第16話
その写真は、田舎の家の玄関付近が写っていた。
玄関の前で、少女と大人の女性とがふたりでボール遊びしているようだ。
その写真の右側。
家の横の、裏庭へと続く空間のさらに右に、建物の屋根っぽいものと壁が少しだけ写っていた。
「ここ、この前行った時には何も建っていなかったのよ。だって、ここに車を停めたんだもの」
「そうなの?ちょっと見せて」
ユタさんはしばらく写真を見て、私に返してくれながら言った。
「もしかして、物置とか倉庫みたいなものが建っていたんじゃないかな?」
「物置?家の外に、家みたいな物置を建てるの?」
「昔は今みたいな金属製の物置は、売ってなかったからね。家を建て増しするか、庭に新しく建てるかだったみたいなんだ。オレのばあちゃんの家の庭にも建っていたよ。半分は車庫で半分は物置みたいなの。ああ思い出した、納屋って言ってたな」
「そうなんだ。じゃあ、壊しちゃったのかな?」
私は写真を見ながら、(壊さなくってもいいのにな)と考えていた。
お盆休みから約一ヶ月がたった。
私はお盆のときの約束どおり、とうさんの様子を見るために自宅に戻った。
「法事とかじゃなく、家に帰ってくるのって久しぶりな気がする」
「そういえばそうだな。いつも結構慌しかったもんな。今回はどうなんだ。ゆっくりしていけるのか?」
「うん。特にすることはないんだけどね。そうだな、かあさんの部屋のもの、まだ片づいてないなら片づけようかな~くらい」
「かあさんの部屋か。とうさんは、あれからずっと入ってないからな。やってくれるなら、お願いするか」
「わかった」
「しかし、いいのか?」
「なにが?」
「せっかくの連休だぞ?あっちで一緒に遊ぶ友達とか、いるんじゃないのか?」
「いるけど。なんか、この連休は忙しいらしくって、予定が合わなかったのよ」
「ならいいが」
昼食後、私は早速かあさんの部屋の片づけに手をつけるためにドアをあけた。
ムッとした空気がこもっている。
窓をあけて、屋外の空気を入れた。
片づけると言っても、本棚と衣類はもう片づけ終わっている。
残っているのは、タンスの上の狭い飾り棚、それと吊り棚においてある箱の中だけだ。
飾り棚の中には、オルゴールのついた宝石箱と、お土産でもらったらしい包装紙にくるまれたままの小箱たち、それにガラス製の小動物の置物があるだけだった。
(この宝石箱も、触らせてくれなかったな。もらって帰ってもいいか、後で聞いてみよう)
それから踏み台を持ってきて、吊り棚から箱を下ろした。
箱は、全部で三個あった。
みんな大きさのわりには軽く、難なく全部をおろすことができた。
いちばん手前の箱を開けてみる。
中には少し小さめの箱が三つ。
そのうちのひとつを開けてみると、中には様々な端切れと小さなビニル袋に入ったボタンがセットになったものが、いくつも入っていた。
ついているタグを見ると『とうさん夏背広・紺』とか『冬礼服・ダブル』と書いてあった。
もう一つの箱の中にはタグに『
なんで名前書いてないんだろう?一瞬思ったけれど、自分が管理するのに自分の名前は書かないよね。
そう思って、元に戻して、ふたをした。
二つめと三つめの箱は、私がもらった賞状とか、卒業証書そういったものが入っていた。
『きくぐみ めぐみ』ウラにそう書いてある絵もあった。
(かあさん、大事に取っておいてくれたんだ)
ひとつひとつ取りだしながら見ていくと、三つめの箱の一番下に小さな箱が入っていた。
取りだしてふたを開けると、中には古そうな封書が何通か入っていた。
宛名には、綺麗な文字でかあさんの名前が書いてあった。
(かあさんあての手紙かあ。気になるけど、やっぱり、読まない方がいいよね?)
どう考えても、隠してたらしい箱の中の手紙。
好奇心と罪悪感と。
しばらく悩んだ末、(読んだ後、またここに戻そう)好奇心に負けた私は、手紙の箱以外の出したものを箱に戻して、元の場所に置きなおした。
部屋に戻って、箱を机の上に置いた。
ふたを開けて、一通を取りだしてうらを返してみた。
宛先はすべて旧姓のかあさんだったけれど、差出人の欄は空欄だった。
中の便せんを取りだす。
薄めの紙はみっつに折られていた。
深呼吸をひとつしてから、折り目を広げると宛名と同じに見える筆跡で文字がつづってあった。
“ヒトミねえさんへ”
(ヒトミねえさん?かあさんに妹がいたの?そんな話、聞いてないけど)
私は、頭の中を?マークでいっぱいにしながら続きを読むことにした。
“ねえさん。お元気ですか?もしかして元気じゃないかも?”
“ついこの前までの暑さがうそみたいね。すぐ冬になりそう。”
“外気温が下がるだけで、気分も楽になります。”
“最近はどう?あの趣味、まだつづけてる?素敵だったわ、あのバッグ。”
“頑張り屋のねえさんだものね。きっと続けてるでしょうね。凝り性だし。”
“来年、会った時にまた教えてね。また、触らせてね?柴犬。”
“夏頃だったら、会いに行けると思うの。”
“今から来年の話?って言わないでね。”
そんな文面だった。
最後に差出人の名前が書いてあった。
“マナ”
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます