第111話 受験勉強の合間に


 学園祭も無事終わり、塾も五人?で行き始めた九月最初の三連休はCMの撮影が入った。これは環境保全に全社を挙げて取り組んでいるという企業のイメージ向上のPRだ。


 撮影内容を聞くと、俺は微笑むだけ。スタジオでグリーンの幕が後ろにあり、歩いているイメージとか振り返る動作をするだけだ。簡単に終わってしまった。

 

 でも後でバックの背景を合成すると、なんと俺が自然の中をゆっくり歩きながら空を見上げ自然に触れて微笑むというもの…は良いのだが、何故か今回も女性役。


 生まれ持ってしまった容姿故の悲しさ?だが、スタッフは上手く出来たと大喜び。何とも言えない感じだ。


 撮影の帰りに紅さんに

「偶には、男役って無いんですか。今迄全部女性役ですよね」

「ごめんね。麗人さんの美しさって、女性が醸し出す美しさじゃないのよ。なんて言うかな、見ているだけで引き込まれる魅力があるの。

 でも事務所にも言って、今度からはなるべく男性役でオファーが来た物を取る様にする」

「宜しくお願いします」

 しかしなぁ、来るのかな男役。


 そのCMは二週間後からからテレビで流される事になった。特に番組とかドラマ固定ではなく、複数の番組にその企業がスポンサーとして流す様だ。


 それより、来月初旬に模試、その後内申に影響する中間考査、そして翌月初旬に最後の模試がある。いくつかの大学は選んでいるが、この二つの模試で最終的に第一志望を決めないといけない。


 学校は、相変わらずだ。車で校門に到着するとファンの方達が挨拶して来る。俺もそれに返して、警備員さんと俺を守る会の人達にお礼を言って校舎に入る。もう慣れてしまった。


 お昼休みも美麗が優美ちゃんを連れて教室に来ると、俺、健吾、雫、芦屋さん、文子さん、近くに望月さんがいて、教室の中は、クラスの人以外は立食みたいな状況になっている。


 芦屋さんも文子さんもドラマやCMに出ているし、俺も出ているから、もう集まる事も少なくなるだろうと思っていたのだけど全然減らない。


 そして放課後になると花壇の水やりになるのだが、昼休み中にお弁当食べながら美麗が


「お兄ちゃん、十月には引退でしょ。そろそろ次の体制考えないと」

「そうだな。新入生が入学して来る迄、美麗、七瀬さん、百瀬さんそれに九条さんの四人で回してもらうしかない」

「でも、一人では厳しいよ。今まで通り二人体制にしないと」

「しかし、俺と望月さんは三年だから、時間が少ない。桜庭先生に言って、特別に部員を二人募集するか?」


「「「「「「「えっ、園芸部員の募集!」」」」」」


―なあ、それって。

―うん、園芸部員美人ばかりだし。

―今、可愛い女の子だけだよな。

―うんうん。


―男子何考えているの。

―園芸部員は女子がなるって決まっているの。


 そんな事決まっていたっけ。


「美麗、後から桜庭先生交えて部員だけで考えよう」

「そうだね」



 今日は、月曜日、俺と七瀬さんが、水やり当番だ。まだ午後二時半。一年生の七瀬さんとは、授業終了時間が違う為、自分の教室で待っていて貰っている。


 俺が迎えに行くと、教室に残っている生徒が一斉に俺を見た後、七瀬さんを見て


―良いなあ、七瀬さんは。

―運の切れ目が縁の切れ目。

―元々縁ないだろうが。

―それはそうだけど。


 苦笑いしながら七瀬さんを教室から連れ出して、校舎裏の園芸部室兼倉庫に行く。二人で校舎裏の水やりをしながら

「七瀬さん、補充の二人、心当たり有る?」

「うーん、心当たりというか、みんななりたがっているから、誰って指名し辛いです」

「そうか。やはり桜庭先生に頼るか」

「その方が良いと思います」

 七瀬さんは、今は十分に一人でやれるだけの技量、花に対する愛情がある。次期園芸部長はこの子が良いと思っているのだが、まだ一年生。美麗と美奈ちゃんのどちらかという事になるんだが、どうしたものか。


 二人で校門前の花壇にも水やりを終えると、まだ午後三時だ。塾が始まるまで時間がある。

 俺は七瀬さんと一緒に桜庭先生を職員室に訪ねた。職員室の端のソファに二人で座らせられると

「そうねぇ、確かに女子一人でやるのは色々と難しいわね。早乙女君が入学する前だったら問題なかったのだけど」


 えっ、俺の所為?


「女子二人でやるのがいいわね。でももう週二回やればいいんでしょ。三学期は週一回だし。二組で良いんじゃない」


 七瀬さんが、

「私もそれでいいと思います。三組いれば水やりや草むしりは楽だけど、今から増員は、何となく混乱を招くだけの様な。それに肥料の施しの時だけは四人でやれば良いし」


 やっぱりのこの子。部長に向いているな。一年生なのに職員室で物怖じしない言い方。凄いな。


 取敢えず、増員は二組で据え置きという事にして、


「桜庭先生、もう十月になります。園芸部長の交代時期なんですけど」

「妹の美麗さんか、九条優美さんのどちらかだから迷う必要ないでしょう。出来れば美麗さんにやって貰いたいわ。そうすれば来年の園芸部員募集が楽だもの」

 そんな理由ですか?



 桜庭先生の考えもあり、七瀬さんの助言も有りで十月からは二組体制になった。その後、俺は紅さんが待つ校門に行くのだけど途中、七瀬さんが、


「早乙女先輩って凄いですよね。芸能人だからもっと高飛車なのかなと思っていたけど、全然違うし。

 普通に受験控えているのに、こうして園芸部で水やりして、部や部員の事も考えて、塾にも行ってる。

 CMやドラマの撮影もしている。気取らないし、気さくだし、話していても普通に高校生って感じ。皆が先輩に憧れるの分かる」

「そんなに褒めなくてもいいよ。俺はただの高校生だ。CMやドラマ出演は、厄除けみたいなものだ」

「厄除け?」

「ああ、毎日俺をテレビとかで見れば、飽きるかなと思ってさ」

「ぶぶーっ、それは間違いです。返って先輩の魅力を思い切りばらまいている様なものです。先輩、誰かに言われたんですか。それ?」


 なんか凄い事言われたぞ。話が違う様な。


「あっ、もう校門についちゃった。もう少し話たかったな早乙女先輩と」

「今度の水やりの時にまた話せるよ」

「そうですね。楽しみにしています。勉強頑張って下さい」

「ありがとう」


 七瀬さんはそのまま車を避けて駅に向かった。なんだろう、あの子と話していると気持ちが落ち着くと言うか、居心地がいいというか。何だこれ?


「麗人さん、どうしたんですか?」

「いえ、塾に行きましょう」

 こんな麗人さんの顔始めて見た。


―――――

この作品を読んで、笑っちゃうとか、なんじゃこりゃと思われた方、次も読みたいなと思われた方ぜひフォローと★★★(ご評価)を頂けると嬉しいです。ご感想もお待ちしております。


宜しくお願いします。 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る