第105話 一時の平和


 俺は、健吾と雫に芸能界で仕事をする事を話した。

「凄い決断だな」

「でも、確かに麗人が毎日の様にテレビに出れば、いつでも見れるから今の様な状況は減って来ると思うわ。普段見れないから見たいんだもの」

「そうだな。芦屋真名さんだけだったら、今の様な状況にはならないからな」


「まあ、そういう訳だから。でも学業優先だし、塾も続けるから。もうすぐ、一学期末考査だから頑張ろうぜ。後、芦屋さんと文子さんには、いずれバレるにしても今は黙っていてくれ」

「「分かってる」」



 俺が自分の部屋で健吾と雫との話が終わった後、美麗が入って来た。

「お兄ちゃん、本当に俳優をするの?」

「ああ、今の状態を改善出来るという逆手の方法だ。学業優先だし、俳優で食べる訳も無いから出演は調整して貰うけどな」


「私は反対。そんな世界にお兄ちゃんを行かせたくない。あんなところ言ったらお兄ちゃんが汚れちゃう」

「大丈夫だ。興味がある訳では無いから事務的にやるだけだ」

「分かっているけど…。私は反対だから。じゃあ寝るね。お休み」

「ああ、お休み」


 何となく美麗の気持ちは分かるけど、今の状況を何とかしないと何処に行っても同じ状況になる。


 私は、今の状況より悪化すると思っている。一般の人はどうでもいい。今学校の中で面倒なのは芦屋さんとセガールさんだけだけど、あんな世界に入れば、お兄ちゃんが興味無くても、色々な人が寄って来る。


 腹に何考えているか分からないような男や女が近寄って来る。そっちの方がよっぽど心配。今以上に悪くなるに決まっている。



 オーノルドにはお母さんと同じ事務所から撮影OKの連絡を入れて貰った。彼は随分喜んでいたそうだ。



 期末考査まではまだ二週間ある。対策は十分立てられるが、オーノルドの奴、どうやってうちの高校の学習予定を知ったんだろう?何か伝手があるとは思えないし。



 俺達は、次の週からも放課後は塾に行った。勿論園芸部の水やりも欠かさない。もうすぐ草むしりをする時期だが、今年は六人もいる。去年までとは大違いだ。


 考査ウィークに入ってからは、塾は無い。木曜日から翌週の火曜まで学期末考査が行われた。内申に大きく影響する考査だ。それだけに気が抜けなかった。


翌日は模試という、いつもの予定だが、今年は模試も手を抜けない。秋の模試では志望校を最終決定しないといけないので、この模試も重要だ。



 そして、その週末土曜日、俺は紅さんの車で、オーノルドが待つ撮影現場に来た。早速オーノルドが

「レイト、嬉しいよ。楽しくやろうぜ」

「ああ、そうしよう」


 今回のセリフは撮影時には無い。撮影後、後から音入れする。それに読み合わせする程の量もないで土曜日午前中からCMの内容やアピールしたい製品の特長などを説明された。


 といっても飲料なので、場面で効果がある様にオーノルドと一緒にどんな振りをすればいいかという撮影の説明を受けて後はリハ。でもイメージ作りというのは重要で大分突っ込まれた。


 そして翌日は朝早くから着替えて本番。何回かの駄目押しの後、OKを貰い、映りをチェックしてOKになった所で、今度は撮影に会わせたイメージのセリフを録音するといった具合だ。言うのは簡単だがそれでも終わるのは午後八時を回った。


 オーノルドとは、撮影後簡単にお互いのマネージャと一緒に食事をした。何故か紅さんが映画の時の車の運転手を引き摺って俺のマネージャになっている。食事をしながら


「レイト、USに来い。俺と一緒に映画を撮ろう」

「オーノルド。俺は学業優先で、現状打開の為に俳優になるだけだ」

「いずれこっちの世界も居心地がいいのが分かるさ」

「嫌ならない」


 こんな会話をして彼とは別れた。午前中はお忍びで観光旅行して夕方の便で帰ると言っていたが、お忍びが出来るのか?あんな目立つ男が、と思ってしまう。



 翌月曜日は、学期末考査の答案返却と成績順位表がいつもの掲示板に張り出された。


「麗人、変わらずだな」

「ああ、もうこの辺で良いだろう」

「麗人さん、この学校レベルでこの順位では駄目です。二学期末考査では一位を取って下さい。塾以外でも私と一緒に勉強すれば、簡単です」

「何言っているの。麗人お兄様は私と勉強するのです」

「ちょっと待って、麗人。塾ってなあに?」

「「「あっ!」」」


 芦屋さんと文子さん、それと俺が同時に声を出してしまった。

「いや、望月さんも聞き間違いだろう」

「そうですとも。私と麗人さんが二人で塾には行きません」


 言い方だけは事実だか、燻ぶっている状況に風を送った様な。


―ねえ、聞いた。

―うん、早乙女君が塾に通っているって。

―私も聞いた。

―これは由々しき問題。

―直ぐに調査よ。

 ほら見ろ、こうなった。



 騒ぎ始める声を無視して健吾と雫と一緒に教室に戻りながら

「しかし、今回は芦屋さんとセガールさんの同一位に望月さんが食い込んで来た。麗人は二点差だけなんだが、麗人争奪戦のお陰でみんなの学力が上がるというのは、何とも言えないな」

「一年なんか大変よ。今年入って来た生徒達は中間の問題が簡単すぎたらしくて四十位までの成績表に同順位が多かったせいで百五十人もいたらしいから。学期末考査は良く見ていないから分からないけど」

「それは凄いな」



 そんな話をしながら教室に戻った。授業が始まっても今日の授業は考査の答え合わせだから特に何を気にする訳でもなく一日の授業が終わった。


 放課後、俺は水やりがあるので園芸部に行き、健吾と雫は先に塾に行った。それが終わると紅さんの車で塾に送って貰いながら


「麗人君、出演依頼が殺到よ。この前のCM出演とうちの事務所に正式に所属した事でに芸能界に君の事が改めて知れ渡ったわ」

「その辺は上手く調整して下さい」

「そうね、夏休みに一時間ドラマの中で十五分位出演する依頼があるからそれ位に抑えておく」

「宜しくお願いします」



 その日の夜俺は、健吾と雫に

「夏の塾の事だが、いつもの様に七月中は夏休みの宿題をやって八月前半と後半の夏期講習に出ようと思うんだけど」

「俺達もそうするよ。中旬はどうするんだ?」

「ああ、ちょっとした撮影が入っている。一時間ドラマの中で十五分位出る端役だよ」

「麗人が端役とは思えないけどな」

「そんなものだろう。ていうかそういう風になりたい。そうすればいずれ忘れ去られる」

「あははっ、それは無理よ。まあ、控えめに出るのはいい事だけどな」


「ところで、夏休みの宿題だが一緒にやらないか」

「俺は良いけど、麗人の方は大丈夫なのか?」

「うちでやるってのはどうだ?」

「いいわね」

「じゃあ、決まりだな。去年は撮影で出来なかっただけに嬉しいよ」

「ああ、楽しみにしている」

「私も」


 もうすぐ終業式を迎える。このまま静かに流れてくれると嬉しいのだけど。


―――――

この作品を読んで、笑っちゃうとか、なんじゃこりゃと思われた方、次も読みたいなと思われた方ぜひフォローと★★★(ご評価)を頂けると嬉しいです。ご感想もお待ちしております。

宜しくお願いします。 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る