第44話
私がお手洗いを怖がって使えない……それでもここに私が来ることは今後もあるだろう。
「今度
「……ばあちゃんは、すき。ここのおうちもすき。でも……といれはこわいもん」
「たしかにガキのころ……体が小さいうちは怖かったな。なんどかスリッパ落っことして母ちゃんに叱られたし」
「トイレあるある……よね」
「なに、
「小さいころのことでしょ、っていうか、今言わなくてもいいじゃない」
ママが真っ赤になって怒るので、私とパパとおばあちゃんはゲラゲラ笑った。
ひととおり笑った後、予定より少し早いけれどウチに戻ることにした。
私はもっとおばあちゃんの家にいたかったけれど。
「愛美、もしもウンチしたくなったらどうする?お外でするのかな?」
パパに言われたから、帰ることにした。
帰り道でも不思議と眠らなかった。
ママやパパは疲れているだろうから寝てていいよと言ってくれたけど、目をつぶるとあの黒い穴を思い出しちゃって、怖くて目が開いてしまうのだ。
だから来たときと同じように、窓の外をずっと見ていた。
───これが、お手洗いの記憶。
「すっごく、泣いちゃったのね。でも、何をしに田舎の家に行ったのかしら」
「私もあとから知ったけど……ママのことを相談しに行ったの。外にトイレをしに行っている間と納屋に行っているとき、ヒトミおばちゃんが少しだけおばあちゃんと相談したって。ママ入院中だったから」
入院……そのあとの静養の相談をしに行ってたんだわ、きっと。
「今日は、ここまでのようね。もうすぐ朝が来るわ。また記憶を返しに来るわね」
「いつ、来てくれるの?」
「愛美ちゃんが返してほしいと思う記憶が出てきたときに。その時は、あの歌を使って」
「歌───子守歌?」
「そう。その歌詞を一か所変えるの。聞こえていたでしょう?」
「最後の部分……You remember all」
「そう。そう歌ってくれると会いにこられるわ」
「わかったわ。メグミちゃんが夢?で会いに来てくれた事は、話して大丈夫なの?」
「とうさんたちに?それはかまわないわ。だって私たちのことなんですもの」
(おやすみなさい)
そう言ってメグミは目の前から消えた。
PiPiPiPiPi……
電子音が鳴る。
枕もとのスマホのアラーム───午前六時。
おそらく一晩中、メグミと夢の中で会話していたはずなのに、眠気は感じない。
『おはようございます。ゆうべ、不思議な夢?をみました』
そう、ユタさんにメールを送った。
『おはよう。よく眠れたかな?不思議な夢って?』
しばらく経ってからユタさんから返信が届いた。
『あとで、朝ごはんのときにでも教えるね。とうさんにも聞いてもらいたいし』
返信してから着替えて、朝食の用意をするためにキッチンに行った。
「おはよう、とうさん」
キッチンではとうさんが既に朝食の用意を始めていた。
「ごめんね、寝坊しちゃった」
「おはよう。もっとゆっくり寝てて、よかったんだぞ」
「そうしようと思ったけど、目がさめちゃったから。手伝うこと、ある?」
「そうだな、りんごをむいてくれるか?」
「わかった」
ふたりで協力して朝ごはんを作るなんて、初めてかもしれない。
目玉焼きとカップスープ、レタスサラダとりんご。
あとはトーストを焼くだけだ。
「外村君はまだ寝ているんだろうね」
「もう起きてるとは思うけど……さっきメール入れたら返信が来たから」
「同じ家の中でメールしたのか?」
とうさんが不思議そうに聞いてきた。
「だって、起しちゃったら悪いでしょう?」
「それはそうだが、着信音で……ああ、無音にしているのか」
「そうよ。あ、朝ごはんできたよってメール入れようっと」
『ユタさん、朝ごはんできたよ。とうさんと二人で準備した』
「ごはんできたよってメールしたから、もうすぐ来てくれると思う」
「部屋に行って直接呼んだらいいだろうに」
「だって……男性が寝ている部屋に行くなんて」
「男性といっても、交際しているんだろう?結婚も考えて。そういう遠慮はしなくていいんじゃないか?」
「そうなんだけど……なんとなくね」
「そういうところは、ヒトミさんの教育の賜物なのかもしれないな。そういう点には特に厳しかったから」
「そうそう。かなり口やかましく言われていたわ。その反動でバカなこともしちゃったけど。あ、かあさんといえばゆうべ不思議な事があったの。ユタさ、
「おはようございます」
その時、キッチンにユタさんが入ってきた。
「おはようございます。ゆっくり眠れましたか?」
「はい、おかげさまで。朝までぐっすりと眠らせていただきました」
ちょうど焼きあがったパンを皿にのせてとうさんとユタさんの前におく。
私は焼かない派だから、そのまま食べる。
「いただきます」
三人で食べ始める。
半分ほど食べ終えたときに、とうさんが話を切り出した。
「そういえばさっき愛美がとうさんたちに聞いてほしい話があると言ってたが、どういう話なんだ?」
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