 私は、王都の都立図書館の司書をしてたんですが」


「俺は北の辺境区域で警備隊してました。……しかし、司書ですか。なんでそこから四天王抜擢……あ、ゴメンなさい」


「いえいえ。疑問に思って当然です」


 そう言って、微笑む。

 笑顔はなお可愛かった。


「古文書を盗もうとした盗賊が入って来たとき、取り押さえたんですよ。魔力で。そのときのことを評価されたのかもしれません」


「なるほど……」


 そう、話をしていて。

 ふと、名前を聞いていないことに気が付いた。


「俺は藤井大河です。あなたのお名前は何でしょうか?」


 ……キモくないよな?

 これから、同僚になる人だし。


「私は山本久美子です。よろしくお願いします」


 ぺこり、と頭を下げてくる。

 俺も下げた。


 山本さんか。


 ……気持ちのいい人だな。

 こういう人が同僚になるなら、これからの未来は明るいな。


 そう、これからに期待して胸を膨らませていたとき。


「時間になりました。どうぞこちらへ……」


 職員の人がやってきて、案内された。

 俺たち2人は、促されるまま立ち上がり


 そして緊張した。

 いよいよ、謁見だ……

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