第88話 卒業式は一波乱


☆時間は二ヶ月ほど遡ります。


 職員室にて

「皆さん、来月二十一日に行わる入学選抜テストですが、受験者数は、何と応募二百四十人に対して千二百人と去年を遥かに上回る人数となりました。


 この人数を我が校内で同時にテストを実施するのは、ほとんど全ての教室を使わなければなりません。


 当然、配置する試験官の数も膨大になります。よって、近くの大学の大教室を借りる事にしました」


 皆が、何故か私の方を見てお前の所為だという顔をしている。何で?


「そこで、本日から業者も交えて駅からの導線、試験官配置確認、不具合対応の為のコンチプランの作成。

 当日段取りの確認シートの作成、その他、今手元にある資料に書いてある事を来月の試験日までに完璧に準備します。宜しいですね」

「「「「「はい」」」」」


「試験責任者は私、教頭と桜庭先生が行います」

「えっ?!何で、ですか?私はまだ一介のクラス担当です。学年主任とか適切な人が居ると思いますが」

「桜庭先生。君の力のお陰でこれだけの受験者を集められたのです。試験責任者になるのは当然でしょう」


 他の先生がざまあみろって顔している。こいつら覚えておけよ。


「では次の件に移りましょう」



 私は朝の職員会議が終わり、自分の担当クラス、そう今、飛ぶ鳥を落とすまで有名になった早乙女麗人と女優の芦屋真名のいる2Aに向っている。


 あの二人のお陰で合コンはいけなくなったし、マッチングアプリとかに登録しても返事すら出来ない状態だ。


 早乙女麗人、責任取れ。私を君の妻にしろって本人の前で怒鳴りたくなる。……まあ、無理かぁ。


 早乙女君は、メディアの目を逃れる為にどこかのホテルに泊まって学校に通っているらしいけど、…後一年かぁ、あの二人を後一年見るなんて私のメンタル、何処まで削られるんだろう。


 去年の四月に早乙女君のクラス担任になった時は嬉しかったんだけどなぁ。今年は進路の為の親子面談がある。まさか霧島花蓮まで来るんじゃないだろうな。嬉しいのやら悲しいのやら。


 そんな私の憂鬱も時間の流れには無視されて入学試験も無事?に終わり、学年末考査も終わった。もう早く春休みになって欲しい。




 学年末考査も無事に終わり、明後日は卒業式。九条先輩と八頭さんが、卒業する。これで俺の周りで気になるのは芦屋さんと望月さんだけだ。静かになるはず。


 卒業式当日は、体育館に在校生と父兄の方が先に入っている。そして後ろから卒業生が入って来た。


 皆精一杯の拍手。


 先輩達は、ほんの少し?お化粧してとても綺麗だ。あっ、九条先輩だ。流石学校で一、二を争う美少女。皆から注目を集めている。緊張しているのか俺の近くを通ってもこっちには振り向きもしない。ちょっと寂しい。


 続いて八頭先輩が入って来た。まるで〇塚の男役顔負けのかっこよさだ。九条先輩同様、在校生の注目を一身に浴びている。彼女は俺の方を見てニコッとした。俺も少しだけ笑顔で答えた。


 そう言えば、二人共、どこの大学受かったんだろう。三学期に入って直ぐに三年生は自由登校になったから全然見て無かった。



 先輩達が全員着席すると式次第に従って、式が進められた。そこらかしこですすり泣く声が聞こえる。まあ、そういう事なんだろうな。



 そして卒業生代表は八頭音江さん。少し涙ぐみながらしっかりと終え…えっ?

「最後にですが、私個人の話をします。一言です。早乙女麗人君、私は君を愛しています。これからも私と一緒に歩いて下さい」


「「「「「きゃーっ!」」」」」

「「「「うぉーっ!」」」」」


―き、聞いたか。

―ああ、公開プロポーズだぞ。

―すげえぇ、流石八頭先輩。


 一時騒然となった体育館だったが、進行役の先生によって静かになった。そして在校生から卒業生へのメッセージは、望月美紀さん。なんで生徒会長じゃ無いんだ?


 彼女の中身のあるメッセージに皆もすすり泣く声が聞こえる。うん、分かるよ。これで終わ…らなかった。


「最後にですが、在校生の答辞として。八頭音江さん、在校生は早乙女麗人君をあなたに渡しません」


「「「「「そうだー!」」」」」


―よく言った。望月。

―ああ、流石剣道部主将。

―一刀両断だな。

―惚れ直したぜ。



 私、望月美紀のいるクラス担任、桜庭京子。もういや!

 また教頭にお小言言われるじゃない。私が言ったんじゃないのに!



 厳かに?進んだ卒業式も終わり、俺達は自分のクラスに戻った。直ぐに誠也達がやって来て


「麗人、凄かったな。今日の卒業式の主役はお前だったな」

「いや、望月さんがあれ言ってくれてみんなスッキリしたぜ」

「勘弁してくれ。俺は被害者だよ」

「ははは、ムリムリ。早乙女麗人はどこ行って綺麗でカッコいい早乙女麗人だ」


 あっ、望月さんが帰って来た、さっき職員室に呼ばれたからあれの事だろう。田畑さんが

「望月さん、お疲れ様。よく言ってくれたわ。みんな喜んでいたわ」

「あんな事、八頭先輩に言われたら返すしかないじゃない。でも生徒指導の先生にこってり絞られたけど」

「でも、望月さんのお陰で私もすっきりしましたわ」

「芦屋さんは良いのよ。八頭さんと同じ頭なんだから」

「あなただって同じじゃない」


 またやり始めた。

「二人共止めて下さい。もう俺の席の前と後ろで言い争うのは」

「だって、望月さんが…」

「芦屋さんだって同じじゃない…」


 うん?みんな教室の後ろの出入り口を見ている。俺も振り返るとえっ!九条先輩が立っていた。胸には卒業生の証であり大きな花のリボンが付いている。


「麗人、ちょっと良いかな」

「はい」


 一応園芸部の先輩だ。ここはきちんと。


 俺は廊下に出て行くと…。


「麗人、卒業式の時、顔合わせられなくてごめんね。あなたを見たら泣き出しそうだったから。…私帝都大理学部に入ったわ。あなたも来て。一緒にキャンパスライフ過ごしましょ」

「先輩…」



「「「「「ぶーっ、ぶーっ」」」」


 教室の出入り口はクラスの生徒で一杯だ。


「他の人は、関係無いわ。麗人来てくれるでしょ?」

「行きたいとは思っていますけど…」

「じゃあ、決まりね。私行くわ。美奈の事宜しくね」



「麗人、第二の公開プロポーズだな」

「健吾、止めてくれ。大体俺があんな凄い大学行ける訳無いだろう」

「早乙女君、私と一緒に勉強しよう。帝都大なら君は行けるわ」

「何言っているんですか、望月さん。一緒に勉強するのは、この私です」

「五月蠅いわね。芦屋さんが出る幕じゃないでしょ」

「何ですって!」



「みなさーん。廊下で何をしているのですか。教室に入って下さい」

「「「「「はーい」」」」」


 何故か桜庭先生の言葉には皆素直だ。



 そして俺の高校二年生は終了した。明日から春休みだ。

「麗人、後で連絡する」

「健吾、分かった」

 雫も頷いている。あの件、上手く行ったのかな?


―――――

残るは後一年、ここまで来るのにもう八十八話になってしまいました。

でもがんばるぞー。おう!(独り言です)

この作品を読んで、笑っちゃうとか、なんじゃこりゃと思われた方ぜひフォローと★★★(ご評価)を頂けると嬉しいです。ご感想もお待ちしております。

宜しくお願いします。 

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