第68話 麗人の決断
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お父さんは、午後七時に帰って来た。いつもは午後八時か、九時なのに。
「ただいま、お母さん、話ってなんだ?」
「あなた、お帰りなさい。先にご飯食べて。お話はその後にしましょう」
「分かった」
お父さんが夕食を食べ終わった午後八時に家族全員がリビングに集まった。
「お母さん、話ってなんだ?」
「実は、この前麗人が出演したCMのスポンサーさんの映画に私も出る事になったのよ。私の出演条件は麗人が主役で出る事」
「何だって、麗人が主役。そんな事許せる訳無いだろう。麗人は高校生だ。麗人の高校生活が無くなってしまう。私は絶対に反対だ」
「俺も出たくない。この前出たCMだって、あの後、大変だったんだ。もう絶対に出たくない」
「お母さん、どんな映画なの」
美麗ありがとう。
「映画の内容は、美しい無口な女性が世界を股にかける殺し屋で、世界の諜報機関から依頼された殺しを行うという内容。
今回は日本が舞台。麗人は主人公でその殺し屋役。私はその殺し屋を追いかける刑事役」
「そんな役なら他の女優でも出来るだろう。居るじゃないか美人で動きの良い女優が」
「駄目なのよ。話は出たわ。でも駄目なのよ。その人では。その道のプロの人が見るとどうしても素人だという事が分かってしまって詰まらない映画になってしまうというの。
でも、三月終わりに出た麗人の動きは本物だって。だからぜひ麗人に出て欲しいって。
今回は海外からも有名なトミ・クルーズやソティーブン・セガールそれにオーノルド・シュワルツェネッガー、特撮技術スタッフ陣が来る。
お願い。麗人がこれに出ないとお母さんも出れない。そうするとお母さんの女優としても立場が厳しいものになる」
「駄目だ、お母さん。君の立場は良く分かるが、君の為に麗人の高校生活を犠牲にする訳には行かない」
「おかあさん、その映画ってどのくらいの期間かかるの?」
「撮影だけで約四か月。編集とかして公開するまでには更に三ヶ月位かかる。勿論麗人が高校生という事も考慮して主役で有る麗人の出演場面は夏休みに集中して行う」
「準備期間は?あれだって結構長いだろう」
「…夏休みの前の土日を利用して行う。二学期にも少し掛かる」
「駄目だ。絶対に駄目だ。私は麗人の出演に反対する」
それからも話が付かず午後十時になって
「お父さん、お母さん、私達学校が有るからもう寝るね」
「悪かったな」
「ごめんね」
俺と美麗が二階に上がると
「お兄ちゃん、部屋に行って良い?」
「ああいいぞ」
美麗が入って来るとドアをしっかりと閉めてからローテーブルの前に座った。
「お兄ちゃんはどう考えているの?」
「俺は出ない。前回もそうだけど、今回の件だって、お母さんの出演条件が、俺が出演する事になっている。
今回のスポンサーだけでなく、他のスポンサーだってお母さんの出演条件を同じ事にすれば、俺の高校生活は無くなってしまう。
お母さんの立場は分かるけど、俺は自分の人生をお母さんの為に犠牲にしたくない」
「…そんな事みんな分かっている。その上でお母さんはお兄ちゃんに頼んでいる。お兄ちゃんは本当にそれでいいの。
私は、お兄ちゃんが芸能人になろうが高校生のままだろうが、私はお兄ちゃんが大好き。
誰が何と言おうと私はお兄ちゃんを誰にも渡さない。お兄ちゃんと一緒に生きて行く。
今、私達がいるのはお母さんとお父さんがいるから。両親がいなかったら私達はいなかった。お兄ちゃんも私もよ。
そしてお兄ちゃんの美しさや私の美しさも全て両親から受け継いだもの。今の生活だって、両親が頑張って仕事をしているから。
私はお兄ちゃんにお母さんの犠牲になって欲しいなんて欠片も思っていない。決める事の意味は全てお兄ちゃんの心の中にある。
私はもう寝るね。お休み大好きなお兄ちゃん」
「美麗…」
俺は、お母さんの手伝いをする事が嫌なんじゃない。普通に高校生活をしたいだけだ。大学に行って好きな勉強をしてお父さんの様に社会に役立つ人間になればいいと思っている。
美麗はお母さんの犠牲になるなんて気持ちじゃ手伝わなくていいと言った。じゃあ、美麗はどんな気持ちでお母さんの手伝いをすればいいと言うんだ。
俺に高校生活を捨てろって言うのか。そんな事思っていないだろう。じゃあ、美麗は何が言いたかったんだ。
高校生活を送りながらお母さんの手伝いをする。そんな事本当に出来るのか。
この日は夜遅くまで寝る事が出来なかった。翌朝、午前六時半に起きて行くとお父さんはもう出勤していた。美麗はダイニングにいる。お母さんの顔はすぐれない。あの後もお父さんと言い合ったんだろう。俺の所為だ。
「おはよ、美麗、お母さん。俺昨日考えたんだ。まだ引き受ける訳じゃないけど、三月に会った人達の様な、今回の映画のプロデューサー、監督さん、脚本家、美術や技術のスタッフと話す機会って持てるかな。急いでいるみたいだけど、土日で出来れば話したい」
「麗人」
「お兄ちゃん」
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話中に、聞いたような名前の方が出てきますが、気の所為です。
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