第78話 平穏な時間は短い


 秀子さんの買い物を付き合った翌日は外に出ないで勉強した。今迄の積み重ねもあるので、翌週火曜に行われた模試は、何とか全問解答できた。少し自信の無い問題も有ったけど。


 芦屋さんが転校して一ヶ月半が経ち、学校も落ち着いて来た。どんな有名人でもいつでも見れると思うと、当初の盛り上がりも弱火になった様だ。


 その後は平穏?に学校生活を送れるはずなのだが…。


「麗人お兄様、私も園芸部に入りたいです。なんとか桜庭先生にお願いして下さい」

「俺に言われても」

「でも、もう園芸部長はお兄様では無いですか」


 そう、十月に正式に九条先輩より俺が園芸部長を引き継いだ。流れからすれば当然の事だ。


「そうは言っても俺だけの判断では決められないよ」


 こんな会話していると前に座る望月さんが、


「芦屋さん、あなたがいなくても園芸部は十分にやっていけます。入らなくて結構です。仕事忙しいんでしょ。早乙女君目当てに中途半端にされても花壇の花が可哀そうです」


 そこまで言う?


「望月さん、あなたが口出す事ではありません。これは麗人お兄様と私の大切な会話です。部外者は黙っていて下さい」

「何ですって!」


「ちょ、ちょっと待って。二人共落着いて。芦屋さん、園芸部は部員募集はしていません。今入部したいと言われても出来ないですよ。

 望月さんも言い過ぎ。とにかく俺の席の前と後ろで揉めるのは止めて下さい。仲良く出来ないと俺他の席に異動しますよ」


―ねえ、聞いた。

―早乙女君が席を移動するって。

―どっちが動く。 


―なあ、早乙女が席を移動するって。お前どけ。

―何言っているんだ。お前こそどけ。

―今日の放課後、果し合いだ。


 もういい加減にしてくれ。


「二人共とにかく仲良くして。俺はここに居るから」

「「でもう、この人が!」」

「相手の所為にしない。ねっ、仲良く」

「「わ、分かったけど」」


―なんだ、早乙女君、席移動しないのか。

―おい、お互い命拾いしたな。

―あ、ああ。


 勘弁してくれ。




 そして九条先輩は受験生で有るにも関わらず、水やりだけは出てくる。もう良いです、受験に集中して下さいと言ってもまだ心配だからという理由だ。


 妹の九条美奈さんも望月さんもしっかりと園芸部員をこなしているのだけど。


 それに今の二年生は俺と望月さん、一年生は妹の美奈さん。来年四月には新しい人の募集も出来るので問題ない筈なのだが。


「麗人、水やりは心よ。あの二人はまだそれが分かっていないわ。私がもっと教えないと」

「あの二人は、十分に心で…」

「麗人、私の事が嫌いになったの?」


 涙を下瞼に溜めている。絶対に演技だ。最近先輩この手が上手くなって来た。


「そんな訳なじゃ無いですか。先輩は俺に花壇の素敵さを教えてくれた人です」

 本当はもう止めたい。


「そ、それなら良いけど。だから卒業まで水やりするから」

 はぁ、大学受験大丈夫なのかな。俺が心配しても仕方ないけど。



 もう一つは、


「お兄ちゃん、お昼だよ。一緒に食べよ」

「麗人お兄様、私と一緒に食べましょう」


「麗人今日はどうするんだ?」

「そう言われてもな」

「思い切って、俺と一緒に購買に行って菓子パンにするか」

「健吾、いい案だな」

「「駄目です。小早川さんもなんて事言うんですか」」

「いや、俺は…」

「美麗、芦屋さん。俺は今日から購買にする」

「「えーっ!」」


「美麗さんが悪いのよ。強引に麗人お兄様と一緒に食べようとするから」

「何言っているの。大体、芦屋さんが、私のお兄ちゃんの事を何で、麗人お兄様なんていうのよ。お兄ちゃんは私だけのお兄ちゃんよ。話しかけないでよ」

「何を言っているのです。いずれは私と麗人お兄様は結ばれるのです。その時、あなたは私の義理の妹になるのです。今からそんな事言って良いんですか?」

「何ですって!」


「二人と止めろ。全く」


「麗人行くか?」

「あ、ああ」

 頼むから二人共仲良くしてくれ。


 美麗には悪いが、二人からは何も貰わない事で決着が着いたはずなのだが、何故か菓子パンの上に美麗が作ったおかずや、芦屋さんが作ったおかずが乗っている。流石にこればかりは参った。


 簡単な焼きそばパンに鳥唐揚げや卵焼きを乗せられるので食べにくくて仕方がない。


 そして昼休みになるとAクラスは生徒で一杯になる。皆友達と食べると言ってクラスの中に入って来るからだ。



 そんな、平穏?な時間も過ぎて行き、十一月の半ばに俺とお母さんに映画配給会社から連絡が入った。


 八月、九月に撮影した映画のプロモーションビデオ(PV)を流すというのだ。それも世界十か国同時に。放映内容は当然、ヤマ場の格闘シーン。


これは、俺が反対しようが、どうにもなるもでも無く、流される事になった。



「麗人。なるべく早くボディガードを付けるしかないわね。同時に登下校は車にしましょう。全ての人がPVを目にする訳では無いと思うけど日に日に多くなるわ。

 既に麗人の顔は、ドラマとCMで有名になっているから、広まるのは早いと思うのよ」

「……………」


 どうしたものか。秀子さんが、登下校を一緒にする事であの人に迷惑がかかる可能性もある。もう断るしかない。俺は直ぐにスマホで秀子さんに連絡した。


『どうしたの?麗人から連絡来るなんて』

『秀子さん。明日からの登下校を一緒にする事は止めて下さい。理由は…』


 八月、九月に撮影して一月に上映される映画のPVが十一月の最終日曜日から流れる事で秀子さんにも迷惑が掛かる事を話した。


 確かに麗人と毎日とは言わないけど、彼と一緒に登下校すれば、いやでも週刊誌やスポーツ紙の記者達が、麗人の傍に居る女性は誰だという事で、変な追っかけをされるの可能性は高い。


『麗人分かったわ。残念だけど登下校の付き添いは止めましょう』

『すみません』

『謝らなくてもいいけど。残念だな』

『ではそういう事で』


 麗人から登下校の付き添いを断られた。理由はもっともな事だ。記事が欲しい記者やフリーの人達は、ハイエナの様に食いついて来る。


 それは、私の家族にも迷惑がかかる可能性がある。仕方ないか。でも残念だな。この前もデートして、少しでも距離を縮めていたのに。



 そして十一月最終週の日曜日にPVが放送された。


―――――


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