第22話
「『きっと』が先じゃダメ。なおかつ、『ねえさん』じゃないとダメってことなのかな?まあ、『ねえさん』が先でも『きっと』が先でも言いたいことは伝わるんだけど。順番に意味があるのかな」
「まあ、その可能性もアリかもしれないな」
「もう少し、よく読んでみたがいいのかもしれないわね」
三通を繰り返し読んでみる。
でも何度読んでみても、手紙全体としては脈絡はないけれど文面自体普通だし、書いてある内容にも奇抜なものはないように思えた。
「ねえ、ところで伽藍ってなに?」
「メグにはなじみが薄いか?もともとは僧、お坊さんと言ったがわかりやすいかな。彼らが集まって修行をする場所なんだ。そこから転じて大きな寺や寺院の建物をあらわすようになったらしい。まあ、お寺の敷地内にあるお堂や塔、門などの総称として建築物全体のことだね」
「さすがに詳しいわね。この前のガラス戸の鍵も知ってたし」
「仕事柄、知ってないと困ることが多いからね」
「ふうん。要は建物なのね。お寺の建物とか、見ごたえがあるとこもあるし。だから『ロケーションで一か所おすすめしたいのよ』なんて書いてるんだ」
「あ、そうそう。そこもちょっと気になってたんだ。オレだったらふつうに『おすすめしたい場所がある』って書きそうなんだけど、メグはどう?」
ユタさんに言われて、私は少し考えてみた。
「うん。私もそう書くと思う」
「なんで、このタイミングで『ロケーション』なんだ?おすすめしたい場所があるの方がスムーズだろう?覚えたての英語を使いたがる子どもでもあるまいに」
「さっきの『きっと』みたいに、『場所』じゃなく『ロケーション』じゃないといけなかったのかな?」
言いながら(もしかして言葉の意味やあらわす内容ではなく、言葉の文字そのものが大事?)そう思った私は、その考えをユタさんに言ってみた。
「言葉ではなく文字、ねえ。そうだな。そう考えれば『きっと』と『ねえさん』の順番が代わっているのも、『場所』じゃなく『ロケーション』なのも説明はつくね。でも何のために?」
「そこなのよね。何のためなんだろう」
考えても決定打が見つからない私は、手紙のことを考えるのは後回しにして、新しく見つかった写真たちを見てもらうことにした。
「手紙のことは、また改めて考えるわ。それよりこれを見てくれる?」
私は、箱からでてきたメッセージカードとお宮参りらしい写真、大きめの封筒に入っていた手紙をユタさんに渡した。
ユタさんはバースデーカードを見た後、写真に目を移した。
赤ちゃんだったころの私と笑顔の男女が写った写真。
「これ、メグだよな?」
「うん。ビデオに写ってた『
そう言って写真を裏返して、そこにある“大きくなったでしょう?”というメッセージをユタさんに見せた。
「私が赤ちゃんとして写っているということは、一緒に写っているのはとうさんとかあさんのはずなのよね。なのにかあさん宛の封筒に入ってて、大きくなったでしょう?というのが腑に落ちないの」
「確かに。知り合いに送るなら、そう書くかもしれないけれど。封筒の宛名はメグのおかあさんになっているよね」
「そうなのよ。そして、これがさいごのひとつ」
そう言って大きめの封筒を手渡した。
書いてある文面を読んだユタさんは顔を上げて言った。
「この“詩”って、もしかして前に訳してたあれ?」
「うん。そうだと思う。封筒の大きさもちょうど同じくらいだったし」
「使うのは最期に……穏やかじゃない言い方だな」
「そうなの。思い出として、持っていてほしいわとか。なんだかお別れするときのような言葉が続いているし。それに、あの子には知られないように、だなんて」
「この、忘れてほしくはないけれどという一文も気にかかるな」
「でしょう?もう、気になることだらけで。で、こっちを見たらさらにびっくりすると思うわ」
私は“結婚写真”らしい二人が写った一枚と、二人と一緒に三人が写った写真をユタさんの前に並べた。
「これは、結婚写真かな?それと親族が一緒に写ったもの」
「そうだと思う。でね、後ろのこのおばあさんは亡くなった私のおばあちゃんで、男の人は伯父さんなの。そしてここに写っているのが、私のかあさん」
「え?なんで断言できるの?」
「この写真が、みんな真顔で写っているから。かあさんね、片方がくっきり二重で、もう片方が一重だったの。大学の時に私がアイプチ教えるまでコンプレックスだったのね。で、ここに写っている女性は片目が二重でもう片方が一重」
「この花嫁衣裳の女性は?化粧のせいではっきりとしないだろう?」
「うん。それは最後の写真でわかるわ」
そう言って最後の一枚、お宮参りの写真をユタさんに見せた。
「……両目とも、くっきり二重だ」
「ね?それを見るまでは私も半信半疑だったけれど」
ユタさんは三枚の写真を何度も見比べていた。
そしてふと、思いついたように言った。
「メグ、夕飯、何が食べたい?」
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