第21話

 結局、あのあと新たな何かを見つけることもなく連休は終わり、私はアパートに戻った。

とうさんもずっと忙しそうだったから一緒に出かけることもできなかった。

もちろん、出かけるとしてもどこに行くか悩んだと思うけど。

連休が終わった次の週末、私は久しぶりにユタさんに会うことにした。

いつもどおり私のアパートに迎えに来てもらって、彼の部屋へと向かう。

途中でユタさんのリクエストでうどんを昼食に食べた。

ひさしぶりのカレーうどんが美味しかった。

 

 「なんだか、いろんなものが見つかったみたいだね?」

実家から持ち帰った封書や写真をカバンから出している私にユタさんが声をかけてきた。

「うん。なんかいろいろ見つけちゃって。あ、宝箱もらってくるの忘れちゃった」

「宝箱って?」

「かあさんが、出かけるときにつけるアクセサリーを入れててね、中身もだけど外側もキラキラしてて憧れてたの。高校のときだったか、アクセ借りたいって頼んだら『これはかあさんの宝箱だからダメ』って断られちゃったの。……宝箱に入れてない別のを貸してくれたから、アクセサリーなんてまだ早いってことではなかったみたいね」

「へえ、そんなことあったんだ。やっぱり女の子はアクセサリー系好きだよな」

「ん~。わたしは気に入ったのがいくつかあればいいかも?くらいだけどね」 

そんなことを話しながら、封書の中を確認して見つけた順に左から並べた。

そのあとにタンスの中のキャリーバッグに入っていた写真たち。

すべて並べ終わってから、ユタさんに説明をした。

 

 「えっと。この三通の封書は、かあさんの部屋の棚にあった三つの箱のひとつにはいってたの。全部マナさんからあての手紙。宛名がわたしのかあさんだったから、かあさんの妹なのかしら……そんな人がいるなんて聞いたことがないけれど。でね、内容なんだけど、なんだか不思議な文章だったわ。あとはメッセージカードと写真と。そして、こっちの写真は、かあさんの和服が入ってたタンスに一緒に入れてあったキャリーバッグの中に、隠すようにいれてあったものなの」

「へえ。その手紙は、中を読ませてもらってもいいの?」

「うん。いいんだけど、なんていうの?“これ”といったことが書いてないのよ」

私は封筒から手紙を取り出し、ユタさんに渡した。

 

 ユタさんは手紙を開いてさっと目を通したあとに声に出して手紙を読んだ。

「ねえさん。お元気ですか?もしかして元気じゃないかも?」

「ついこの前までの暑さがうそみたいね。すぐ冬になりそう」

「外気温が下がるだけで、気分も楽になります」

「最近はどう?あの趣味、まだつづけてる?素敵だったわ、あのバッグ」

「頑張り屋のねえさんだものね。きっと続けてるでしょうね。凝り性だし」

「来年、会った時にまた教えてね。また、触らせてね?柴犬」

「夏頃だったら、会いに行けると思うの」

「今から来年の話?って言わないでね」

ひと通り読んで、ユタさんが言った。

「なんだか、不思議な手紙だね。ちゃんと文章としては整っているんだけど、何が言いたいかわからない感じだよ」

「でしょう?妹がお姉さんに宛てて書く手紙ってこんな感じなの?私、ひとりっ子だからわからなくて」

「そうだな。手紙とか本人の性格で変わってくるだろうから、どんな書き方が正しいかはわからない。ただ、この手紙に関して言えば“脈絡がない“という印象を持ったよ」

 

 “脈絡がない”

その言葉は、私が感じていたもやもやをまさに言い表していた。

とりとめがないのとは、また違う。

「ね?私がもやもやしたの、わかってもらえた?」

「ああ。なにがどう?ということではないけれどな。他の二通もこんな感じなの?」

「うん」

私は二通目をユタさんに渡しながら言った。

「二通目は、さらにわからなくなってるわ」

ユタさんは一通目と同じように、さっと目を通してから書いてある内容を口に出して読み始めた。

  

「ヒトミねえさんへ」

「目の調子は、どう?」

「具合悪いって言ってたから、心配しています」

「見え方に、問題はないわよね?」

「兄さんも、心配していたわよ」

「あいつは、無理するからって」

「いつも、ねえさんは頑張り屋だったから」

「たまには、手抜きしなくっちゃ」

「いつも手抜きの私からは言われたくないかな?」

「じゃあ、また」

 

 読み終えたユタさんが私に聞いてきた

「おかあさん、目の調子が悪かったの?」

「そこ、私も気になったんだけど。私が小さいときのかあさんの記憶はないから、はっきりとは言いきれないけれど。中学以降の、ちゃんと記憶がある時期のかあさんには目の不調はなかったと思う。視力も良かったのよ。良すぎて早くから老眼になったてぼやいてたもの」

「そうか。だったらどうして目の話題なんか出したんだろうな?」

「そこよね」

「三通目も読んでいいかな?」

 

 私は三通目を手渡した。

受け取ったユタさんが読み始める。

「ヒトミねえさんへ」

「目の具合は、そのあとどう?」

「具合はよくなってきてる?」

「見え方は、変わらないよね?」

「大人になると、治りが悪いのかしら」

「良くなったら、お出かけしましょうね」

「ロケーションで一か所おすすめしたいのよ」

「静かだし」

「加えて、素敵なことがあるの」

「教えてあげましょうか?」

「ねえさんが、きっと喜ぶものよ」

「伽藍があるのだけど、それが素敵なの」

「いつか、一緒に行きたいなって思っているのよ」

「静かな場所で、心を落ち着けましょうってね」

「まずは、いつものねえさんに戻ることからだわね」

「すぐに願いが、かないますように」

 

 「さらに、わからないな。目は悪くなかったはずなのに目の心配。あと、これは気にするところじゃないかもしれないけど」

と前置きして、ユタさんは手紙の一文を指差した。

そこには「ねえさんが、きっと喜ぶものよ」と書かれていた。

「こういう文章を書くとしたら、違う言い回しで書くことが多いんじゃないかな?というかオレが書くなら『きっと、ねえさんも喜ぶと思うわ』かな」

確かに。

きっと私もそう書くと思う。

じゃあ、なぜ『ねえさん』が先に来ているんだろう?

「これってさ、『きっと』を先に書いちゃだめだったのかな?」

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