第106話 夏休み最初は静かだけど


 夏休みが始まった。水やりは、学校の用務員さんも交代要員に入れられるので、一週間に三回の水やりだけど四交代で出来るので大分楽だ。草むしりも担当の人が気付いた時に抜き取るという事にしている。


 そして、翌日

「「おはようございます」」

「おはよう、健吾、雫。入って」

「「お邪魔しまーす」」


「あらーっ、久しぶりね。健吾君、雫ちゃん」

「麗人のお母さん、久しぶりです。いつも綺麗ですね。ドラマ見ています」

「健吾君、いつからそんなに口が上手くなったの?」

「そんな事無いですよ」

「そうそう、リビングは三人が勉強できるようにしてあるか」

「ありがとう、お母さん」

「どういたしまして」



 俺は、二人をリビングに連れて行った。

「麗人の家、久しぶりだな。一昨年の夏以来じゃないか?」

「ああ、去年は撮影だったしな」


「二人共、話はいいから早速始めよう」

 雫に突っ込まれた。


 午前九時半に来て貰っている。三人共成績は優秀だから、誰が誰に聞くという事は無い。但し、同時に同じ科目をやって、終わったら答え合わせをするという方法を取った。同じ答えになっても解き方が違うとお互いの勉強になるからだ。


 しかし、二人共早い。カリカリという音しか聞こえないけど、一時間半もしない内に雫が数学Ⅱと数学Bを終わらせてしまった。

「えっ、もう終わったの?俺まだ三問残っているけど」

「俺も」


 健吾と俺は同じ処理能力の様だ。お互いが三問を解いた後、最初から見せ合うとやはり解き方が違う。

誰のが正しいという訳では無いが、雫の思考は俺達より進んでいる様だ。解き方にセンスがある。健吾と一緒に参考にしながら、今後その方法で行こうという事になった。


そんな形で進めていると直ぐに午前十二時半になった。お母さんがリビングに顔を出して

「お昼ご飯出来たわよ。ダイニングに来て」

「行こう、健吾、雫」

「「うん」」



 ダイニングに行くと美麗も降りて来ていた。

雫「美麗ちゃんは一人なの?」

「明日から優美が来る」

健吾「じゃあ、明日からは、学校と同じ感じのお昼になりそうだな」

「そうだな」

「五月蠅いのが居ないから全然学校より良いけど」

雫「それは言えるわね」



 そんな形で一日目が終わった。初日としては進みがいい。だけど、俺はすっかり忘れていた。二人の事を…。


 三日目になりいつもの様に午前九時半から始めたのだが、午前十時に


ピンポーン。


「あら、誰かしら」


 私は玄関のカメラを覗くと、あらっ、文子さん。直ぐに玄関を開けると


「おはようございます」

「おはよう、文子さん。麗人に用事?」

「はい、一緒に宿題しようと思いまして」

「そうなの、ちょっと待ってね」



 俺達がカリカリと主題をこなしていると

「麗人、文子さんがいらしたわ」

「えっ!」

「麗人、予想の範囲内だな」

「私は初日からと思っていたけど」


「いや、俺は来るとは思わなかった」

「玄関に待たせる訳には行かないわ。とにかく、連れて来るわよ」

「麗人、仕方ない」


「お母さん、俺が行く」


 俺は玄関に行くと

「麗人さん、おはようございます。夏休み、一人で宿題をするのは寂しいです。一緒にさせて下さい」

「いいですけど、健吾と雫も居ますよ」

「私は構いません」

「分かりました」


 リビングには、既に四人目の座る所が用意されている。流石お母さんだ。

「おはようございます、小早川さん、東雲さん」

「「おはようセガールさん」」

「三人の所をお邪魔して済みません。一人ではやはり寂しくて」


「俺達はいいけど。なっ、雫」

「うん、麗人さえ良ければ」

「麗人さんは良いと言ってくれました」

「文子さん、雫の隣に座って下さい。早速始めましょう」

 俺は文子さんに俺達の主題の進め方を話すと


「それは素晴らしい事です。私も皆さんの解答を教えて貰うのが楽しみです」


 午前中に物理の答え合わせをしたが、文子さんの解き方のセンスは、俺達を上回っていた。流石だ文子さん。健吾も雫も感心している。


 やがてお昼になり、四人でダイニングに行くと美麗と優美ちゃんが座っていたのはいいんだけど


「えっ、セガールさん、何でここに?」

「はい、麗人さんに宿題を教えて貰いに来ました」

 文子さん、本当の事を言いましょう。


「そうなの、お兄ちゃん?」

「いや、俺達が教えて貰っている感じだ」

「そう、なら仕方ないわね」


 せっかくお昼はお兄ちゃん達と優美とだけで一緒に楽しく食べれると思ったのに。



 夕方になり、宿題が終わる時間になると

「麗人さん、今日はとても楽しかったです。明日からも来て宜しいですか?」


 俺は健吾と雫を見た。二人共仕方ないという顔をしている。

「分かりました。いいですよ。駅までは健吾と雫と一緒に帰って下さい」

「分かりました。小早川さん、東雲さん、宜しくお願いします」

「こちらこそ」


 まあ、確かに武道の腕前だったら、この二人より文子さんは強いけどな。



 そんな感じでもう夏休みも六日を終えて、宿題も七割がた終わった次の日、例によって四人で宿題をやっていると


 ピンポーン。


 あら、誰かしら。私は玄関のカメラを見ると、あらっ、芦屋さん。これは…。でも外に立たせておくわけにはいかないし。


 玄関のドアを開けると

「おはようございます。麗人のお母様」

「おはよう、芦屋さん。麗人に用?」

「はい、仕事の隙間が出来たので、一緒に夏休みの宿題をやろうと思いまして」

「ちょっと待ってね」


 これはあまり良い状況では無いわね。麗人どうするのかしら。


「麗人、芦屋さんが見えたわ」

「「「「えっ!」」」」

 流石に全員で驚いた。


「麗人」

「健吾分かっている」

「麗人さん、私が追い返しましょうか」

「流石にそれは出来ないです」


「健吾、雫。どうするかな?」

「門前払いは不味いだろう。これも予想範囲だ」

「私も遅すぎた位」

「仕方ないか。玄関で待たす訳にもいかないし。文子さん、仲良くお願いします」

「向こうが、そうであれば良いのですが」



 俺は、玄関に行くと

「麗人お兄様、来てしまいました。一人で家でやっていても寂しいです。一緒に宿題をやらせて下さい」

「それは、良いのですが、文子さんも来ています」

「えっ!」

 あの女、どこまで私の邪魔を。


「私は宜しいです」

「分かりました」


 リビングに来て貰うと既に二人の目から火花が出ている…様に見える。


「うーん、仕方ない。俺がテーブルの誕生日席に座るから健吾と雫は俺の両隣りに座ってくれ。文子さんと芦屋さんはそれぞれ健吾と雫の隣で」

「「分かりました」」


 芦屋さんにも俺達の宿題の仕方を教えると

「素晴らしいです。麗人お兄様。私も三人に教えて貰えるのでワクワクします」


 芦屋さん、ここには文子さんもいるんですけど。


 そして午前中が終わり化学の答え合わせを始めた。驚いた事に解き方が、文子さんと芦屋さんは一緒なのだ。この人も俺達三人と解き方のセンスが違う。あっ、二人の火花でノートが燃えそう…嘘です。



 更にダイニングに五人で行くと美麗と優美ちゃんが居て

「お兄ちゃん、これどういう事?」

「どういう事と言われても」

「美麗、皆で楽しく座りましょう」

 お母さんにたしなめられた。


 我が家のダイニングテーブルを大きくて八人座りだ、お客様が来た時の為だ。でもいくら八人座りとはいえ、七人で座ると結構な雰囲気だ。


 なによこれ、学校と同じじゃない。お邪魔虫が二人も居て。


 美麗の顔を見ると完全に怒っているのが分かる。でもどうしようもない。


 凄い形になったけど、俺と健吾と雫にとっては、問題を解く時の思考を教えて貰えるのでとても助かっているのだが、文子さんと芦屋さんは面白くない様だ。でも二人共頭脳明晰だ。俺達と思考回路が違うらしい。



 芦屋さんが乱入してから三日が過ぎ、三十日の午後三時までには全てが終わった。健吾と雫にはこの後の事はスマホで話す事にしている。この二人には聞かれたくないからだ。でも


「麗人お兄様、この後はどうするのですか?」

「麗人さん、この後は?」


「ちょっと用事が有るので二人とは一緒に居れません」

「そうですか。ではまた学校で」

「残念です。今度は夏休み明けですね」


「はい、文子さん、芦屋さん。夏休み明けに会いましょう」

「「はい」」



 ふーっ、二人共帰って行ったけど、この後の事なんか絶対に二人の前では話せない。俺の高校最後の休みが消えてしまう。


 私、文子・セガール。絶対に麗人さん、何か予定を入れている。それも小早川さんと東雲さんと一緒に。どうにかして知る方法はないかしら?


 私、芦屋真名。あの三人、絶対に何か入れている。何とか知る方法が無いかな?


―――――

この作品を読んで、笑っちゃうとか、なんじゃこりゃと思われた方、次も読みたいなと思われた方ぜひフォローと★★★(ご評価)を頂けると嬉しいです。ご感想もお待ちしております。


宜しくお願いします。 

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