第69話 俺の意思で


 俺は、お母さんに映画の出演が、学業にどの位影響するか、俺がどの位影響を受けるか等を確認したくて、関係者、今回の映画のプロデューサー、監督、脚本家、美術や技術のスタッフと会いたいとお願いした。


 こちらからの急なお願いだったけど、一学期末考査の一週間前に関係者と会う事が出来た。

 知りたかったのは、


―どんな場面で俺が演技するのか、

―どういう所で撮影するのか、

―どういう格好でするのか、

―どの位の演技を要求されるのか、

―撮影時間は何時から何時までなのか、

―撮影期間や時間はどの位かかるのか


 等々色々な事を聞いた。全て高校生活にどの位の影響が出るか、知りたかったからだ。


 予想通り、準備段階から相当の時間を必要とする事が分かった。だが、俺は夏休みはともかく、週中は絶対に参加出来ない事、土曜日午後からと日曜しか参加できない事、考査期間中は絶対に参加出来ない等を要求して、関係者の人が唸っていた。


 今日はこちらの要求だけを言ったので、後日調整できるかスタッフで検討して再度話す事になった。


 確認の話が終わると直ぐに家に帰って期末考査対策の勉強をした。もう一週間も無い。


 幸い、今週は考査ウィークに入っていて午前授業だけだ。土日も挟んでいる。でも学期末考査だけ有って範囲は広いし深い。木曜日から翌週火曜まで考査が有って、次の日は模試だ。




 それらが全部終わった翌週の土曜日の午後に再度確認の話となった。勿論、お母さんとマネージャの薄井さんが傍にいる。



 プロデューサの人が

 麗人君の要求を満たしながら撮影を行うとすると夏休み入ってすぐから八月末までと九月一杯の土日祝日に参加して欲しい。


 場所は、スタジオや早朝の街中、夜の街中、空港での撮影、撮影時間もリハとか入れると丸一日を考えて欲しい。


 格好は動き易いパンツスタイルだけど、髪の毛はウィッグでロングとショートの場面がある。

 君は優しい顔なので、表情がはっきり見える様な化粧をさせて欲しい。


 大きな所はこんな所だが、他諸々細かい事も言われた。


 相手役は、全て俺の時間に合わせるという事だった。外国の俳優三人にも確認取ったらしい。


 俺の三月に取ったビデオを見せて話をしたところ、グレイト、いいですね、ワンダフルと言って俺の都合に合わせてくれるという事だ。


 特にソティーブン・セガールという人は、ぜひ手合わせをしたい?と喜んでいたそうだ。何か勘違いしていないか。


 これを受けると道場へは一ヶ月半行けなくなる。これは秀子さんにお願いすれば何とかなるだろう。

 しかし、高校生活で二年の夏休みと言えば、夏休みを満喫する絶好の時期だ。


 九月は文化祭もある。体育祭に参加出来なかったから文化祭は参加したいと思っていただけにどうしようかと考えていると、監督と脚本家が、


「麗人君は、立っているだけで絵になるんだ。そしてあれだけの動きが出来る人間は、我々の世界にはいない。ぜひ出演をお願いしたい」

と言われて


「麗人、もうお母さんの事は考えなくていいから、自分の気持ちで決めて」


そこまで言われると流石に断りずらいが、一つだけ条件を出した。


「お母さんの出演条件に俺の出演を含めるのは絶対に止めて下さい。特にスポンサーには言っておいて欲しい。これが俺のこの映画への出演条件です」

「分かった。他のスポンサー迄声が届くか分からないがコネボーさんにははっきり伝えよう」

「分かりました。それでは出演します」

「「「そうか!」」」


 映画への参加は八月一日からに決まった。夏休みの宿題を片付けないといけないからだ。



 翌日曜日、道場に言って、師範に事情を説明したところ、

「おお、麗人凄いじゃないか。私の道場から俳優が出るなんて思いも寄らなかったよ。東郷さんとの稽古については、彼女の都合もあるだろうから、本人に聞いてくれ。早朝や夜使うのは構わない」

「ありがとうございます」



 日曜日、秀子さんは参加していないので電話連絡になった。スマホで連絡を取った所、

「うーん、麗人と稽古をするのは嬉しいけど、今日の明日は出来ない。せめて一週間前くらい、どうしても駄目だったら三日前位に連絡して貰えないかな」

「分かりました。なるべくそうします」


 ふふふっ、麗人が私と二人だけで稽古したいなんて。益々期待しちゃうじゃない。


 俺今、背中に悪寒が走った様な?



 稽古が終わって、家に戻ると薄井さんが来ていた。勿論、お母さんも居る。玄関を上がると

「麗人、少しお話があるの」

「何、お母さん?」

「麗人が撮影に参加している間だけ臨時で薄井をマネージャにするわ。時間調整とか場所移動とか大変だから」

「えっ、お母さんの方も有るだろう?」

「麗人君、その位は問題ないわ。一緒の時も多いし」

「後、ギャラの件だけど、ちょっとね…」

「どうしたの?」

「主役とはいえ、飛んでもない金額を提示して来たの。外国の俳優さんと肩を並べる様な。まだ高校生だし、私も考えてしまったんだけど、一応貰う事にしたわ。お母さんなんかと比較にならない金額よ」


 俺は金額を聞いてあきれてしまった。お母さんの手伝い程度に考えていたからだ。この金額はホリウッドの一級レベルだそうだ。


 ちなみこの映画は世界十か国でも同時上映されるらしい。だからあの三人が出るほどの映画なのかと今更ながら認識した。俺恥ずかしいんだけど。



 翌月曜日は、期末考査の答案返却と順位表の張り出しだ。でもその前に駅で合流した健吾と雫に事情を話すと

「おい、それって」

「うん、凄い映画に出るね」

「何の事?」

「麗人、自分が主役を張る映画の事も知らないの?」

「台本読んだだけだから」


「はぁ、しかし、麗人がいきなり世界デビューかよ。凄いの通り越して何処に行ったんだって感じだな」

「そんなに凄いのか」

「ああ、でも麗人らしいな。まあ映画見るの楽しみにしているよ。でも残念だな夏休み去年の様に一緒に遊べなくなった」

「悪い」

「良いわよ。でも羨ましいな。共演する外国の俳優さん、会ってみたいわー」

「それと、この事は撮影が終わるまで内緒にしていてくれ」

「分かっているよ」



 学校に着いて昇降口で下駄箱にある封筒を取り出して、上履きに履き替えてから階段脇の掲示板に行くと


「麗人、十二番まで落ちたな」

「ああ、健吾や雫が、上になってしまったよ」


「麗人、どうしたの?」

「あっ、九条先輩。ちょっと忙しくて」

「えっ、園芸部の事じゃないわよね」

「はい」


「麗人、どうしたんだ。今回も一位だと思っていたのに」

「誠也か。まあ色々有ってな」

「そうか、色々か」


 皆には気付かれない様にしないと。


―――――

話中に、聞いたような名前の方や地名が出てきますが、気の所為です。

この作品を読んで、笑っちゃうとか、なんじゃこりゃと思われた方ぜひフォローと★★★(ご評価)を頂けると嬉しいです。ご感想もお待ちしております。

宜しくお願いします。 

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