第13話

 ユタさんに画像を送って、私は本来の目的を達するべく行動を開始した。

本来の目的。

伯父さんととうさんには、ビデオテープの撮影場所を見たいと言った。

半分はほんとう。

でも、もう一つ。

火事で焼けていない写真を探すこと。

アルバムに貼ってあるかはわからないけれど。

玄関すぐの部屋には、家具は置いていなかったので、まずは机の部屋を調べることにした。

 

 右側の机の引き出しを、ひとつずつ順番に開けていく。

かあさんの三面鏡の引き出しの件もあったから、丁寧に調べていった。

次にタンス、左側の机と調べてみたけれど、どの引き出しもからっぽだった。

次に隣の部屋の押入れを探した。

右端の扉を開ける。

中は二段に分かれていて、上の段には座布団が五枚、下の段には古そうな本が十冊ほど入れてあった。

次に真ん中の押入れの襖を開ける。

上の段には、布団類が畳んで入れてあり、下の段はからっぽだった。

最後に左端の扉を開ける。

そこは、上下ともからっぽだった。

そのあと調べた、その部屋のタンスも、隣の部屋のタンスも、同じくみんなからっぽだった。

(まあ、誰も住んでいないんだし、なにもないのは当たり前なんだけど。でも伯父さん『写真は、あるとしたら田舎の家に』って言ってたけど。思い違いだったのかな?)

そう思いながら、さっき見つけた古そうな本を、念のために調べてみることにした。

 

 押入れから本を引っ張り出す。

押入れも、窓も全部しまっていたはずなのに、うっすらとほこりがたまっていた。

厚さはバラバラだったけれど、似たような茶色のハードカバーの本だった。

そのうちの一冊を手に取って表紙を見る。

表紙に書かれているタイトルを見ると、無鉄砲を自覚している男性が主人公の有名小説だった。

(古そうな本だけど。かあさん、こんな本読んでたんだ。あ、伯父さんのほうかな?それとも顔も知らないおじいさんか)

そう考えながらページをパラパラとめくる。

ハラリ

ページの間から何かが落ちた。

裏返しに落ちたそれを拾って表を見てみると、一枚の写真だった。

若い女性が写っている。

(かあさん?のような違うような)

そう思いながら、本の間に写真をはさみなおした。

ふと、時計を見ると十五時近くになっていることに気がついた。

私は、見つけた本たちは持ち帰ってから調べようと考え、戸締りをして回った。

 

 炊事場の勝手口と窓を閉め、板の間の窓、隣の部屋の窓、部屋の仕切りの襖。

ねじるタイプの鍵をかけるのに少し手間取ったけれど、なんとかかけることができた。

縁側に面した障子を閉めて、窓をしめようと左向きに振り返ったた時、そこにある扉に気がついた。

(そういえば、ここを開けるのを忘れてたな。ここもちょっとだけ開けなくちゃね)

そう思って扉を開けると、そこは……お手洗いだった。

“私が泣いた”らしい汲み取り式の、黒い穴が空いた白い便器が目の前にあった。

 

 (不思議なところに、お手洗いがあるのね)

そう思いながら縁側の戸締りを終え、持ち帰るためにまとめておいた本を車に積んで玄関の鍵をかけ、伯父さんの家へと車を走らせた。 

鍵を返す前に、私はホームセンターに行って、合鍵を作ってもらった。

もう一度、もしかしたら何度か“田舎の家”に行くことがあるかもしれないと思ったからだ。

合鍵を持っていたら、行きたいと思ったときにいける。

物理的にも、伯父さんの家に鍵を借りに行ってから“田舎の家”に向かうと、時間も距離も倍近くかかるのだ。

 

 「田舎の家は、どうだったかね?」

鍵を返す時に、伯父さんが聞いてきた。

「やっぱり、覚えてなかったです。縁側はあるけど、廊下がないって珍しいのに。それにあんなに面白い場所にお手洗いがあるのに。あ、でも、近所の人だと思うんですけど、女の人が、私が小さいときに来てたのを見たことがあるって言ってました」

「ご近所さん。誰だろうな」

「名前は聞きそびれたんですけど。鍵を開けようとしたら『あなた誰?』って声をかけられたんです」

「めったにだれも立ち寄らないからな。知らない相手に、うるさい地区でもあるし」

「そうなんですね」

そうして再度、鍵のお礼を言って、伯父さんの家をあとにした。

本を持ち帰ってきていることは、言わないままだった。

 

 自宅に着くと、とうさんはまだ帰ってきていなかった。

写真が挟まっていた本とその下のと、二冊だけを持って自室に入った。

本をめくって写真を取りだす。

ごく若い女性の写真。

かあさんのような気もするし、違う気もする。

(でも、かあさんのきょうだいは伯父さんだけだし。おばあちゃんの若いころとか?)

写真を机の上に置き、ほかに何か挟まっていないか確認するため、パラパラとページをめくった。

最初の本を確認し終えて、二冊目を手に取る。

この本も、同じ作家の有名な小説だった。

二冊とも確認したけれど、結局、最初の一枚の写真のほかには何も挟まってはいなかった。

 

 「愛美めぐみ、帰っているのか?」

とうさんの声が聞こえた。

「はーい。さっき帰ったとこ」

自室を出て、茶の間に入りながら答える。

「おかえり、とうさん。あ、夕ごはんどうしようか」

「そうだな。冷蔵庫に、昨日の残り物があるだろう」

「そんなのでいいの?」

「ああ。かまわないよ」

 


 


 

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