第84話 冬休みから正月へ


 無事?にクリスマス会が終わった翌日から冬休みに入った。当然だが冬休みの宿題はしっかりと出ている。だから今日から大晦日までをめどに集中的に終わらすつもりだ。


 美麗も朝から部屋に閉じ籠っている。冬休みの宿題をやっているんだろう。

 しかし、来月初日、つまり元旦から放映するというちょっと珍しい上映の考え方だが、十か国同時上映という事を考えれば月初めからというのは納得する。国毎に一月一日に対する考え方は違うからな。


 でも、稽古と正月の初稽古どうするかな?一応申し込んでは有るけど。そんな事は、今はどうでもいい早く宿題終わらせないと。


 という事で、朝から夜まで宿題を必死にやったおかげで二十九日の夜には、終わらすことが出来た。美麗も同じらしい。



 三十日は、俺と美麗は午前中に自分の部屋を掃除した後、お父さんと一緒に家の中の掃除、いわゆる年末大掃除という奴だ。


 お母さんは、仕事で居ない。正月特番とか言う番組の収録とか、昼のワイドショーにも出ているためだ。


 お母さんの人気は衰えるどころか、俺の所為で余計人気が出たようだ。でもお母さんはまだ若いしとても綺麗だ。歳も四十を少し過ぎただけだ。そっちが人気の理由と思いたいのだけど。


「麗人と美麗はリビングが終わったら、ダイニングを頼む」

「「分かったー」」


 お父さんは、自分達の寝室や客間を掃除している。キッチンは一応お母さんのテリトリーだけど、美麗と俺で簡単に掃除をした。後はお母さんに任せよう。芸能家族なんてこんなものだ。



 夕方になりお母さんが帰って来た。

「ただいま」

「お母さんお帰り」

 お父さんが迎えに出た。


「麗人と美麗が手伝ってくれたおかげでキッチン以外は一通り終わったよ」

「ありがとう、あなた」


 子供の目の前でキスするな。



「じゃあ、明日は、私がキッチン掃除するわね」

「お母さん、私も手伝う」

「ありがとう美麗」

 お母さんだけだと不安だ。


「お母さん、今年は去年出た年末の白黒歌合戦にはでないの?」

「ええ、今年は出ないわ。来年は、出るかも知れないけど。うふふっ」


 なんだ、あの含み笑いは。嫌な予感しかしない。



 そして大晦日の夜、今年は家族全員が揃っている為、お父さんは、のんびりとお酒を飲んでいる。やはりお母さんと一緒に飲んでいると嬉しい様だ。


「お兄ちゃん」

「うん?」

「明日、封切りだよね」

「ああ、頭が痛いよ。PVだけであんな事になったんだ。上映が開始されればどうなるかと思うと」


「あら、学校の登下校や道場への行き帰りは全部事務所の車でしょ。それに早乙女麗人保護プログラムも有るし。問題ないんじゃない?」

「お母さん、俺はまだ高校二年生だ。来年は受験生だよ。塾にだって行きたいし、勉強に集中しないといけない時期になるのに」


「そうねぇ。だったら個人指導の先生雇う?」

「お母さん、それ良いかも。でも秀子さんは駄目よ」

「あらなんで、あの子いいじゃない。ねえ、お父さん」

「そうだな。秀子さんなら安心だ」


「駄目、絶対に駄目。秀子さんは駄目」

「美麗どうしたの?そんなに反対して」

「お母さん、俺も秀子さんは反対だ。俺は理系だ。お父さんの様に将来は世の中の役に立つ研究者になりたい。あの人は文系だよ。科目が違う」

「そうだったわね。じゃあ、どうしようかしら?」


 そんな話をしている内に世は更けて…。



 俺は、午前六時半に目が覚めた。やはり初稽古に参加する事にした。一年の計は元旦にありと言うからな。今年もしっかりと稽古したい。


 顔を洗って着替えてから一階に降りて行くと既にみんな起きていた。

「おはよう」

「おはよう、麗人」

「おはよう、お兄ちゃん」

「麗人も起きて来たし、新年の挨拶をするか」


 皆でテーブルに着くと

 お父さんとお母さんは鶴と亀の絵が付いている杯にお神酒を注いだ。俺と美麗はジュースだ。


「それでは」

「「「「明けましておめでとうございます。今年も宜しくお願いします」」」」


「今年は麗人の映画が封切りになる。お父さんも見てみるか」

「あなた、一緒に見に行きましょうか」

「そうだな」


「えっ、大丈夫なの?」

「VIP席がある映画館が有るのよ」

「へーっ、知らなかった」

「私、四日まで休みだからどこかで行きましょうね」

「そうだな」


「お兄ちゃん、初稽古は?」

「行く事にするよ」

「麗人。でも、紅さん呼んでないでしょう。お父さんもお母さんもお酒飲んでいるし」

「紅さんに電話してみたらどうだ?」

「そうね。でも今からでは間に合わないわ」


 ルルル、ルルル、ルルル


「お兄ちゃん鳴っている」

「あっ、秀子さんからだ」


『麗人です』

『麗人初稽古来るの?』

『行きたいんですけど、車の手配忘れて』

『そんな事簡単よ。今から迎えに行くわ』

『えっ、どういう事?』

『私、車運転できるのよ。すぐ行くわ』


 プチッ。


「切れた。秀子さんが迎えに来てくれるそうです」

「そう、良かったわね」


「全然良くない」

「どうしたの美麗。秀子さんの事が出ると機嫌悪くなるわね」

「そんな事ないもん」


 はぁ、気持ちは分かるけど。困ったなあ。



 二十分程して秀子さんがやって来た。


 ピンポーン。


 ガチャ。


「いらっしゃい、秀子さん。上がって」

「もう時間ですから。麗人行くわよ」

「分かりました」


 俺は自室に戻って、稽古着とかタオルが入っているバッグを持って部屋を出ると美麗が


「お兄ちゃん、秀子さんと仲良くしないで」

「美麗。俺は秀子さんを道場仲間としか思っていない。安心しろ」

「ほんと!」

「当たり前だ。行って来る」

「行ってらっしゃい」


 お兄ちゃんは、ああ言っているけど秀子さんはそうは思っていない。今日電話かけて来たのだって、そうだ。


 去年は掛けて来なかったのに。登下校の送り迎えが始まってから急にお兄ちゃんに接近して来た。



 俺は秀子さんの車に乗り込んだ。、結構でかいというか有名なビンツだ。それも一番大きなタイプ。


「秀子さんすみません。でもどうして俺が車の手配していないと分かったんですか?」

「ふふふっ、さぁ、何でかな?それより行きましょう。時間があまりないから」

 車手配して有っても迎えに来たわよ。


 道場に着いて、着替え室に行こうとして

―来たわ、早乙女君よ。

―綺麗だわね。最近一段と綺麗になったわ。

―息子をこの道場に入門させて正解だったわ。


 なんと、門下生のお母さん達が一杯いる。初稽古ってこんなに参加したっけ?



 それを無視して着替え室で胴着に着替えて道場に行くと自分の位置に正座した。

師範が入って来て神棚に二礼二拍一礼を行って道場の今年一年の安寧を願った後、全員でお辞儀をして神棚に挨拶をした後、一度後ろに下がる。


 師範が道場に伝わる古来からの型を踊り、一礼すると今度は師範代達が模範の型と組手を行う。


 いつもの様に激しい動きでは無いので防具は着けていない。ゆっくりとしたテンポだ。それが終わると全員で同じ型をして終わる。


 これだけでも身も心も引き締まる思いだ。終わった後は、恒例の道場からのお年玉だ。二十歳以上の人には、お酒の小瓶が入った箱、俺達未成年者には、お菓子の入った箱が手渡される。


 初稽古も終わり、着替えて道場の入口で秀子さんを待っていると

「あの、早乙女麗人さんですよね」


 門下生のお母さんだ。声を掛けて来た。

「はい」


「息子と一緒に写真撮らせてもらえませんか?私は入りませんから」

「すみません。そういう事はしない様にしているので」

「そう、残念だわ。でも綺麗ねぇ。今度お化粧方法教えて下さいね」

「いや、俺何もしていないので」

「「「「えっ!」」」」

 他のお母さん達も反応した。そんなに凄い事か?俺まだ十六才だぞ。


「麗人、帰るわよ」

「分かりました。これで失礼します」


―はぁ、羨ましいわ。

―あれで、何もしていないなんて。


 後ろから聞こえる声を無視して秀子さんの車に乗り込むと


「麗人、このままうちに来ない?」

「止めておきます」

「そう言わないで。ねっ」

「駄目です。家まで送ってください」

「もう、つれないなぁ。でもいつか来てね。お父さんにはしっかりと言い聞かせてあるから」


 どういう意味だ?


―――――


この作品を読んで、笑っちゃうとか、なんじゃこりゃと思われた方ぜひフォローと★★★(ご評価)を頂けると嬉しいです。ご感想もお待ちしております。

宜しくお願いします。 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る