第85話 三が日の出来事


 俺は、秀子さんに送って貰って道場から家に帰って来ると丁度昼過ぎだ。バッグから胴着とタオルを出して洗濯籠に入れて、バッグだけ部屋に置いて手を洗ってからリビングに行くとお父さんとお母さんが寛いでいる。


 二人共お酒は飲んでいないが、久しぶりの休みのようでお母さんがお父さんに甘えている。邪魔しない様にそのままダイニングに行くと



「お兄ちゃん、お帰り」

「ただいま」

「どうだった。初稽古?」

「どうだったと言われても、いつもの様にしたよ。帰り際に門下生のお母さんからちょっと声を掛けられたけど適当に対応した」

「そう、今年はお兄ちゃんと初詣無理そうだね」

「そうだな。確かにちょっと難しそうだな。でも行きたいな」


 そんな話をしているとお母さんがやって来た。

「二人共お昼にしましょうか?」

「うん」


 朝、お雑煮を食べたとはいえ、初稽古もしてきた後だと、お腹が十分に空いている。


「お節とお雑煮のスープがあるわ。お餅は磯部にしましょうか」

「うん、お母さん手伝う」

「ありがとう、美麗」


 こんなにゆっくりしているお母さんは久しぶりだ。休めても一日とかだから、数日連続して休めるのは精神的にもリラックスしているのだろう。美麗も嬉しそうに手伝っている。俺も嬉しい。



 やがてお父さんもやって来た。そしてテレビをつけると正月特番とは別に生で放送もしているワイドショーが映し出された。


 渋山の街だ。多くの人で賑わっている様だ。カメラはそのまま回廊坂を登っていくと

「凄い人だかりです。皆さんに聞いてみますね。どうしてこんなに人が居るんですか?」


 局アナの様な人がそこに居る人にマイクを向けた。


「勿論、今日封切られた『美しき殺し屋』を見る為です。ネットの予約販売は終わっているんですけど、売ってくれる人いないかなぁと思って」

「えっ、『美しき殺し屋』ってあの世界十カ国同時上映の映画ですよね」

「そうですよ。日本が一番早く見れるんです」

「凄いですね。誰が推しですか?」

「勿論、主人公レイ役の早乙女麗人さんです。もう最近はあの人の夢ばかり見ます」

「そうですか。頑張って下さい。現地からのレポートでした」


 その後、映画の広告が映し出されてた。俺の顔が思い切りアップで映し出されている。


「あちゃーっ、お兄ちゃん。当分外歩けないね。これじゃあ初詣無理だわ」

「でも、これってテレビ局がタイアップして映し出している奴だろ。この局だけじゃないのか?」

「じゃあ、他のチャネルに回すね」


 他の局も渋山だけでなく、俺達もいくデパートのある街の映画館の入口を映し出していたが、同じ状況だ。


「これじゃあ、学校が始まる九日まで外に出れないね」

「でも近所だけなら」


「それは不味いわ。麗人の後を付けられたら、大変な事になる。報道各社は、芸能人の自宅が分かる映像は協定で映し出さない様にしているけど、個人にバレるのだけは防げないから」


「お兄ちゃん、私と一緒にずっと家の中で遊ぼうか?」

「それはいいんだけど」

 これは不味いぞ。でも学校に入ってしまえば特別校則もあるし、一応世の中に俺の保護プログラムもある。


「でも、俺の保護プログラムも有るだろう」

「お兄ちゃん、日本全国の人があのプログラムを知っているって訳じゃないし、知っていても知らない振りされたら同じよ」

 これはますます不味い。



 私、東郷秀子。昼のニュース番組を見ている。麗人の映画の事が民放で流されている。上手くないわね。

 正月中にもう一度麗人をお父さんに合わせたかったのに。



 そして二日になりお母さんのマネージャの薄井美琴さんと俺の車の運転手の紅亜希子さんが、挨拶にやって来た。


「「あけましておめでとうございます。花蓮さん、麗人君」」

「二人共あけましておめでとう。今年も宜しくね」

「「はい、こちらこそ」」


「これは、気持ちよ。受け取っておいて」

「「ありがとうございます」」


 封筒が結構厚い。それなりの金額が入っているんだろう。


 それが終わると

「麗人さん。ニュース見ました。凄い人気ですね。麗人さんの運転手兼ボディガードとして気合が入ります」

「ボディガード?」


「そうか、麗人には教えていなかったわね。紅ちゃんはうちの事務所の所属だけど全国空手選手権大会女子の部で四位に入っている強者よ」

「えっ?!」


「ふふっ、麗人さん。時間有りましたら今度手合わせしましょうか」


 また面倒な人がお兄ちゃんの傍に来た。


 紅さんは、学校の登下校の他に俺がプライベートで行く所にも全て車を出してくれるという事だ。これは事務所の決定で、私の仕事なので気にしなくて良いと言われた。


「麗人さん、私のスマホに掛けて頂ければ三百六十五日二十四時間対応できますから。いつでも呼んで下さい」

「あ、ありがとうございます」


 裏返すと俺、この人に二十四時間監視される訳?


「麗人さん、私はあなたの行動には干渉しません。だから監視もしませんのでお気になさらずに」


 参った。俺の心の声駄々洩れか?



 それから二人は、お母さんと仕事の話をした後、帰って行った。何となく気になる単語が一杯有ったが、気にしない事にする。俺もう絶対にカメラの前には立たないから。


 その後、美麗と俺はお父さんから、諭吉様が数枚入ったお年玉袋を貰った。映画とかで稼いだお金より、はるかにこっちの方が思い切り嬉しい。


 そして、三日目は、美麗と一緒に家で過ごした。


―――――


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