第112話 中間考査も模試もこなす中で


 月曜日から木曜日まで毎日塾に通っている。塾の入口に立てかけられた「早乙女麗人保護プログラム実施中」という看板のお陰で、塾関係者以外の人が中に入って来る事は無くなったが、この看板のお陰で、俺、いや俺達がこの塾に通っている事が、学校は勿論、近隣の街でも有名になり、入塾も申し込みが増えて校長がホクホク顔だ。お陰で俺達の塾の出入りが大変になったけど。


 個別講義の中では、芦屋さんも文子さんもお互いを干渉せずに真面目に勉強している。流石に余裕は無くなって来たようだ。

 秀子さんもそれを知ってか、講師として真剣に俺達に教えている。


 そんな中で行われた十月上旬の模試は、俺も真面目に取り組んだ。勿論第一志望は帝都大理科二類。一類でも良いのだが、研究の選択範囲を狭くしたくない。


 丸一日掛けての模試も終わった翌日、

「麗人、どうだった?」

「一応全問解答したけど、自信のない問題がいくつかあった。まだ勉強不足を実感したよ」

「俺も同じだ」

「私も。でも大学もまた三人で行きたいしね」

「ああ、小学校、中学校、高校と一緒だからな。大学も一緒に行こうぜ」

「うん」

「おう」


「あの」

「なに、芦屋さん?」

「その三人の中に私も入れてくれると」

「私も入れてください」


「文子さんも?」

「だって、麗人さんは将来、私の夫となる人ですよ。同じ大学に行くのが当然じゃないですか」

「ちょっと、待ちなさいよセガールさん。なに今の発言。麗人の妻になるのはこの私よ」

「ふん、あんたなんかより私の方が、ずっと麗人さんと似合っています」

「何ですって!」


 またこれだよ。ほんのちょっとの事でなんでこうなるんだ。同じ大学行きたければ受験するだけじゃないか。


「二人共止めて下さい。同じ大学に行きたいなら受験すればいいだけの事ですよ」

「それは分かっているけど、この人が」

「何言っているのよセガールさん」


 また、目で火花を散らしている。机近くなんだから何とかならないものか。


 誠也達が寄って来た。

「麗人達は凄いな。俺なんかとてもそこは志望校に入れられないよ」

「誠也、そんな事無いだろう」

「いやいや、でも今回の模試でA判定が出れば考えられるけど」


―ねえ、聞いた。

―うんうん。

―狙う、帝都大?

―受験料の無駄になる。

―そうだよねぇ。

―悔しいなぁ。


 皆さん、まだ間に合います。一生懸命勉強しましょう。


 そして模試が終わった後の三連休は、またCM撮りだ。今度は清涼飲料水のCMだ。これは、相手がい…。紹介されたのはなんと…九条静香先輩だ。

「麗人、久しぶりね。前はちょっとだけだったけど、今度はストーリーが有るから楽しみにしているわ」


「紅さん、知っていたんですか?」

「いえ、確か談合坂46のセンターの子だって、聞いていたんだけど」


「あっ、紅さん」

 九条さんのマネージャかな。


「どうしたんですか。急にキャストの変更なんて」

「ごめんなさい。談合坂46のセンターの子が急に都合悪くなって、九条さんにしたのよ。この子、正式にうちの事務所になったから」


 えっ?!九条さん、どうしたの?


「麗人、驚かなくても良いわ。私のお母さんもモデルしていた時期があったし。麗人のお母さんから聞いていたでしょ。私の出演頻度なら学業と一緒に出来るわ」

「そうだと良いんですけど」


「みなさーん、顔合わせしますよ」


 それからはいつも通りのスケジュールだったけど、九条先輩とは、手を繋いで青空を一緒に見るとか、清涼飲料水がはじける瞬間に一緒に驚くとか、結構べったりだった。


 撮影が終わり、これにまた背景を合成する。ある程度はスタジオの中でも出来るので、この合成をすると本当に俺達が草原や浜辺に居る様に見える。これならロケが少なくて済むな。


 家に帰って、お母さんに話をすると

「美里ちゃんから連絡が有ったわ。静香ちゃんが麗人とCMで一緒だから宜しくって」

「お母さん知っていたの?」

「後からね」


 あっ、美麗が凄く怒っている。


 だから私は反対したんだ。表と裏が絶対違う事が多くなる。今回だっていい例だ。先にお兄ちゃんに工藤先輩が出ると言ったら断るだろうから、急な変更の様に装っている。

 優美ちゃんからは聞いているんだから。



 撮影が終わった次の週は、その次にある中間考査に向けて健吾や雫と一緒に学校の図書室で一緒に勉強して家に帰っても勉強した。


 芦屋さんや文子さんがもっと色々言って来ると思ったけど、今の所静だ。流石にあの大学は二人の学力でも気楽に入れないのだろう。


 中間考査は四日間に渡って行われる。火曜から金曜までだ。それが終わると一週間、間があって、次の週が最後の模試だ。



 最後の模試の前に中間考査前に受けた模試が帰って来た。理科二類A判定だ、よかった。横に座る健吾を見ると頷いている。前に座る雫も微笑んでいる。三人共良かった。


 健吾の前を見ると芦屋さんが、ニコニコしている。文子さんに至っては余裕って感じだ。流石店王子高校から来ただけある。


 塾も行っているが、こちらは相変わらずだ。水やりは七瀬さんと楽しくやっている。何故かこの子だけは、変に壁を作らずに話す事が出来る。


 勿論、健吾や雫、美麗だって壁なんて作った事ないけど、ちょっと違った感覚だ。

「早乙女先輩、最近楽しそうですね」

「そう。変わらないと思うけど」

「そうかな。水やりしている時、とても嬉しそうですよ。花が本当に好きなんですね」

「あははっ、花は大好きだよ。もうこの高校の花壇の世話をして二年半だからね」

「凄いですね。何しても早乙女先輩は凄いです。受験頑張って下さいね」

「ありがとう」

 なんだろう、この感覚?


―――――

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