第79話 衝撃のプロモーションビデオ
そして十一月最終週の日曜日にPVが放送された。
日本の題名は「美しき殺し屋」。英語名「pretty murderer」(注)
化粧してウィッグで長い髪の毛を付けた俺がトミ・クルーズの連絡係との話やソティーブン・セガール、オーノルド・シュワルツェネッガーとの格闘シーン。
それに一部だけど狙撃の場面などが流れている。思い切り俺の顔がアップされていた。
そして十か国同時上映というテロップも。その時は、上手く編集しているなと感心しただけだったけど。
最後に外国の俳優陣と共に映し出された主人公の名前が載っていた。
美しき殺し屋 コードネーム レイ:早乙女麗人
俺はその文字を見た時、流石に衝撃を受けた。これって世界十か国に同時配信されているんだよね?
上映されればいずれ分かるだろう、でも来年一月の話だと思っていた。俺の名前がまさかこんなに早く公表されるなんて。事の大きさが分からずにこの日はそのまま過ごした。
その日は当然何も無かったのだけど、次の日に家の最寄り駅に着いて、電車をホームで待っている時から凄く視線を感じる。
電車に乗ると何故か、周りには女性だけでなく男性も一杯いる。全員が俺を見ている様だ。これは三月のドラマとかコネボー化粧品の時とは違っている。
流石にこれだけ注目されと恥ずかしい。お願いですから、そんなに見つめないでと心の中で思ったのだけど。
学校の最寄り駅に着いて健吾と雫を待っていると俺の周りに人だかりが出来てしまった。その内、二人が来ると
「麗人、不味いな」
「麗人、とにかく早く学校に行こう」
「ああ、そうするか」
いつもの挨拶もしないで学校に急ぐ。
いつもより早足で歩いているのだが、同じ高校の生徒は勿論、何故か星城高校以外の生徒も一緒に歩いている。その中には一般の人も多い。どうなっているんだ?
周りからの視線が凄い。そして学校に着くと俺のファンクラブと、随分人数が増えているけど、他校生に混じって一般の人も随分校門の傍に居た。俺達が近付くと
―きゃーっ、来たわよ。
―本物だ。
―写真撮ろう。
「皆さん、駄目です。これ以上、学校に入らないで下さい」
「いいじゃない、少し位」
「駄目です」
「いいじゃない」
「駄目です。麗人様、早く校舎の中に!」
「いつもありがとう」
―きゃーっ!みんな聞いた。麗人様が。
―うん、頑張るわよ。
―おう!
俺の一言が何故かファンクラブの人を勇気づけたようだ。押されていた外部の人を押し返している。
すみません。俺達はその間に校舎に入ったのだが、昇降口で待ち構えられた。
―見て、麗人様よ。
―長い髪の美しき殺人者 レイ。
―美しすぎるわー。
―だ、駄目ー。い、息がぁ。
―早乙女麗人だ。もう女性にしか見えない。
―俺、プロポーズしようかな。
―でも、早乙女は男だぞ。
―いまはジェンダーレスだ。
俺は、それを聞き流して、下駄箱の中に当然って言うか、下駄箱が閉まっていない。俺はビニール袋を取出して、そっと下駄箱を開けると
ドサッ、ドサッ、ドサッ、ドサッ、ドサッ、ドサッ、ドサッ。
「麗人凄い数だな」
「ああ、もう勘弁して欲しいよ」
俺と健吾、雫が床に零れ落ちたカードを拾い上げてビニール袋に入れていると
「麗人お兄様。お迎えに来ましたわ」
「芦屋さん?」
ふふっ、ここで私がお兄様をエスコートすれば、皆さんに私とお兄様の関係をアピール出来る。
「さぁ、行きましょう。一緒に教室へ」
「いえ、健吾達と行きます」
「そんなぁ。それなら私も一緒に」
―見たか。
―ああ、あの芦屋真名が、相手にされていない。
―すげぇ、流石国際俳優。
なんか、段々不味くなって来たな。
教室に入ると、誠也、川上、相模、それに田畑さんが寄って来た。望月さんは俺の席の前だ。他の生徒も全員こっちを見ている。
「見たぞPV。凄い美人だったな」
「誠也、俺は男だって」
「いやいや、麗人があんなに美しい女性になるなんて。俺惚れちゃいそうだよ」
「「俺もだよ」」
「三人共、勘弁してくれ」
「早乙女君、私達が君を守ってあげるわ」
「それは、有難いのですけど…」
予鈴が鳴って直ぐに担任の桜庭先生が教室に入って来た。
私、桜庭京子。早乙女麗人と芦屋真名が居るクラスの担任だ。彼が入ってきて以来、私の心が落ち着いた事がない。最初は嬉しかったけど、今では早く卒業してくれと思うばかりだ。
修学旅行が静か?に終わって安心していたのに。
昨日、彼が主役で出演している映画「美しき殺し屋」のPVを見た。はっきり言って、私も驚いたわ。
同性、いえ、彼は男性だけど、そんな事関係無い位美しい女性だった。そしてあのアクションシーン。
何よあれ。隙の無い美しさとメヒョウの様にしなやかな体で、有名な外国の俳優相手に動き回るシーンは、私を釘付けにしてしまった。
今日は、朝から職員室の電話が鳴りっぱなしだ。中学生の親からだけでなく、どこぞの記者や何処でここの生徒と知ったのか分からないフリーライターのインタビュー申し込み。駄目に決まっているじゃない。
校長、教頭始め、先生達と緊急会議、名付けて『早乙女麗人保護プログラム』。もう特別校則だけでは学校内は良くても郊外の人には対処出来ない。でも良い案が出なくて会議は継続となった。
頭が痛い。頭が痛い。本当に頭が痛い。早乙女麗人が私の夫になればすぐに静かになる…訳無いか。
私は、教室に入ると
「皆さん、おはようございます。早速ですが、早乙女君への特別校則が有る事を忘れない様に。星城高校生として恥じない様な行動をお願いします」
シーン。
「えっ?」
なんで、皆早乙女君の方見ているのよ。
「皆さん、こちらを向いて下さい」
「「「「「はーい」」」」」
まったく、これからどうすればいいのよ。
―――――
注:同名の映画が某放放送サイトから流れていますが、本作品とは全く関係が有りません。宜しくお願いします。
この作品を読んで、笑っちゃうとか、なんじゃこりゃと思われた方ぜひフォローと★★★(ご評価)を頂けると嬉しいです。ご感想もお待ちしております。
宜しくお願いします。
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