第24話

 朝食を食べ終わり片づけも済ませた後、私はユタさんに紙とペンを借りて、手紙の文章を書きうつした。

すべて平仮名だ。

まず、一番そぐわない言葉が入っていた三通目を書きうつした。

「ねえさんへ、は関係なさそうね」

 

めのぐあいは、そのあとどう?

ぐあいはよくなってきてる?

みえかたは、かわらないよね?

おとなになると、なおりがわるいのかしら

よくなったら、おでかけしましょうね

ろけーしょんでいっかしょおすすめしたいのよ

しずかだし

くわえて、すてきなことがあるの

おしえてあげましょうか?

ねえさんが、きっとよろこぶものよ

がらんがあるのだけど、それがすてきなの

いつか、いっしょにいきたいなっておもっているのよ

しずかなばしょで、こころをおちつけましょうってね

まずは、いつものねえさんにもどることからだわね

すぐにねがいが、かないますように

 

 「えっと、これでいいのかな?」

「抜けてはないようだよ。で、折り句を用いるとしたら、まずはそれぞれの文の一番最初の文字ということだから」

「えーと。『め、ぐ、み、お、よ、ろ、し、く、お、ね、が、い、し、ま、す』って」

「……文章になっているな。最後の文字は?」

「最初の文からだと『う、る、ね、ら……』特に意味はなさそうね。最後からだと『に、ね、ね、よ……』こっちも特に」

「じゃあ、頭のひと文字だけか」

「めぐみをよろしくおねがいします……マナさんがかあさんに私のことを頼んでいる?」

「そう、なるな。あとの二通はどうなんだ?」

「そうね。確認してみないとね」

私は二通目を書きうつした。

 

めのちょうしは、どう?

ぐあいわるいっていってたから、しんぱいしています

みえかたに、もんだいはないわよね?

にいさんも、しんぱいしていたわよ

あいつは、むりするからって

いつも、ねえさんはがんばりやだったから

たまには、てぬきしなくっちゃ

いつもてぬきのわたしからはいわれたくないかな?

 

「えっと『め、ぐ、み、に、あ、い、た、い』ね。最後の文字は、さっきと同じで文章にならないわ」

続けて一通目を書きうつした。

「これも同じなのかな?」

 

ねえさん。おげんきですか?もしかしてげんきじゃないかも?

ついこのまえまでのあつさがうそみたいね。すぐふゆになりそう

がいきおんがさがるだけで、きぶんもらくになります。

さいきんはどう?あのしゅみ、まだつづけてる?すてきだったわ、あのばっぐ。

がんばりやのねえさんだものね。きっとつづけてるでしょうね。こりしょうだし。

らいねん、あったときにまたおしえてね。またさわらせてね?しばけん。

なつごろだったら、あいにいけるとおもうの。

いまからねんのはなし?っていわないでね。

 

 書き写した私は、前の二通と同じように最初のひと文字目を読んでいった。

「『ね、つ、が、さ、が、ら、な、い』ね。最後の文字も読んでみる?」

「念のため、読んでみたら?」

「うん。じゃあ最初から『も、う、す、ぐ』あれ?今度は言葉になりそう。えっと続きは『し、ん、の、ね』後半は意味がないみたい」

「メグ、しばけんって書いてるけど、あれ、しばいぬが正しいんだよ」

「え?そうなの?」

「しばけんでも間違いではないんだけどね。そういえば最初に読ませてもらったときオレもしばけんって読んだな」

私は書きうつした手紙の“しばけん”を”しばいぬ”に書きなおしてもう一度読んだ。

「えーと『も、う、す、ぐ、し、ぬ、の、ね』って……ええっ?」

「『熱が下がらない もうすぐ死ぬのね』か。穏やかじゃないな」

「……病気、してたのかな?」

「熱、と書いてあるからそうなのだろうな」

 

 病気をしてたらしいマナさんからかあさんに宛てた手紙。

それもこんな暗号?めいた形をとって。

「なんか、解読しないままだったらよかったかもって気がしてきた」

「どういうこと?」

「最初は、なんでここでこの言葉?って思って意図が知りたかったけど。不思議な手紙だなってままで終わっておけばよかったなって。なんていうのかな、隠しておきたかったことを見つけた罪悪感っていうか。最初からかあさんの持ち物を探さなければよかったのかも」

「それは、仕方がないんじゃないか?おかあさんの持ち物は、ずっと置いたままというわけにはいかなかったろう?」

たしかに、いつかはかあさんの持ち物は全部確認しないといけないけれど。

だから、きっといつかは目にすることになっていたのだろうけれど。

「ここまできたら、ちゃんと確認するほうがいいんじゃないかな?メグのためにも、おかあさんのためにも」


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