第40話
マナとの約束を守るために、私は
まさか写真を撮られるとは思わなかったけれど……メグミの姿を見るのは最後だから、写真は苦手だけど撮ってもらったの。
そのあとは、あなたが記憶しているとおりよ。
マナや愛美が赤ちゃんだったころの写真は……納屋が漏電からの火事で燃えたときに焼けてしまいました。
マナが亡くなった後に、こちらに持ってきておけばよかったと後悔したわ。
詩集は、私が亡くなったら一緒に棺に入れてほしいと
もしも、見つけられてなかったら……私の部屋の本棚の本の中に挟んでいます。
どの本だったかを忘れてしまったけれど。
香水のアトマイザーは、三面鏡の引き出しの裏に貼りつけてあります。
香水も詩集も、処分するつもりだったけれどできなかったわ。
マナとの大切な思い出の品だから。
どうしても手元に置いておきたかった手紙と写真は、家の中に置いています。
手紙は、タンスの上の吊り棚に置いている箱の中にしまってあります。
写真は、和ダンスに入れてあるキャリーケースの中です。
どれも、見るかどうかは愛美に任せます。
何をいまさらかもしれないけれど、この手紙に書いていることが嘘ではないことの証明になればと思って。
愛美、愛しているわ。
あなたの再婚相手にも(彼氏と言ってたけれど、結婚する気だったんでしょう?)会ってあげたればよかったわね。
ごめんなさい。
とうさん……保さんを大事にして下さい。
ヒトミ
*******************
手紙は、そこで終わっていた。
病床で書いたと思われる手紙は、最後までしっかりとした字でつづられていた。
「私に小学校のころまでの記憶が少ないのには、こういう理由があったのね。これでやっと、納得できたわ」
「……愛美にはすまないことをしたと思っている。入れ替わり───もうひとつの人格を表に出すことをかあさんたちはそう言ってたんだが。入れ替わりがそんなに頻繁に行われていたとは、正直手紙を読むまで知らなかったんだ。とうさんは仕事が忙しくて、かあさん……ヒトミさんになにもかも任せっぱなしだったからな。田舎に見舞いに連れて行くのも登校させるのも、とうさんが役所に出勤した後だったから気づかなかったといえばそれまでだが。三人で田舎に行った時も気づかなかったんだから、父親失格だ」
「そんなことはないと思うけど。もうひとりの私、かぁ。不思議な物語を読んでいる気分だったけれど、本当のことなのよね。詩集も香水も、実際にあったわけだから」
「もしも詩集もなにも見ていなかったら、あの手紙を読んでもすぐには信じていなかったかも。とうさんとかあさんが私をからかった作り話なんじゃないかって」
「いずれは、しないといけない話だったから。このタイミングで話せたのはよかったよ」
「でも、どうしてとうさんとかあさんは、マナさんのことを私に隠そうとしたの?」
「愛美は、かあさ……ヒトミさんとマナの区別がうまくつけられてなかったんだよ」
とうさんが苦笑しながら言った。
「双子だから見分けがつきにくいのはわかるが、ヒトミさんに『ママ』と言ったりマナに『おばちゃん』と言ったりしてな。その反対でメグミのときは完璧に見分けていた。不思議なことに互いが洋服を取り替えての後姿でも見分けがついていた。またメグミは病気で弱っていくマナの姿をずっと見ていたから、
いったん言葉を切ったとうさんは、再度話し出した。
「そんな状態で本当の母親が亡くなって、いつも一緒にいて母親と思ってた人が実はおばさんだったと知ったら混乱するんじゃないか?と心配したんだ。もちろん、然るべきときが来たらちゃんと説明するつもりだったよ、今日のようにね」
私が
「でも、前回のときは教えてくれなかったじゃない?それはどうしてなの?」
そう。
前に結婚したときは、この話は聞いていない。
「そりゃ、お前。『私、結婚する。ううん、もう結婚したから』って電話だけしてきて。結局最後まで相手も連れてこないままだったじゃないか」
「あ、そうだった」
私は肩をすくめてペロッと舌を出した。
「メグ……それは、あんまりだろ?」
ユタさんがやれやれという顔で私を見ていた。
「いや、あの、あれは、そう。若かったというよりバカだったのよ」
私は過去の……正味一年にも満たなかった結婚相手を思い出していた。
ノリと見た目だけがいい、浮気男。
見た目がいいから確かにモテてもいたけれど、言い寄ってくる女性に片っ端から手を出していたバカ男だったわ。
まあ、あいつも私の外見だけで結婚したようなものだから、地味な私の内面に辟易してたんでしょうけどね。
派手で奔放な女性が好みだったし。
「メグの……その、最初の結婚相手ってどういう人だったんだい?」
そういえばユタさんにも『昔一度、結婚で失敗している』ことは伝えたけれど、どんな人だったかは教えてなかったわ。
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