第82話 クリスマス会は決めるだけでも大変です


 俺は、家に帰ると玄関に美麗の靴が置いてある。先に美麗は帰っている様だ。二階に上がり自分の部屋に行こうとすると妹の部屋のドアが開いて

「お兄ちゃん、お帰り」

「ただいま」

「お兄ちゃんクリスマスの予定って何か入っている?」

「特に入って…。あっ、クラスの人達がクリスマス会に参加出来ないかって聞かれている」

「えっ、それって不味くないの?」


「うーん、来年は皆受験生だし、クラス皆で出来るのは今年だけだからって言われて」

「だって、去年もクラスでやったんじゃないの?」

「それはそうだけど」

「それっていつやるの?」


「月曜日、終業式が終わった後」

「じゃあ、その前の日曜日は、家族でクリスマスしよ。お母さん、空いているって言っていたし」

「それは、いいけど」

「決まりね」

 


 夜になりお母さんが帰って来た所で

「お母さん、相談があるんだけど」

「なに?」

「来週の月曜日、終業式が終わった後、クラスのクリスマス会が有って参加出来ないか聞かれている」

「うーん、今の麗人の事を考えるとねぇ。クラスの子の気持ちは分かるけど…。麗人は出たいの?」


「気持ち的には出たいけど、登下校の事を考えるとどうすればいいかなと思って」

「何処でやる予定なの?」

「多分、カラオケ」

「事務所の車で校門から帰る振りをして、そのカラオケ店に行って、終わったらまた事務所の車で送ってもらう事にしたら。

 後、カラオケ店には、麗人がいる事を広めない様にって。例のプログラムが有るから変な事にはならないと思うけど。ところで真名ちゃんは?」

「俺が参加すれば参加すると思う」


「それは、また大変そうね。真名ちゃんの方は慣れていると思うけど、一応、会場の出入りは同じようにして貰った方が良いわね」

「分かった」


 あーっ、お兄ちゃん。大丈夫かな?



 俺は、翌日教室に入ると川上の所に行って、

―クリスマス会は参加出来る事、

―カラオケ店へは、俺が下校する感じで校門から車に乗って向かう事、

―クリスマス会に参加する人達には、会とか無い風にバラバラにカラオケ店に向って貰いたい事

等を話した。


「分かった早乙女。皆には明日のLHRの時、先生に時間を貰って話すよ」

「悪いな、川上」

「礼を言うのはこっちだ。という事は芦屋さんも参加か」

「多分」


 芦屋さんにも聞こえているらしく、俺達の所に来ると

「分かりました。私も参加という事にします」

 

 それを近くで聞いていたクラスの子はトキメキ立ったけど、友永さんの一言で静かになった。



 翌日のLHRの時、川上は桜庭先生に事前に声を掛けてあったのか、時間になると友永さんと前に出て


「皆聞いてくれ。来週のクリスマス会の件だけど、早乙女と芦屋さんが参加出来る事になった。


「「「「「「きゃーっ!」」」」」

「「「「「「やったぜーっ!」」」」


「だけど、皆に協力して貰わないといけない事がある。それが出来ないと会は開けない。

 最初にだが、絶対に他のクラスの人には話さない様に。身内にも駄目だぞ。何処で広まるか分からないからな」

「「うんうん」」


「次にだけど、当日は終業式が終わった後、皆いつもの様にバラバラに帰ってくれ。それからカラオケ店に向う様に」

「「うんうん」」


「早乙女と芦屋さんも普通に下校するように校門から車に乗るけど、向かうのはカラオケ店だ。決して店の入口で溜まっていない様に」

「「うんうん」」


「カラオケ店は他の客も居るはずだから、店内で早乙女や芦屋さんの存在を教える様な発言は廊下やトイレなどでは口に出さない様に」

「「うんうん」」


「あと、皆も知っていると思うけど、特別校則と早乙女麗人保護プロフラムに準拠するから写真とかは絶対に撮れないぞ」

「「「えーっ、そんなぁ」」」


 まあ、これは仕方ない。


「最後だけど、三十分交代で、四部屋の人が交代で動くから、その時も他の客に気付かれない様に」

「「りょーかい」」


 流石川上だ。見事にまとめたな。


「じゃあ、ここまでだ。桜庭先生有難うございました」

「皆さん、クラス委員長の指示通りに楽しんでくださいね」

「「「「「はーい」」」」」

 私だって行きたいのに。



 その日は、それで解散となった。次の土曜日は、事務所の人には申し訳ないけど車で道場迄送って貰い、稽古に参加した。やはり、毎週稽古が出来るのは気持ちがいい。


 秀子さんと組手する時は、前よりも鋭くなってきている感じがする。それを褒めると

「いずれは夫を守る為よ」


 なんて言うから

「へぇ、夫になる人って大変ですね」


 なんて冗談言ったら、いきなり上段後ろ回し蹴りを鋭くして来た。スッと身を引いたけど、なんか前よりも切れ味が凄い感じがする。秀子さんの夫って…。えっ、まさかね?



 稽古が終わった後は、美麗と久々の買い物だ。これも全て車で移動。参ってしまう。前はこんな事なかったのに。来月、正月に合わせて例の映画が封切りされる。俺どうなるんだろう?


 デパートの駐車場、ここは地上三階にあるんだけど、降りて直ぐに他のお客様に見つかって写真を撮られそうになったけど、一緒に居る事務所の人に言われて諦めてくれたようだ。



 美麗には素敵なちょっと高価だったけどクリスマスのプレゼントを買ってあげた。今年ドラマ、CM、映画と出演したお陰で、高校生には不釣り合いな貯金が有るから問題なかったけど、美麗はとても喜んでくれた。


 ショップの人は慣れているのだろうけど、俺達が入ると目を輝かせて喜んでくれた。買い物もそのなりの金額なので尚更だ。


 もちろん、お母さんとお父さんのへのプレゼントも忘れていない。そして翌日は朝から美麗とお母さんで料理の支度をして、ちょっと遅いお昼を兼ねてクリスマスパーティをした。


 お母さんにはネックレス。お父さんには腕時計だ。両方とも諭吉さんが百枚以上必要な代物だけど、とても喜んでくれた。美麗のプレゼントは諭吉さん二百枚以上のイヤリングだ。


 皆の喜ぶ顔を見るとちょっとだけ出演して良かったと思ってしまう。俺には…。あっ自分のが無い。


なんて思っていたら、お父さんとお母さんからは一緒のプレゼント、美麗からも素敵なプレゼントを貰った。何を貰ったかは後で教えてあげる。チャンス有ったらね。



 そして翌日はクラスのクリスマス会だ。楽しいだけで終わらせたいのだが。


―――――

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