第83話 クリスマス会は賑やかです


 月曜日、今日は終業式だ。例によって体育館で校長先生の有難ーいお話を聞いた後、生徒指導の先生から冬休みの過ごし方の注意事項を聞いて、教室に戻った。


 桜庭先生が入って来て、皆に

「明日から冬休みになります。皆さん、暴飲暴食などせずに健康に気を付けて休みを過ごして下さい。それと…今日のクリスマス会は十二分に注意を払って楽しむ様に。以上です」

「「「「はーい」」」」



 桜庭先生が教室から出ると早速川上が前に出て、

「皆、これから会場に行くけど、金曜日話した約束事は必ず守ってくれ。出ないと開催出来なくなるぞ」

「「「「分かったわー!」」」」

「「「「了解だー!」」」」


 流石川上そつがない。隣で友永さんが嬉しそうな顔をしている。お似合いだな。


「じゃあ、皆帰るぞ」


 いかにも普通に下校するという感じでバラバラと教室を出て行く。俺と芦屋さんは、最後に出て、校門に行くと

「じゃあ、芦屋さん。また来年」

「はい、麗人お兄様も」


 そう言ってお互いの迎えの車に乗り込んだ。同じ教室の生徒も他の生徒達と同じ様に校門を出て行く。ここまでは順調だ。



 校門からカラオケ店までは近い。だから少し大回りするような感じで車を走らせてもらってからカラオケ店の前に着けて貰った。


 前後左右を見て、カラオケ店に入って向って来る人が居ない事を確かめてから、ドアを開けてサッとカラオケ店の入口まで来た所で、道路反対側に居る人と目が合ってしまった。

 でも直ぐに視線を外して直ぐに入り口の中に入った。多分だ丈夫なはず。


―ねえ、見た。

―何を?

―さっき、カラオケ店の中に、ほら例の美しき殺し屋の早乙女麗人が入って行った。

―まさかぁ。あんなに有名な人があのカラオケ店に入って行く?…でも?



 それから少しして芦屋真名が、

「では、行ってきますね」

「くれぐれも周りの人に気付かれない様にお願いしますね」

「分かっています」


 私は、前後左右を見てカラオケ店に向って来る人が居ない時を狙って、直ぐにドアを開けてカラオケ店に入ろうとして、あっ、道路反対側の人と目が合ってしまった。

 直ぐに視線を外して入口の中に入ったので大丈夫だと思う。


―あっ、今度は芦屋真名が!

―えっ、何処何処?何処にもいないじゃない。

―あのカラオケ店に入って行った。

―まさかあぁ、あの芦屋真名だよ。カラオケなんかに行くの?…でも?



 俺は、入口に入ると中にいたクラスの生徒に部屋番号を聞いて直ぐに向かった。店員が驚いた顔をしていたけど、言い聞かされている様で、嬉しい顔をしているだけだ。声は出さなかった。


 他のお客に見つからない様に急いで教えられた番号の部屋に行くと健吾と雫、それに誠也や川上、相模も来ていた。でもまだ芦屋さんが来ていない。


 少し待って芦屋さんが入って来た。上手く来れたようだ。その内にクラスの人達もばらばらと入って来た。他の部屋にも入っている様だ。


 時間になり、川上の合図でクリスマス会が始まった。座る並びは俺の右に芦屋さん、その隣が雫、俺の左は望月さんと健吾だ。


 俺と芦屋さんは流石に歌は歌わないという事にしているのでみんなの歌を聞いているだけなのだが、今の人達は本当に上手い。感心してしまう。


 俺は歌とか歌ったのは中学の音楽の時までなので、全く歌えないし、そもそも曲を知らない。


 芦屋さんはテレビドラマでも歌っているので上手いだろうけど。そんな事を思いながら、普段話さない前にいる女子や男子と色々と学校の事や遊びの事を話している。


「早乙女君は、大学行くの?」

「ええ、大学には行きます」

「理系、文系?」

「理系です」

「じゃあ、来年は3Aね。私も理系目指して頑張ろうかな」


「「「私も、私も」」」

「「「俺も。俺も」」」


―おい、三学期の学年末考査は相当の激戦だな。二学期末考査の結果も考慮されるぞ。

―ああ、今からしっかり準備しないと。

―あっ、俺、この前の考査あんまりよくなかった。

―ふふっ、これで一人脱落だな。

―何、まだ間に合う。学年末考査はトップを狙うさ。


 皆さん、学業で競うのはいい事です。そんな事を楽しく話していると川上が


「交代の時間だ。他のお客に気付かれない様に移動するぞ」

「「「分かった」」」


 一回目の交代が終わって二回目に入ろうとする時、


「なんで望月さんが早乙女君の隣に居るの。あなたも移動でしょ?」

「えっ、私もなの?」

「当たり前じゃないですか。固定メンバは早乙女君、小早川君、東雲さんそれに芦屋さんよ」

「えーっ、でもう」

「望月さん、約束です」


 望月さんが残念そうに部屋から出て行った。これは仕方ない。直ぐに健吾が空いていた隙間を詰めてくれたので、他の女子が座る事はなかったけど、何故か女子が恨めしそうに健吾を見ている。皆公平で行きましょう。


 ここでもさっきと同じ様に勉強の事とか、遊びの事とか話して男子も、女子も歌と一緒に盛り上がった。


 そして三回目の移動の時、廊下で


―ねえ、Aクラスの人、やたら多くない?

―でも、今日私達もクリパだし。

―そうかなぁ。あっ、でも早乙女君や真名ちゃん居るんじゃない?

―聞いてみようか。

―うん。


「ねえ…」

「「「居ません」」」


―なんか凄い圧ね。

―怪しいけど取敢えず諦めよ。

―うん。


 という事が、俺達の部屋に入って来た人達から聞いたけど、上手く誤魔化せて良かった。



 そして、楽しかったクラスのクリスマス会も終わり、ゾロソロと部屋を出たのは良かったのだが、カラオケ店の店員が


「あの、早乙女麗人さんと芦屋真名さんですよね」

「そうですけど」

「入口が大変な事になっています。どうもここに二人が入った事が漏れたみたいで、お店の外にも人だかりです」

「「えっ!」」


 そこに、事務所の運転手の紅さんと芦屋さんの事務所の運転手の人が来て

「早乙女さん、芦屋さん入口からは出れません」

「店員さん、裏口有りますか?」

「非常階段しか」

「じゃあ、そこに行き…」


 部屋の入口で溜まってしまったのが良くなかった。


―わーっ、早乙女君と芦屋さんだ。

―うわぁ、本当だ。


 それを聞きつけた、他の部屋かも人が出て来て廊下が一杯になっている。


「早乙女さん、芦屋さん。こっちです」

 店員さんが総出で廊下に居る人混みを開けてくれている。クラスの人も協力している。


「行こう、芦屋さん」

「はい」

「「私達は裏に車を回します」」

「お願いします」


 店員さんが非常階段のドアを開けてくれている。二人が出ると店員さんが

「またのご来店をお待ちしております」


 と笑顔で言ってくれた。流石だ。


 俺達は非常階段を降りて、カラオケ店に停めてある車に走ったが、表に居た人に気付かれて


―きゃーっ、早乙女麗人よ。

―芦屋真名もいる。

―行くわよ。


「芦屋さん、走りましょう」


 ふふっ、麗人お兄様が私の手を握って前を走ってくれている。嬉しい。愛の逃避行(注)だわ。

 もっとゆっくり走っても…。良くないわ。後ろから凄い人数の人が押し寄せてくる。走らないと。


 俺達は、車に着くと急いで乗って、人だかりとは反対方向に走った。


「ふうっ、間に合った。早乙女さん。楽しかったですか。クリスマス会は?」

「会は楽しかったですけど。しかしなんでバレたんだ」

「外から見ていましたけど、入る時にバレていましたね。あれはいわゆる出待ちという人達です。気を付けて下さい」

「分かりました」


 やっぱり名前や顔がメディアに載るのは本当に駄目だな。もう絶対に出ないぞ。芦屋さん、無事に帰れたかな。あの人は慣れているから大丈夫だろうけど。


―――――

注)同名の映画が有りますが、本作品とは全く関係ありません。ここでは気持ちの表現として記載しています。


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宜しくお願いします。 

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