第114話 年末年始は忙しい


 高校生最後の考査、二学期末考査も終わった。終わった翌週火曜に答案が返却され、成績順位表が張り出された。


「麗人、やったな」

「ああ、健吾と雫も凄いよ」


 成績順位表には一位に芦屋さん、文子さん、望月さんそして俺の名前が有った。同二位に川上と友永さんが入っている。健吾と雫は同三位、誠也は五位だ。皆頑張った成果が出ている。


「麗人お兄様、やっと一緒になりました。これで私達の道…」

「ちょっと待ってよ芦屋さん。麗人さんとは私が一緒に歩むの…」

「何言っているの二人共、私に決まっているじゃない」

「「望月さんは関係撫でしょ」」

「何ですって!」

 

 俺達三人は、いつもの事が始まったと思い、静かに後ろに下がりながら階段を登ろうとして、視線を感じて横を見ると七瀬由紀子さんがこちらを見て微笑んでいた。


 俺も微笑むと嬉しそうな顔をしてそこを離れた。階段を登りながら

「麗人誰だ?」

「気付いたか」

「ああ」

「園芸部の七瀬さんだ。水やりを一緒にやっている子だ」

「そうか」


 小学校からの付き合いの麗人があんな顔するとは驚いた。まだ同じ部員同士程度なんだろうけど、ここの高校に入学して麗人が他の生徒、誰一人にもあんな穏やかな微笑みをした顔を見た事ない。今になって楽しみが増えたな。


「健吾」

「多分」

 雫も感じたようだ。



 後二週間で終業式になる。それは良いのだが、クリスマスイブが日曜日、そしてクリスマスは当然、終業式の日になるのだが、


「麗人さん、クリスマスイブは二人で過ごしましょう」

「セガールさん、残念だけど麗人お兄様とイブを二人で過ごすのは私です」

「何を言っているの。二人共。イブは私よ」


「あの、三人共。イブは家族で過ごすので」

「「「えーっ、そんなぁ」」」


 本当は嘘だけど。流石にこの問題は解決不可能だ。



 残り二週間は、穏やか?過ごせた。いつもの朝の校門での挨拶もお昼休みの賑わいもいつも通りだ。


 美麗にはイブは家族で過ごす予定だと口裏を合わせているから、その話題が振られても問題なかった。


 そして終業式の日、この日はクリスマスの日で、クラスのクリスマス会も予定されていたが、塾を理由に辞退。


 勿論芦屋さんも文子さんも行かないからどうなったかは知らない。だけどこの日は月曜日、七瀬さんと水やりをやる日だ。


 本当は十月一杯で三年生は部活を終了しても良いのだが、二組体制は、年末の忙しい時に大変だろうと今年一杯三年生もやる事にした。望月さんはブツブツと言っていたけど。


 もう週一回水やりをすればいい季節。本来ならあげない日だけど、明日から休みとあって、あげる事にした。



 この季節は大分寒い。七瀬さんの教室を覗くともう帰ったと言うので、あれっ今日は水やりの日なのにと思いながら園芸部室兼倉庫に行くと七瀬さんが居た。良かった。


「七瀬さん、先に来ていたんですか。寒いから早く終わらせましょう」

「はい、でもその前に先輩これ」

「えっ?」


 見ると彼女の手に可愛い金のリボンで包んだ、赤い紙袋が有った。


「皆の前だと渡せないんで、ここだと大丈夫かなと思って。私から先輩へのクリスマスプレゼントです」

「えっ、俺何も用意していないけど」

「いいんです。早乙女麗人先輩は有名人。私の様な一人の女の子にプレゼント渡したなんて知られたら、私が大変になってしまいます」

「でも…」

「貰って下さい」

「ありがとう。開けていい?」

「勿論」



 リボンを解いて赤い紙袋の中を見ると男物の手袋が入っていた。

「私のお小遣いだとその位しか買えないし、安物なんですけど、もし良かったら使って下さい」

「ありがとう、大切に使わせてもらうよ」

「じゃあ、早く水やりをしましょう」

「そうだね」


 俺はもう一度手袋を赤い袋の中に入れるとリボンを元通りに結んで…出来ない。

「私がやってあげます」


 リボンを触っている俺の手をどけて簡単に結んだ。手を触られた時、ドキッとした。初めての感覚だ。


 その後、花壇に水やりをした。花や枝には、水を掛けずその周りにだけやる。七瀬さんは教えても無いのにそれが普通に出来る。やっぱりこの子は花や植木の気持ちが良く分かるんだなと思ってしまう。



 水やりを終えていつもの様に校門に向いながら

「先輩と休み明けまで会えないですね」

「そうだな。でもたった二週間だよ」

「ふふっ、先輩にそう言って貰えると嬉しいです。じゃあ、私ここで。また来年。良いお年を」

「うん、また来年、良いお年を」


 七瀬さんが車を避けて駅に向かった。



 私、紅亜希子。早乙女麗人のマネージャ兼のディガード。今車の横を通って行った女の子、七瀬由紀子の素性を興信所を使って調べた。


 父親はサラリーマン、母親はパート。弟と妹がいる。マンション暮らし。ごく普通の何処にでもある家庭だ。


 七瀬由紀子は、区立保育園、区立小学校、区立中学からこの都立星城高校に入った。頭は良く、友達同士の付き合いもあり、特に麗人君に意味有って近づいた訳ではなさそうだ。


 だけど、今彼に接近しすぎるのは良くない。ただ良かったのは、後三ヶ月で高校を卒業する。高校自体への登校も後一ヶ月位だろう。

 特に深く考える必要も無いと思うが、一応注意はしておかないと。



「麗人君、今の子、七瀬由紀子さんと仲が良いようだけど、あくまで友達の範囲にしておいてね」

「そのつもりですけど」

「麗人君がそのつもりでも、周りはそうは見ないわ。学校の中は良いとしても今の様な光景が外で第三者にしられたら、あの子が嫌な思いをする事になる。そんな事分かるわよね。あの子の為にも接し方には線を引いて」

「分かっています」


 分かっているけど、俺から壁を作る線を引くなんて事はしたくない。初めて見つけた俺の心の中にゆったりと座っている女の子だから。



 塾が終わって家に帰ると毎年恒例の我が家のクリスマスパーティだ。今年もお父さん、お母さんそれに美麗と俺で楽しく過ごした。


 俺のCMやドラマに出た出演料は、俺名義の銀行口座に振り込まれている。高校生のアルバイトでは見れない数字だ。だから、


「お父さん、これプレゼント。お母さんはこれ。美麗はこれ」

「「「ありがとう麗人」」」


 お父さんには、有名なサイコーの腕時計。シリアルナンバー付きで世の中に一個しかない特注品だ。


 お母さんはブレスレット。これも有名なブランドの一品もの。そして美麗には革バンドの素敵な腕時計を贈った。


 全部、諭吉さんが三桁出て行ったけど、分不相応に貰っている出演料だ。家族のプレゼントに使うのが一番いい。




 お正月になり、俺と美麗、それに秀子さんと紅さんのボディーガード?付きで近くの神社に初詣に行った。


 思い切り注目を浴びたけど、もう慣れた。声を掛けて来る人は紅さんと秀子さんが避けてくれる。


 そして、俺のポケットには、七瀬さんの手袋を入れてある。手に付けると絶対に問題になると分かっているので仕方ない。


おみくじは、俺も美麗も大吉。それを見た紅さんと秀子さんは何故か見せてくれなかった。


 家に帰ってから、先に来ていたお母さんのマネージャの薄井さんと紅さんが、恒例のお母さんからの心遣いを貰っている。

 そして、俺には良からぬ事にしか聞こえない密談?を三十分近くして帰って行った。


 今年は、夏の事もあり秀子さんの家にも挨拶に行った。彼女のお父さんとお母さん、それにお爺ちゃんとお婆ちゃんまで出て来て盛大に出迎えてくれた。


 秀子さんはそこで俺の妻になるモードを全開して両親を喜ばせていたけど俺は苦笑いするしかなかった。



 短かった冬休みも終わり、明日は三学期の始業式。今年は大学入学共通テストと個別試験がある。それで俺の未来が決まる。全開で頑張らないと。


―――――


この作品を読んで、笑っちゃうとか、なんじゃこりゃと思われた方、次も読みたいなと思われた方ぜひフォローと★★★(ご評価)を頂けると嬉しいです。ご感想もお待ちしております。


宜しくお願いします。 

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