第76話 自由行動の日です


 今日は、自由行動の日だ。俺達Aクラスは、朝食を大広間で食べた後、ホテルのロビーに集まった。

 目的地までバスに乗る為だ。まあ、全員同じスケジュール?になったから仕方ないよね。


 他のクラスの生徒が

「なんでAクラスだけバスなんだ」

「なんでもAクラスは、同じ観光スポットに全員が同じスケジュールで行くらしい」

「なんだそれ?」

「俺も分からないが、何となく分かる気もするよ」

「そういう事か」


 会話成り立っているのか?



 俺達が集まっていると桜庭先生が

「はい、Aクラスの人はバスに乗って下さい。私も同行します」

 私も八坂神社には行こうと思っていたから良かったのだけど。ここまで来て、この二人のお守りとは。



 バスの中に入ると例によって芦屋さんが

「小早川君、東雲さん。行先は三つあります。帰りを入れると四つです。ですから、麗人お兄様の隣は順番に私、小早川さん、東雲さん、望月さんの順で座りましょう」

「何を言っているの芦屋さん、あなたは昨日と同じよ。早乙女君と私、東雲さんと小早川君よ」

 なんか違っている様な?


「何言っているのよ。私」

「私よ」

 はぁ、またかよ。


「二人共止めなさい。他の人に迷惑ですよ。後ろがつかえています。早乙女君の隣は小早川君、東雲さんの隣は芦屋さんか、望月さんか、昨日と同じ様にじゃんけんで決めなさい。

「「はーい」」

 何故か桜庭先生には聞き分けがいい。


最初はグー、じゃんけんポン。


「勝ったぁ」

 なんと今日は芦屋さんが勝った。望月さんが悔しそうに前に座る。芦屋さんは嬉しそうに

「東雲さん、宜しくね」

「はい、こちらこそ」

 疲れるわー。この二人。



 そして、なんとか無事に出発して最初の目的地八坂神社に向った。そこに行くまででも観光名所が一杯有る。京都という町のいにしえを感じる。


 八坂神社にはバスを止める所が無かった為、近くの有料駐車場に止めて、みんなで向った。


 俺と芦屋さんの前と後ろはボディーガード五人(学校手配四人と芦屋さん専任一人)が前と後ろを固めている。

 健吾と雫それに望月さんはその後を付いてくる感じだ。



 俺達は石鳥居という歴史を感じる立派な鳥居をくぐって、正面に立つ南楼門に差し掛かったところで芦屋さんが、


「麗人お兄様。手を繋ぎましょう」

「それは駄目です。お母さんからきつく言われているので」

「えっ、…それは私のマネージャも言っていましたけど。いいじゃないですか、見て無いんだから」

「駄目です」

「麗人お兄様のケチ」

 どこがケチなんだ。



 次に来たのが舞殿だ。ここに来ると

「麗人お兄様、写真はいいですよね。二人でこの舞殿をバックに写真を撮りましょう」


 まあ、写真位いいか。

「健吾、雫。俺のスマホと、芦屋さんのスマホで俺達を撮ってくれ」

「麗人いいのか?」

「写真位いいだろう」


「じゃあ、撮るぞ。はい、チーズ」


カシャ、カシャ、カシャ、カシャ、カシャ、カシャ、カシャ、カシャ、カシャ、カシャ


「えっ?!」


―撮ったわよ、早乙女君と芦屋さんの写真。

―私も。

―おい、撮ったよな。

―これを週刊誌に売れば、ぐふふふっ。


「みなさーん、今の写真は全て消してください。今からスマホのチェックを行います」


「「「「「えーっ、そんなー!」」」」」

 全く、早乙女君も芦屋さんも自分の立場をわきまえて欲しいわ。なんで私がこんな事しないといけないのよ。


「あの、桜庭先生。俺達のもですか?」

「あなた達は自分の写真でしょ。構わないわよ」

「先生、ありがとー」

 何故か、芦屋さんが桜庭先生に抱きついて、先生が顔を真っ赤にしている。



「早乙女君、私とも一緒に撮ってよ」

「望月さん」

「望月さん、私達の班全員で撮りましょう」

「何言っているの、自分だけ一緒に撮っておいて。ねっ、早乙女君良いでしょう」

「仕方ない。一枚だけですよ。その後、健吾と雫と一緒に撮ります」

「分かった」



―いいなあ、望月さんだけいい思いして。

―仕方ないわよ。じゃんけんの強運の持ち主だもの。

―私じゃんけん鍛えようかな。

―私も


 皆さん、何を言ってるんですか。じゃんけんより学業に専念しましょう。



 この後も手水舎で手を洗い、能舞台を見た後、女子達は美御前社に行って数滴体に付けると身も心も洗われるという、社の脇にある湧水を付けて楽しんでいた。


 思ったより、広くて楽しかったので。予定の一時間を三十分オーバーしたが、次に清水寺に向った。



 先にお願いしてあった食事処で、皆で一緒に昼食を摂った後で、清水寺に向った…のは良かったんだが。


「何ですかこれは?」

 桜庭先生が呆れている。


 清水寺に向う狭い坂道が人で一杯だ。外国人も居れば日本人もいる。先へも中々進まない。

「麗人、どうするか?これじゃあ、舞台に着くまでに結構時間が掛かるぞ。他のお堂なんか見れる時間無いな」

「ああ、でもせっかくだから舞台までは行こう。せっかくだから」

「そうだな」


 長々と続く坂道の両側にはお土産屋さんが並んでいる。そこを見ている人と清水寺に行く人、帰って来る人で、狭い坂が余計に狭くなっていた。当然途中では


―ねえ、芦屋真名よ。

―あの子、確かコネボー化粧品のCMに出ている。

―早乙女麗人だ。

―綺麗だわ。テレビより全然綺麗だわ。サイン貰えないかな。

―写真撮りたい。


「はい、駄目です。サインも写真もいけません」

「少し位いいじゃない」

「駄目です」

 ボディガードの方、ありがとうございます。



 前後をがっちりとボディガードに囲まれながらなんとか清水寺の舞台まで着いた。


「凄ーい、ここが清水の舞台」

「あれ、芦屋さんは、初めてですか?」

「はい、こういう風に見るのは初めてです。凄い景色ですね」

「そうですね。清水の舞台から飛び降りるという言葉をパンフレットで読みましたが、ここから飛び降りるのは、勇気がいりますね」


「麗人、そろそろ行かないと渡月橋に行けなくなる」

「ああ、降りるか」

 思ったよりここに来るのに時間がかかった様だ。


 全く、小早川君は!せっかく麗人お兄様といい雰囲気だったのに。


 坂を降りてバスの所に戻ると、まだ数人が降りて来ていない様だ。十五分位して戻って来たが、どうもお土産を買っていたらしい。そう言えば、美麗と両親にお土産買わないと。


 バスの中で、桜庭先生が点呼して、隣に座っている人もいるか確認してから渡月橋に向った。

 もう午後二時半だ。あまり居れなそうだな。



 桂川に架かる渡月橋は、土手沿いの通り道から見ると本当に歴史を感じる素敵な橋だ。桂川の流れに佇む貴婦人の様な感じがする。嵐山がそれに色を染めてくれる。


 俺が見ていると

「麗人、行こうか」

「雫か。綺麗な橋だな」

「麗人、大分感傷に浸っているな」

「健吾、偶にはこういう所を静かな気持ちで見ているのも良いもんだよ」

「静かねぇ?」


 確かに、また望月さんと芦屋さんが何か言い合っている。

「私が先に麗人お兄様と渡るのよ」

「何言っているの私よ」


「健吾、雫。無視して行こう」

「ああ」

「うん」


「あっ、ちょっと待って麗人お兄様」

「早乙女君待ってよ。おいて行かないで」

「二人と早く来ないと置いて行くぞ」

「「はーい」」

 なんか素直だな。



 ここは多くの観光客が居るが、清水寺の様な酷い混雑なく、皆で川面を見ながらゆっくりと渡れた。


 俺の両脇に健吾と雫が居る為、あの二人もキャアキャアと言って来ない。欄干の前で嵐山をバックに皆で写真を撮った。でも、最後に


「麗人お兄様、一枚だけ、ねっ、一枚だけでいいから二人だけで撮りたいです」

「早乙女君、私も」

「健吾と雫」

「ああ、仕方ないかな」

「いいんじゃない。もう他の班の人が、あっ、他のクラスの子がこっちにスマホ向けている」


「じゃあ、駄目だな」

「もう、麗人お兄様のケチ」

「いいじゃない、一枚くらい」

「望月さんとだったらいいんじゃない」


「えっ?!東雲さんほんと?」


「ちょっと、待って」

 他の班の人が声を掛けて来た。


「望月さんがいいんなら私達も良いでしょう」

「望月さん、残念ですけど」

「もう、他の班の人なんか良いのに」

「駄目です」


 残念ながら俺と芦屋さん、俺と望月さんのツーショットは二人の夢として消えたようだ。


 それから、俺達はバスでホテルまで戻り、Aクラスの合同自由時間は終了となった。



 帰りの新幹線の中でも賑やかだったが、無事に俺達の修学旅行は終了した。品川駅の改札で解散となったが、俺と芦屋さんを本当に俺達の行動を見守る様にガードしてくれたボディガードの人達に丁寧にお礼を言うと、最初に声を掛けた人が、一言


「丁重なお礼ありがとうございます。でもこれが私達の仕事なので気になさらず」


 それだけ言うと去って行った。かっこいいなぁ。



 ふっ、これで私の修学旅行のアテンドも終わったわ。あの二人が居るからどうなるかと思ったけど、無事に終わって良かったわ。



 俺は、健吾と雫と一緒に駅からタクシーを拾って帰ろうとすると

「麗人お兄様、私の車で一緒に帰りませんか」

「健吾と雫と一緒に帰るので」


 あーぁ、行っちゃった。この修学旅行。麗人お兄様と私が親密になるチャンスだったのになあ。さて私も帰ろう。


―――――


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