第87話 燃え盛る人気
俺は、映画というものは上映されて、時間が経てば段々人気ランクも落ちていく、いずれはこんな騒がれ方も無くなるだろうと思っていた。
しかし…だ。上映を開始してから十日後、メディアで俺の主演した映画『美しき殺し屋』が世界十か国同時上映という事も有るのだろうけど、一週間で日本円で五百億の売上が有ったと報じしていた。
これのお陰で、昼間のワイドショーでは、やたらと俺と共演した外国人俳優達を並べて、褒めまくっている。
原因の一つが、俺が十六才で初出演、男性なのに女性でもトップレベルの美しさ、そしてしなやかな動きだそうだ。
二番目が…これが一番頭痛いのだが、ターゲットを撃ち殺した時に見せた、寂し気な目とその横顔をアップしたした時の顔の綺麗さが例えようのない芸術品だとまで言われた事だ。
お陰で、いずれ静かになるだろうと思っていた映画の人気は益々上がり四週連続観客動員数一位となってしまった。
そこに、そこにだ。映画雑誌、歴史あるクネマ旬報や若者に人気があるらしいクットやヨクリーンまで表紙に俺の顔を飾ったものだからたまったもんじゃない。
更に海外人気俳優インタビュ&ニュース洋画雑誌モービースターでトミ・クルーズ、オーノルド・シュワルツェネッガー、ソティーブン・セガールと一緒に俺を取り上げたものだから、映画配給会社の方に各国から問合せが毎日の様に入っているらしい。
当然、連絡が来るが全て断るという事態に余計俺の特集を組もうと雑誌やワイドショー等メディアの競争がヒートアップしてしまった。
一応『早乙女麗人保護プラグラム』が有効らしく、無謀な取材や写真撮影は無い様だが、俺の家を見つけようとする輩が一杯現れて、仕方くほとぼりが冷めるまでガードがしっかりしたホテルに泊まる事になった。
もう絶対にメディアには出ない。意地でも出ない。と心に固く誓った俺なのだが…。
どこから調べたのか、俺のスマホにトミ・クルーズから新しい映画に共演しないかとか、オーノルド・シュワルツェネッガーがLAに遊びに来い上手い物食わせるとか、ソティーブン・セガールが手合わせしたから日本に行きたいとか言う始末。
秀子さんが道場に来れない事を心配して出張稽古しようと言って来たけど、そっちの方が危ないから丁重に断った。
紅さんに完全にシャットアウトして貰っているのだけど、頭痛い。そして気が付けば学年末考査が二週間後に迫っていた。
まあ、学校には通えているけど、校門の賑やかさは変わらない。最近、カメラを構えた男の人達もいるけど、俺が学校に入るまではフードをかぶっているので写真は撮る事が出来ない。心の中では、何処の犯罪者だよと思ってしまっているけど。
学校の中は大分静かになった。昼休み、昼食をいつものメンバーで食べながら健吾が
「麗人、塾どうする。そろそろ決めないと。春のコースから入るだろう」
教室の中でギュウギュウ状態で食べている生徒の皆が耳を立てている感じがする。
「ああ、でもこんな状態だから個人レッスンにしようと思っている」
「そうかぁ、一緒に塾に行けると楽しみにしていたんだがな」
あれ、みんながっかりした感じ。
「どっちにしろ、もし塾に行くなら健吾と雫には教えるよ」
「「分かった」」
それを聞いた望月さんが
「ねえ、早乙女君私には?」
「ごめん、やっぱりこの三人で」
「えーっ!」
「麗人お兄様、私は一緒ですよね」
今度は芦屋さんが聞いて来た。
「ごめん、芦屋さんにも迷惑掛からるし」
「いいのです。麗人お兄様の事ならば、どんな事でもこの身で受けます」
―聞いた。芦屋さん。なんか特権って感じだよね。
―うん、ちょっと可愛いからって。
―そうよそうよ。
芦屋さんが声の方を向いて睨むと静かになった。でもこの子の怒った顔って可愛い。気付かれたのか
「麗人お兄様。何か?」
「いや何でもないです」
昼休みも終わり教室にいた他のクラスの生徒も自分のクラスに戻り、望月さんも芦屋さんも席を外した所で俺は健吾の耳元で
「健吾、出来れば外の塾で受けたいんだ。良い所ないかな」
健吾が俺の耳元で
「分かった。良い所探しておくよ」
「悪いな」
健吾と俺が雫に目配せするとそれだけで分かった様だ。流石小学校からずっと一緒の俺達だ。
―ねえ、なんか怪しくない。
―なんかね。あの耳打ち何かしら。
―監視の目、起動よ。
―うんうん。
その声を無視して俺達も席を立った。
ガードのしっかりしたホテルに居ると言っても、着替えや勉強道具は家にある。薄井さんの車を使って美麗に持って来て貰っているだけど
「お兄ちゃん、いつまでこんな事になっているの?」
「今月一杯じゃないか。映画が公開されてからもうすぐ三ヶ月だ。熱も冷めただろう」
「そうね。お父さんも、お母さんも寂しがっているよ。私はこうして二日に一回は来れるからいいけど」
「お母さんは女優だし仕事も忙しいし、お父さんも仕事で忙しいからな」
「うん、学年末考査が終わったら帰って来る?帰ってきて欲しい」
「分かった。美麗の言う通りにするか」
「嬉しい」
美麗が抱き着いて来た。前はこんな事なかったんだけど、今年に入ってからは俺に抱きついて来るのが多くなっている。
うふふっ、お兄ちゃん、お兄ちゃん。私だけのお兄ちゃん。誰にも渡さない。私は思い切り、お兄ちゃんの体に抱きついた。
最近胸が大きくなってきているけど、その胸を思い切りお兄ちゃんにくっつけている。少しでも私を意識してくれたら嬉しい。
少しして、私はお兄ちゃんから離れると
「じゃあ、お兄ちゃん私は戻るね」
「ああ、いつも悪いな」
「ううん、お兄ちゃんとこうして二人で会えて嬉しいんだ」
秀子さんは完全に会う事が出来なくなっている。今の内に私をアピールしておくんだ。
―――――
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