第109話 海水浴二日目


 今日は、海水浴に来て二日目だ。朝、午前七時には起きて、健吾と一緒に一度大浴場でのんびりした。他のお客さんも数人いて驚いていたけど無視した。


 その後、展望レストランでビュッフェ形式のモーニングを食べることにした。流石に、サングラスもサンシェードもしていないので、俺達が入って行くと


―ねえ、あの人。

―そうだわよね。でも海水浴に来るかなぁ?

―誰だって来るでしょう。

―握手とかしちゃ駄目なのかな?


 それは無理です。


 俺達がテーブルに着いた後、紅さん、秀子さん、雫が先に料理を取りに行った。周りの人がジッとこちらを見るけど、もうそれは慣れた。


 女性達が取り終わった後、健吾と俺が料理の置いてあるところに行ってプレートを持ってウィナーとか卵焼きを取っていると

「あの、早乙女麗人さんですよね」

「はい」

「ほ、本物ってとても綺麗ですね」

「ありがとうございます」


 そこはその程度で済んだのだが、今度はご飯やお味噌汁を取ろうとすると

「あの、私が盛っていいですか?」

「私が盛ります」

「いえ、私が」


 はぁ、なんでこうなる。あっ、紅さんが来た。


「済みません。彼は休養で来ているんです。静かにして貰えますか?」

「「す、すみません」」


「紅さん、ありがとう」

「麗人さんは、もうテーブルに戻って。私が持って行ってあげるから」

「「えっ?!」」

「私は彼のマネージャです。当たり前です」


 紅さんの目の圧が凄い。女性二人がたじろいでいる。


 俺が、テーブルに戻ると健吾が

「麗人、明日の朝は部屋食か個室のがいいんじゃないか?」

「それも良いけど、こうして綺麗な景色見ながら普通に食べれる方がいいよ。あの位は許容範囲だろう」

「麗人、明日は私が全部取って来てあげる」

「秀子さん、それは悪いです」

「良いのよ。麗人の為だから」

「はぁ」

 健吾と雫が笑うのを我慢している。全く。



 朝食を食べ終わると一度、部屋に戻って、水着に着替えるとサングラスにサンシェードそれにラッシュガードを着て、五人でフロントに降りた。


―ねえ、見て。サングラスとサンシェードで隠しているけど。

―綺麗ねえ。サイン欲しいんだけどなぁ。


 そう言えばサインなんて書いた事ない。


「麗人君。サインの練習しないとね」

「俺、必要ですか?」

「麗人、自覚持て。でもあれって独特だよな。自分で考えるのか?」

「普通は自分で考えますね。麗人君のお母さん、花蓮さんも自分で考えたのよ」

「へーっ、お母さんが」

 知らなかった。



「ばれてもこの程度ならいいじゃない。早く浜辺に行こう」

「そうだな」



 昨日と同じ様に監視台の傍にテントを張った。外にシートとビニールベッドを置いて、紅さん以外が軽く準備運動をした後、海に入った。


 かるーく泳いだりしていると、サンシェードが脱げてしまった。不味い。秀子さんが取ってくれたけど。周りの人に気付かれた様だ。でもいいか。


―似てるわね。

―本人じゃね。でも良いじゃん。芸能人だって海水浴に来たいだろう。


 ご理解ありがとうございます。


「気持ちいいなぁ」

「ああ、そろそろ上がるか」

「そうだね」


 雫と秀子さんが目の前を歩いているけど、秀子さんのスタイルが尋常じゃない。周りの男の人が注目している。


 テントの傍に行くと…。何故か周りが昨日より人で一杯だ。テントの中に入ってからサングラスとサンシェードを取ってタオルで頭と顔を拭くと


「麗人君、大分周りにバレたわね。今日はこのままで行こう。何か有っても私と東郷さんで対処出来るし」

「麗人、大丈夫よ。私が付いているから」

 秀子さん、自分を心配した方が…。



 健吾と雫には悪いが、俺と秀子さんがテントの中に入っている。周りから思い切り見られている感じがする。でも俺だけじゃないみたいだ。それが証拠に男性の視線も多い。


 まあ、これ位は慣れないといけないんだろうな。


 もう一度海に入って遊んだ後、お昼にする事にした。昨日と同じ様に紅さん、秀子さん、健吾が海の家に昼食を買いに行っている。


 あっ、秀子さんが声を掛けられた。でも軽く避けている。あの人慣れているのかな。


 三人が戻って来ると、トウモロコシ焼き、イカ焼き、おでんにフランクフルト。それに焼きおにぎりだ。ジュースは勿論五本ある。


「凄い、夏ーっ、海ーっ。って感じね」

「やっぱり、海水浴はこうでないとね」


 少しして海の家の男の子と女の子がトレイにラーメンを三つ乗せて来た。

「お待ちどう様です」

「ありがとう。そこに置いておいて」

「はい」


 俺がラーメンをうけ取ると

―やっぱり本物だ。

―今日はラッキーだな。


 ニコニコしながら戻って行った。


「麗人君、この位が普通だから。早く慣れましょ」

「分かっているんですけど」


 やはり、学校や塾とは違う感覚だ。



 お腹が一杯になったと少し休んでから、波打ち際で砂遊びをした。ここは紅さんも一緒に来ている。立って、俺達に近付こうとしている人達を敬遠している。流石に慣れている。 


 お陰で一時間位、波打ち際で遊べた。周りは遠巻きにこっちを見ているけど。それから一度テントに戻って休んだ後、もう一度海に入ってからホテルに戻ろうと思っていたら


「見ーつけた」

「えっ?」


 そこに立っていたのは…。

「私よ。忘れたの?」

「そ、それは忘れないですけど」

「私達も毎年、この海に来ているのよ。ホテルも同じ。一昨年偶然あったらから今年も会えるかなっと思って探したんだ。そうしたら人が一杯いるから直ぐに分かった」

 

 目の前に立っていたのは、新垣優子さんだ。俺達が一年生の時の都立星城高校の元生徒会長。


「ねえ、早乙女君、一緒に遊ぼ」

「誰だかすみませんが、麗人君は休養で来ているんです。声を掛けないで下さい」

「あなたは?」

「私は早乙女麗人のマネージャです」

「へーっ、最近、映画やドラマ、それにCMまで出ているからもしかしたらと思ったんだけど、早乙女君もついに芸能界入りかぁ。あっ、私は元都立星城高校の生徒会長で早乙女君とは仲のいい友達よ。ねっ、麗人」


 お友達になった覚えは無いですけど。


「新垣さんの言っている事は、仲のいい友達以外は本当です」

「早乙女君、いつからそんなに意地悪になったの?」

「麗人、新垣さんなら良いんじゃないか。一昨年の事もあるし」

「健吾が言うなら」

「小早川君ありがとう」


 仕方なしに、俺、健吾、雫、秀子さんそれに新垣さんも加わって遊ぶ事は良かったんだけど…なにせ三人共美人でスタイルがいい。遠巻きに俺達を見る、男性や女性が多い事、多い事。流石に疲れた。


 新垣さんと別れる時、

「早乙女君、帝都大来るんだよね。だから偶には会えるよね。楽しみにしている」


―聞いた。帝都大だって。

―綺麗で頭が良くて男でかっこ良くて。

―あんな人が私の夫になったらなぁ。

―今度一緒に鏡見ようか?

―うるさいわね。


―なあ、来年帝都大受けるか?

―まあ、誰でも受けれる。

―いや、お前は第一次選抜で終わりだ。

―お前もだろ。


 こら、プライベートな事外で話すな。だからこうなるじゃないか。



 その日は、朝と同じ様に大浴場に行ったのだけど…。朝はほとんど人が居なかったので良かったのだが、男湯と書かれた暖簾を潜って入るなり


「うぉ、綺麗なお姉さん。ここは男湯ですよ」

「いや、俺は」

「でも一緒に入りたいと言うなら叔父さんと入ろうか」

「あの…」


 仕方なしに来ていたものを全部脱ぐと

「えっ、付いている。男?」

「はい」

 当たり前です。俺は男です。


「麗人、どうする?」

「やっぱり無理かな?俺、部屋風呂で諦めるよ」

「明日の朝にするか。俺も部屋風呂にする」

「悪いな健吾」

「仕方ないさ」


 やはり、知り合い以外と一般の風呂に入るのは難しい様だ。夕飯は、個室の食事にして貰った。

 本当は展望レストランに行きたかったんだけど、仕方ない。


「紅さん、明日は、早めに展望レストランで朝食を摂りたいんですけど」

「私は構わないわ。他の人は?」

「麗人がそう言うなら」

「俺達も」

「そう、じゃあ、そうしようか」



 次の朝は、午前六時に起きて健吾と二人で大浴場に行った。数人のお客さんいたけど、そこは無視して入った。向こうが思い切り驚いていたけど。


 そして午後七時には展望レストランでゆっくりと朝食を摂った後、帰途についた。


 紅さんが運転する車の中で

「健吾、雫。来年はプライベートビーチでも行くか?」

「俺達は構わないけど、麗人出れるのか?」

「大学生だし、構わないと思うけど。西伊豆の我が家の別荘も良いけど、あそこは周りがフリーだからな」

「麗人、また私を誘ってね」

「はい考えておきます」

 秀子さん、今回はお母さんのお願いです。


「麗人君、行けるなら事務所の方で手配しましょうか。西伊豆の土肥と言う所にプライベートビーチがあるわ」

「えっ、本当ですか?」

「でも、その代り仕事もしっかりやって貰うわよ」

「はぁ」


 やっぱりそれが条件かよ。仕方ないかなぁ。山でもいいんだけど。

 

―――――

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