第113話 学期末も近付いてきた


 中間考査結果は、大体予想通りだった。芦屋さんと文子さんが同一位。俺と望月さんが同二位、健吾と雫が同三位と日頃皆で塾に通いながら日々の予習復習をしていた結果が出た感じだ。

 誠也は十位だ。川上と友永さんが同八位というのは、仲の良い証拠だな。



 健吾達と一緒に教室に戻ると何故か、芦屋さんと文子さんが望月さんを睨んでいる。望月さんは素知らぬ顔で二人を相手にしていない。


 俺が席に着くと

「麗人お兄様、やはり私と一緒に勉強しましょう。塾だけでは足りません」

「何言っているの。麗人さんは私と勉強するのよ」


「あら、二人共どうしたの。麗人は私といつも一緒なの。二人は一位争いしていなさいよ。ねっ、麗人」


 な、何だこれは?


 横に座る健吾が、

「麗人、二点差だけでも争奪戦のネタにされている」

「えっ、たった二点だぞ」


「駄目です。麗人さん、その二点差が勝敗を分けます」

「そうですよ。望月さんなんかと一緒に居ては駄目です。私と一緒に高みを目指しましょう」

「なんかとは何よ。なんかとは?」


 あっ、健吾と雫、それに誠也達まで腹抱えて笑い始めた。勘弁してくれ。


 予鈴が鳴って桜庭先生が教室に入って来た。


「皆さん、静かに」


 桜庭先生いつもありがとうございます。




 放課後になり水やりの為に七瀬さんに声を掛けて、園芸部室兼倉庫に行ってジョーロとリールフォルダを出して水を汲んでいると


「早乙女先輩、中間考査の結果見ましたよ。凄いですね。二点差で二位なんて。私なんか三十位ですよ。先輩見ているとほんと遠くにいる人だなって感じます」

「あははっ、そんな事ないよ。今だってここにいるだろう。それに今年の一年生は頭のいい子ばかり入って来たと聞いている。三十位でも凄いじゃないか」

「お世辞はいいです。言っている意味が違います。心の問題です。でも先輩とこうして水やりしていると確かに近くにいるなって物理的には感じますけど」


 やはりなんか違う。この子とは他の人と違う会話。そう高校生の先輩と後輩の会話。いままでこんな事なかったからかな。でもいいや、この子と話していると心が安らぐ。



 それから二週間後、最後の模試の日になった。この結果で、志望大学を最終的に決める。特にあそこは、第一次選抜でこれも重視している。全力でやるしかない。



 一日掛けての模試。いつもそうだけど今回は疲れた。気合を入れ過ぎたかな。

そして、この後の土日二回を使用してドラマのちょい役と言ってもまた十五分位の撮影が入った。十五分の撮影に四日間使う。


 勿論、その間は学校と塾で忙しい。でも最近楽しみにしている事が出来た。園芸部の水やりで七瀬さんと話す事だ。今日も彼女と一緒に水やりをしている。


「先輩、模試どうでした。私なんか、答えられない所も有って大変でした」

「俺は、全部解答したけど、自信無いところが少し有ったな」

「えっ、全部解答したんですか。あんなに問題あるのに?」

「いや、学年毎に問題違うし」


「三年の方が圧倒的に多いですよ。凄いなぁ早乙女先輩は。勉強教えて欲しい位ですよ」

「あははっ、そうしてあげたいけど、勉強と撮影に忙しくてね」

「えっ、また撮影しているんですか。それってCMですかドラマですか?」

「ドラマだよ」

「えーっ、私絶対に見ます」


「ありがとう、でもちょい役だから」

「そんな事無いですよ。早乙女先輩は立っているだけで吸い込まれる様な美しさがあるの分かってないんですか?」

「そう言われてもなあ。それに今もそう見えるのか?」


 七瀬さんが近付いて来て俺の周りをクルリと回りながら

「あはは、先輩は、やっぱり先輩だ。あれはテレビや映画の中だけなのかな?」


 不思議だ。この子にこういう事されたり言われても何も抵抗がない。芦屋さんや文子さんと比較しても仕方ないけど、クラスの人達と話している感覚とも違う。なんだろう。



 水やりを終えて校門に向かう途中

「早乙女先輩、撮影と勉強頑張って下さいね。応援しています。あっ、それと…もし出来たら私の勉強も見て下さい。じゃあ、今日はこれで、さようなら」


 思い切り明るい顔して手を振りながら車の横を通って駅に向かった。また会いたくなった。あの子と話していると本当に心が安らぐ。


 俺は車の後部座席に座ると紅さんが

「麗人君、あの子は?」

「ああ、俺と同じ園芸部に所属していて水やりを同じ曜日にやっている一年生の七瀬由紀子さんです」

「そう、仲が良さそうね」

「まあ、同じ園芸部員ですから」


 調べる必要がありそうね。今の麗人君に要らぬ噂は立てたくない。




 そして撮影の日

 俺も撮影に慣れて来たのか、現場に行っても前の様な緊張感はない。スタッフと顔合わせをして、俺の出る場面の読み合わせ、殺陣指導の先生に従って動きを確かめて、リハして、着替えて本番を撮る。


 その後、カメラチェックしてOKになる。ほんとこの流れが身に付いて来た。気負いしない分だけ楽だ。


これで、今年約束していた撮影は全て終了だ。来年は、俺が受験終わるまで撮影は入れていない。



「紅ちゃん、麗人君、慣れて来たみたいだな」

「ええ、これからですけど、取敢えず撮影に慣れてくれば時間短縮にもなります」

「そうだな。スクリーンを背負って立つ一人になって貰いたいからな」

「どうですかね。彼は大学卒業までと決めていますけど」

「それを何とかするのもマネージャの仕事だろ」

「それはそうですけど」


 私は麗人君が、大学卒業したらこの世界とも離れて欲しいと思っている。理由は簡単だ。この子にはこんな世界に浸かって欲しくないからだ。


 自分の進みたい道を歩んで欲しい。そう言う意味ではこの世界から守ってあげるのも私の役目だ。花蓮さんも同じ気持ちだ。



 模試の結果が返って来た。帝都大理科二類はA判定で変わらない。健吾も雫も大丈夫なようだ。後は今週金曜日から土日を挟んで実施される最後の学期末考査だ。


―――――

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