第14話
夕飯を食べながら、とうさんも伯父さんと同じように田舎の家のことを聞いてきた。
私は伯父さんに答えたのと同じ答えを返した。
そしてふと思い出したことを聞いてみた。
「かあさんと伯父さんって、同じ部屋で勉強していたの?」
「どうして、そう思うんだ?」
「四つある部屋のうちのひとつが、板の間だったのね。そこに机が、ふたつならんで置いてあったから。かあさんたちって、ふたり兄妹でしょ」
ちょっとだけ間をおいて、父さんが答えた。
「ああ。昔のことは、あまり聞いていないから、よくは知らないが。きっと、そうだったんだろう」
「伯父さんは男で、かあさんは女なのに?」
「あの家、狭かっただろう?ひとりにひと部屋なんて、余裕はなかったんだよ。たしか、かあさんのばあさん、おまえから見たらひいばあさんになる人も、いっしょに住んでいたらしい」
「そんなに家族が多くて、みんな一緒に住んでいたの?」
「昔は、みんなどこも似たり寄ったりだよ。自分だけの部屋なんて、持てなかったんだ」
「ふうん」
「
食事の片づけを終えて自室に戻った。
スマホを確認すると、ユタさんからメールが入っていた。
『田舎の家は、どうだった?』
『懐かしい鍵だな。久しぶりに見たよ』
『目的のものは、見つかった?』
『こっちへは、いつ帰ってくる?ゆっくりしてきて、構わないからね』
時間差はあるものの、四通。
田舎の家を出る時にメールをしていなかったことを申し訳なく思いながら、メッセージアプリをたちあげた。
『お疲れ様です。目的物かわからないけれど、本を何冊か見つけたので、持ち帰ってます。本の間に一枚、写真が挟まっていたから、ほかの本にもあるかも』
『伯父さんととうさんには、本のことは内緒です』
『鍵、懐かしいって、ユタさんは知ってた鍵なの?』
ほんとは電話で話したかったけれど、とうさんがいるので遠慮してメールを送った。
ほどなくして、メールの返信が来た。
『一枚だけでも、写真が見つかってよかったね。あのタイプの鍵は、ばあちゃんの家でも使っていたから、なじみがあるんだ』
『そうだったのね。あの鍵、開けにくいし閉めにくいのね』
『そうだな。名前としては”ねじ締まり錠”と言うんだよ。昔の日本の家は、引き戸が多かったから考え付いた形状みたいだね』
『そうなのね。そういえば窓とか襖とか、ほとんどが引き戸になってたな。あ、それから、合鍵も作っちゃった』
『合鍵?また行く機会があった時に、伯父さんに借りたらよかったんじゃないの?』
『うん。そう、思ったんだけど。伯父さんの家と田舎の家と、逆方向にあるから』
『そういう位置関係にあるのか。でも、滅多に行かないんだろう?ご近所さんに不審者扱いされるくらいに』
『うん。もしかしたらもう、使わないかもしれないけれど』
『まあ、お母さんの思い出のひとつには、なるよね』
『うん』
翌日、お盆休みはまだ残っていたけれど、地元には会いたいような友人は残っていなかったので、アパートに帰ることにした。
「また、秋の連休にでも遊びに来るね」
とうさんにそう言って、自宅を後にした。
することがないから、というのは表向きの理由。
ほんとはユタさんに早く会いたかったし、持ち帰ってきている本を一緒に調べてほしいから。
途中で休憩に立ち寄った道の駅の駐車場で、『現在帰宅中』というメールをユタさんに送った。
アパートについてペットボトルのお茶を飲んでいると、ユタさんから電話がかかってきた。
「もしもし」
「もしもし。もう、帰り着いたかな?」
「うん。さっき帰って、お茶を飲んでたとこ」
「おかえり。いや、実はさっき仕事中に、たまたまメグの家の前を通ったら、車があったみたいだたからね。仕事にひと段落つけて、昼くらいにそっちに行くよ」
「うん。待ってる。持って帰った本、一緒に見てね」
そろそろお昼という時間になったころ、ユタさんが私の部屋に来てくれた。
前みたいに、コンビニの袋を下げて。
「メシ食いに行こうかと思ったけど。メグが早く本を見たいかなと思ったから、独断でコンビニで買ってきたよ」
「ありがとう」
私は車から持ってきておいた本を、テーブルの横に積む。
「思ったよりも少ないな。もう少し、何十冊もあるかと思ってたよ」
お弁当を食べ終わった私は、片づけもそこそこに本をテーブルの上に移した。
そしてまず、写真が挟まっていた本を出して、中の写真をユタさんに見せた。
「これが、挟まっていた写真か。メグに似ているような、そうでもないような」
「まあ、私はどっちかというと、とうさんに似ているらしいから」
「メグに見せてもらった、おかあさんの写真にも似ているような違うような」
「私もそう思う。似てるんだけど、ちょっと感じが違うのね。もしかして、おばあちゃんの若いころかもと思ったけれど、そうしたら写真が新しすぎるし」
「そうだよな。おかあさんは、伯父さんとふたり兄妹って言ってたっけ。いとことかは?」
「聞いたことなかったけれど。いなかったんじゃないかな?おばあちゃんの葬式のときも、うちとおじさんの家族だけだったもの」
「ふうん」
そう言いながら、ユタさんは机の上に積んである本の中から、私がまだ見ていなかった一冊を選んで、パラパラとめくりだした。
その本にも、特になにも挟まってはいないみたいだった。
最後のページをめくった時、ユタさんの手が止まった。
「あ。名前が書いてある」
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