第104話 嫌だよお願い頼む
レストランに入るのだが、一般の方達とは仕切りで区切られていた。そこに行くまでは別の入口から入るようだ。
中に入ると二十人は入れそうな広さの空間に大きな長テーブルが置かれ素敵な白いテーブルクロスが掛かっている。テーブルの中央には大きな花が生けられていた。
オーノルドがテーブルの端側中央に座り。俺が彼の右側、お父さんが左側、そしてお母さんがお父さんの隣に、美麗が俺の隣に座った。
オーノルドが
「コースメニューが目の前のカードに書かれているけど、気に入らなければ好きな物に変えてくれ」
「オーノルド、構わないよ。招待された側だ」
「お父さん、嬉しい事を言ってくれる。それでは始めよう」
最初は、ホテル側から提供されたウエルカムドリンクを飲んだ後、好きな飲み物を飲む事にしている。
オードブルは、カモやパテ等の五種盛、次が伊勢海老の半身からだ。そしてスープが出た後に、魚、肉、メインの肉が運ばれてくる。中々のボリュームがある。勿論、全員の食べるスピードに合わせて出て来る。
俺と美麗はジュースだが、お父さん達は、シャンパンの後はワインに変えていた。
最初は、映画を撮影した時の話で盛り上がっていたが、メインディッシュも終わり、デザートに移った辺りから
「レイト、今回は、仕事でやって来た。簡単な仕事だ。グローバルな日本のドリンクメーカーのCMだ。撮影も二日で終わる。一緒に出ないか?」
「えっ?!」
やっぱりこの人、お兄ちゃんを自分の仕事に誘う為に会いに来たとか言ったんだ。
「オーノルド。悪いが俺はもうカメラの前には出ない。去年、ドラマや映画に出たおかげで、生活が一変してしまった。これ以上、おかしくする事は出来ない」
「はははっ、レイト。ノゥプロブレムだ。誰もがこの業界に入って売れると皆同じ目に遇う。
だけど、その後は、もう何作出ても同じだ。レイトも世界中のフェイマスアクターだ。心配ない。もう何も変わらない」
「オーノルド、そんな事言っても駄目だ。それに撮影に時間は避けない。俺は受験生だ」
「麗人、二日位何とかなるんじゃない?」
「お母さん、そんな事言っても出ないよ」
「麗人頼むよ。もうスポンサーにもバディはレイトと言っている。スポンサーも大喜びだ」
「駄目だ。絶対に出ない」
「レイト、頼むよ」
オーノルドが頭を下げている。参ったなぁ。こういうの苦手なんだ。
俺はお父さんの顔を見ると自分が判断しなさいって顔をしている。お母さんは、出なさいって顔、美麗は明らかに怒っている。
どうしたものか?
「オーノルド、いつまでに返事しないといけない?」
「オゥ、考えてくれるか。今回は、打合せだけだ。撮影は二週間後の土日に合わせていい。レイトの高校の試験も終わっているだろう。それにウィークディも避けている」
はぁ、なんか囲まれている感じ。
結局、返事はしないままに食事を終わらせた。もう午後八時を過ぎている。
「レイト、お父さん、お母さん、ミレイさん。今日は楽しい時間を過ごせた。二週間後を楽しみにしている」
紅さんは別の所で食事をしていたらしく、ロビーフロアに降りるとエレベータの前で待っていた。
別れ際、オーノルドが
「レイト、これからも一緒だ。楽しもう」
そう言って俺達をロビーフロアで送った後、マネージャと一緒にどこかに行った。
家まで帰る車の中で
「お父さん、家に帰ったら、二人で話をしたい」
「構わないが」
多分、さっきの話だろう。
それを言った所為か、お母さんは食事の話とか美麗と話をしているだけだった。
家に帰ると
「麗人、リビングに来なさい」
「分かった」
二人でお父さんのロビングに入りソファに座った。
「お父さんはお母さんの高校時代って知っている?」
「その事か。少しは知っている。お母さんは中学三年生の時から芸能界に入っていたからね。
まあ、色々有って高校生になった十六才のお母さんと、三十五才のお父さんが付き合う事になったんだ。だから、デートの時は、色々話してくれた。
始めは今の麗人同じように大変だったらしいけど、何本かドラマとか映画、それにCMに出ている内に注目はされていたけど、最初の様に騒がれなくなった」
「それってオーノルドが言っていた事?」
「その通りだ」
だからあの時、お父さんはいつもの様な反対はしなかったのか。
「お父さんとお母さんってどうして知り合ったの?」
「お母さんと知り合ったきっかけは、お母さんが高校時代に私達の作った製品のCMに出てくれてその時、私が研究主任として会ったのさ。
その時、お父さんは研究者とし研究の毎日だったけど、お母さんが、毎日の様に電話して来てね。休みの日は、随分お母さんに付き合わされた。
お父さんとお母さんは二十才は離れているから、ちょっと見親子か親戚ぐらいだったから、誰が見ても恋人とは思わなかったようだ。
でもお母さんが二十三才で大学を出た時、猛烈にアタックされて、…まあ、お父さんもお母さんも事好きだったから結婚した。麗人も知っているだろう。お水の茶女子大学」
「あそこって国立だよね」
「ああ、お母さんは芸能界で仕事をしながら高校でもしっかり勉強して国立に入った。理由は私に相応しい知識を付けないとお嫁さんに慣れないって思ったらしい」
参ったな。お母さんは自分で実績を持っているから俺に芸能界を進めているのか。でも俺は研究者になりたい。
「お父さん、俺はお父さんの様に世の中の役に立つ研究者になりたい。だから芸能界には入れない」
「麗人、少し厳しい事を言うかもしれないが、今のお前だと研究者としてやっていくのは厳しい。理由は有名になり過ぎた事だ。
最初の内は、毎日の様に徹夜に近い状態で仕事をしていかなければならない。研究といっても一つの課題を毎日している訳では無い。いくつもの課題を乗り越えて一つの研究が前に進んでいるんだ。
そんな状態のお前を周りの人が何もしない訳は無いだろう。自分に振り向いてもらう為に、手伝いもすれば邪魔をしてくる。それも一人や二人ではない」
「何とかならないの?」
「…無理な話だが、一つには決まった女性を見つける事だな。実はお父さんも付き合っている人がお母さんと知られてから研究所内の女性から声が掛からなくなった。恥ずかしい話だが、そんなものだ」
これはまた難題だな。
「それとだ。今の様に中途半端に芸能界と接するより、思い切り大学まで学生と芸能界の二股を掛けて、大学卒業と共に芸能界を引退するという手もある」
お父さんの言う通りだ。なまじ芸能界は嫌だと言っているから面倒になっているのか。お母さんに聞くしかないか。
「お父さん、お母さん呼んでいい」
「ああ、美麗も一緒が良いだろう」
俺はお母さんと美麗をリビングに来て貰う様に頼むと二人は冷たいアイスティを持って入って来た。
「麗人、お母さんを呼ぶという事はお父さんから聞いたのね」
「うん」
「私の方で大体話した」
「お母さん、どうやって勉強と女優を一緒に出来たの?」
「簡単よ。あくまで勉強優先。だから撮影は集中的にまとめて撮って貰った。麗人が去年、映画の撮影をしていた通りよ。勿論撮影の合間も勉強したわ。
それに毎日テレビや録画でも見れる映画館で見れるとなれば、しつこいファンも少なくなるわ。
今は麗人が見れないから見たいのよ。ドラマとかCMなんでも毎日見れる様になったら、今の様な事は無くなるわ。お母さんがそうだったもの」
なるほど、逆手を取っていつでも見れる様にすれば、見たいという欲求を満たせるから今の状況は消えないにしても減るという事か。
でももう一つの問題、決まった人を見つけるというのは、…でもこれは後にした方が良いようだ。
「分かった。お父さん、お母さん、それに美麗。俺は学業優先だけど芸能界に正式に入る事にする。但し大学卒業後に引退する」
「えっ、ほんと。じゃあ私と同じ事務所で良いわよね」
「お母さん、お兄ちゃんは、言っているでしょ。学業優先だって」
「美麗、事務所に所属しないと色々な所から直接麗人の所に連絡が入るわ。でも事務所に所属すればそんな事は消える。勉強を優先する為にも事務所を決める事は重要よ」
理屈は分かるけど、気分悪い。お兄ちゃんは私だけのお兄ちゃんでいいのに。
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