第11話

 夏が、きた。

初盆の法要も、四十九日と同じお寺で行なうというので、私はとうさんに聞いた時間に合わせてお寺に向かった。

今日も、伯父さんととうさんと私の三人だけ。

読経の後、納骨堂で墓参りをすませ、四十九日の時と同じ店で食事をとることにした。

 

 注文の品が来るのを待つ間、私はとうさんたちに前回途中で観られなくなったビデオを観たと話した。

「なにが、映ってたんだ?」

とうさんが聞いてくる。

「映ってたのは、この前観れてたとこまでだよ。赤ちゃんだったころの私と、私を抱っこしてる女の人。でもたぶん、かあさんだよね。顔が映る前にテープが切れちゃったから、ちゃんと確認はできなかったけれど。あと歌声も聴けた」

「そうか、それはよかった。義兄さん、いつ、どこで撮ったか覚えていらっしゃいますか?」

「どこだったか。おそらく、田舎の家だとは思うのだが。たぶん、誰かの法事に連れて来てくれてたのだろう」

「そうなんだ。田舎の家って、私、行った事あったんだ。でも、そんな小さな時だったら、覚えてなくて当然だよね」

 

 そういうと、伯父さんが、驚いたような顔をして言った。

愛美めぐみは、小学生のころまでは毎年のように、墓参りについてきてたぞ。覚えてないのか?」

「え?そうなの?全然、覚えてない」

そう言って、とうさんを見る。

とうさんも、驚いたような口調で言った。

「ほんとに、覚えてないのか?とうさんとかあさんとの三人で、盆休みに遊びに行ってたんだが。汲み取り式のトイレを見て、泣いたのも覚えてないのか?」

「うん。思い出せない。あれ?なんで、覚えてないんだろう?」

 

 そう言ったあと、私はふと思いついて、伯父さんに言った。

「伯父さん、田舎の家って、今はだれも住んでないんですよね?」

「ああ。長いこと空き家になっているが。どうかしたのか?」

「話を聞いてて、久しぶりに、行ってみたいかなって思って。どんなとこだったかも、忘れちゃってるし。あのビデオ撮った場所とかも、見てみたいかなって」

「そりゃ、かまわんが。ちょと、遠いぞ?今日、これから行くのか?」

「明日もお休みだから、明日行こうかなと思ってます。運転は、ちょっとくらい遠くても大丈夫よ」

「それなら、このあとうちに寄りなさい。鍵を貸してあげるから」

「ありがとう」

 

 食事のあと、とうさんは用事があるからと先に帰り、私は伯父さんを送りがてら鍵を借りに行った。

鍵を借り、田舎の家までの道順を聞く。

片道が七十キロほど。

私は、鍵は翌日には返しに来る約束をして、家に戻った。

 

 翌朝、私はひとりで“田舎の家”にむかった。

とうさんを誘ってはみたけれど、知人の初盆参りがあるからと断られたのだ。

ユタさんには、昨日のうちに電話で“田舎の家”に行ってくると伝えておいた。

私が、小学校時代にも行っていたはずの“田舎の家”の記憶がスッパリ抜けているらしいと伝えたときは、とうさんたちと同じように驚いた口調になっていた。

でも、以前に“かあさんの思い出がない”と言ったことがあるので、そんなこともあるのかと納得していたようだった。

 

 その家は、県境の市内にあった。

高速道路も通ってはいるけれど、高速走行が苦手な私は、一般道路を通ることを選んだ。

川沿いのその道は、高低差も信号もほとんどないかわりに、左右のカーブが連続したり、ところどころ道幅が狭くなっていて、運転に気を使う道だった。

(私の車は大丈夫だけど、ユタさんの車だったら大変そう……対向車が)

そんなことを思いながら走っているとスーパーマーケットを見かけたので、花とペットボトルの水、墓参り用の線香セット、そして昼食用のおにぎりとお茶を買った。

そうして、伯父さんに聞いた場所に到着した。

 

 家の前の道幅は狭く、路上駐車をしたら邪魔になりそうだったので、石造りの門の間から敷地内へ車を入れて、裏庭へと続いているらしい家の横の空いたスペースに車を停めた。

(家に入る前に、まずはお墓参りかな)

花と水、線香セットなどを入れたバッグを持ち、車に鍵をかけて、とうさんに聞いておいたお墓がある場所に歩いてむかった。

二百メートルほど歩くとお墓に着いた。

二十基ほどのお墓が並んでいる。

ほとんどが、かあさんの旧姓と同じ苗字。

ちゃんと聞いていなかったら、どのお墓に参ったらいいか、判らなかっただろう。

(こんな家の近くにお墓があるなんて。なんか不思議な気分)

お墓には誰かが挿してくれたらしい造花が飾ってあった。

造花を抜いて、買ってきた花と水を入れなおす。

ろうそく立てにろうそくをさして火をつけて、続けて線香に火をうつして線香立てに入れる。

お墓の前にしゃがみ、数珠を手にして参る。

(そちらに、かあさんも行ってしまいました。できることなら、早すぎるって追い返してほしかったけれど。それは無理だと思うので、いずれ私たちが行くまで、仲良く過ごしていてください)

お墓参りにはそぐわないような想いを心に、目を閉じて合掌した。

 

 花を包んでいた新聞紙に造花を包みなおし、そのほかの荷物を持って家に戻った。

車に花とカラのペットボトルを入れる。

そして家の鍵を取りだして、玄関の鍵を開けようとしたとき、離れたところから女性の声が聞こえた。

 

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