第81話 早乙女麗人保護プログラム


 私達、都立星城高校の全教職員は土曜日、そう前日に二学期末考査が開始された翌土曜日に出勤させられていた。


 冗談じゃないわ。なんであの問題児、いえ早乙女麗人の為に全員が土曜日出勤させられるのよ。


 特に私が彼のクラス担任という事も有って、余計気が重くなっている。午前八時半から開始して、喧々諤々、更に昼食時間、これは学校手配の松花堂弁当で美味しかったけど、うん。そうじゃなくて、その後も喧々諤々の意見が出て、午後四時頃やっとまとまった。


 内容は、

―高校生の健全な学校生活を維持する為、学校周辺に生徒及び関係者以外が近付かない。関係者は身分証明を提示する。

―警備会社と契約して、午前七時から午後九時までの間、正門、裏門から不審者が侵入しない様に警備させる。

―早乙女麗人本人には、早乙女家から彼のボディガードを付ける様に依頼する。

―早乙女麗人は登下校を車にて行う。

―出版界には要望として、早乙女麗人のプライベイト写真を乗せない。

―早乙女麗人に関係ない人が彼の写真を撮った場合やその写真が出版社等に持ち込まれた場合。肖像権侵害、個人情報保護違反、脅迫未遂などの理由を元に逮捕する。

 等々を決めた。名付けて『早乙女麗人保護プログラム』


 また、特別校則の強化として学校内において早乙女麗人、芦屋真名に対して、スマホなどを利用した写真を撮ろうとした生徒は、撮れた撮れないに関わらず、即刻一週間の停学処分とする。これは不用意に体に触ったりした場合も同罪とする。を決めた。


 そして日曜日には、区教育委員会を通して、都教育委員会に上げ、更に文部科学大臣に嘆願書『早乙女麗人保護プログラム』を提出して貰い、出版業界に早乙女麗人の写真を乗せない事、写真を持ち込んだフリーターは、警察に通報し、罰則を加えるように依頼した。



 当然、これが動くには時間がかかると思っていたが、区教委、都教委、そして文科省の中にも早乙女麗人ファンは多く居るようで、特に女性である文科大臣は、直ぐにこの嘆願書の内容を検討して、即日施行としてくれた。


 週間文秋や週刊旧潮の編集部長は反発したが、出版停止させるぞという脅し?いえ依頼によって、直ぐに彼の特集を組む事を禁止した。



 この事がマスメディアから発表になると映画ファンからの反発を招き、仕方なく純粋に映画の内容に関する報道、出版だけは認める事となった。



 

 だけど、これを聞いた俺は……。お陰で…俺の名前は、全国版で有名になってしまった。


 今迄登下校や放課後の校門の水やりの時など不審者もどきがカメラを構えて騒いでいたけど、このプログラムが施行されると静かになった。


 でも、俺個人は、園芸部の水やりや草むしり、寒肥と言われる来年の花付きの為の肥料の施しなどが終わり、園芸部に戻ってバッグを肩に掛けるだが、


「早乙女君、一緒に帰れないね」

「望月さん、残念ですけど、決まりなので」

「麗人、下校だけでも何とかならないの?」

「九条先輩、決まりなので」


 と理由を言って、一人で…じゃなくて右に九条先輩、左に望月さんがいる並びで校門まで行くと、


 後部座席の窓がシェードされている黒い車が待っている。俺が校門まで行くと運転席から出て来た女性、紅亜希子(くれないあきこ)さんが


「早乙女さん、帰りましょうか」


 と言うと九条先輩と望月さんが思い切り不満顔で


「麗人、また明日ね」

「早乙女君。また明日」


と言って駅の方に向った。


 この車は、お母さんが自分の所属事務所にお願いして、俺専用の登下校用の為に用意された車だ。


 運転手は事務所の女性。将来、俺が事務所に入るだろうという腹積もりのようだけど。俺はもう絶対にカメラの前には立たないと決めている。


 お母さんの仕事も俺の出演を条件とした出演依頼は無くなった。でもお母さん自身が俺と一緒に出れないと言って不満を言っている。本当はどうだったんだと思ってしまう。


 警備会社のセキュリティの人も全校生徒が帰ると学校の正門と裏門から戻って行く様だ。


 こうして平穏が訪れたはずなのだが、このプログラムの対象外の人がいる。そう芦屋さんと望月さんだ。最近は冷戦状態さながらの様相を呈しているが、俺にとっては、静かでいい。


 お昼は、美麗と優美ちゃんが教室に来て、俺、健吾、雫、美麗、優美ちゃん、芦屋さんそして望月さんが一緒に食べている。


 周りは教室でお昼を食べる生徒で一杯だけど、例の特別校則強化のお陰で、前みたいに下手に声を掛ける生徒も居なくなって平穏に過ごしている。

 

 なんて思ったら、最近になって九条先輩と八頭さんが昼食に参入して…・。廊下迄他の学年やクラスの人がどこから持って来たのか分からないけど廊下迄机を並べて昼食エリアを広げて食べている。


 皆さん教室で食べましょう。



 平穏な時期とは早く過ぎるもので、既に年も暮れる十二月二十日。来週月曜日は終業式…等は関係無く。そう目の前にクリスマスが控え、クラスの中は騒然としていた。


 クラス委員長の川上とクラス委員の友永さんが、高校二年生のクリスマスは、皆でやる最後のクリスマスだという大方の意見を何とか鎮めるべく前に出て調整しているのだが、


A子さん「ねえ、三年になったら受験でみんなでクリスマス出来なくなるわ。だから今年やろうよ」

B子さん「そうよ。ねえ友永さんやろう」

友永さん「そう言われても、これでけの人数じゃあ」

C子さん「いいじゃない。前みたいにカラオケ十人部屋を四部屋借りて早乙女君、芦屋さん、小早川さんと東雲さん以外が時間決めて交代すれば」

川上「そうは言ってもなぁ。大体主人公の早乙女や芦屋さんが参加するのか分からないだろう」


 まあ、確かに俺達に確認しないで話しているんだから。


A子さん「で、でもさあ。去年もやれたんだし、いいじゃない。早乙女君、芦屋さん良いよね」

芦屋さん「私は事務所にスケジュールを聞かないと」

B子さん「早乙女君はいいでしょう」

俺「うーん、それは、やっぱり難しいよ」

C子さん「えーっ、早乙女君、お願い。今年が実質最後のクリスマス。駄目かなぁ」


 何故かクラスの女子全員がこっちを向いて胸の前で手を合わせている。参った。


 俺は、健吾と雫の顔を見ると首を横に振って判断できないという仕草をしている。


「とにかく家に行って、参加出来るか両親と相談するよ」

「それなら私も」

「芦屋さんは仕事も有るし、無理しなくても」

「麗人お兄様が出るなら、私も出ます」

「「「「おーっ!」」」」


―早乙女出てくれ。


 何故か男子も胸の前で手を合わせている。勘弁してくれ。


 そういう訳でクリスマス参加か否かの結論は持ち越しとなった。


―――――


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宜しくお願いします。 

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